ヴィーガン料理の可能性を広げた「SUNPEDAL」YOKOのフードクリエイション
注目を集めるヴィーガンをはじめとした菜食主義。ストイックなイメージからトライできずにいた人も“健康的な食事で免疫力をあげたい”“気候変動や環境破壊が気になる”という意識の変化から、食事の選択肢として取り入れる“ゆる菜食主義”として急増中! ヴィーガンケータリング「SUNPEDAL(サンペダル)」のオーナーYOKOさんのクリエイティブに対する想いに迫る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年1・2月合併号掲載)
ヴィーガン料理の楽しみはクリエイション
ファッション業界の撮影やイベント時のケータリングで「また絶対に食べたい!」「ヴィーガンがこんなにおいしいとは知らなかった」と話題を集めているのが、サンペダルを主宰するYOKOさんの料理だ。美しい色彩に彩られた料理の数々に、誰もがひと口食べて驚く。エキゾティックなスパイスの香りと、やわらかな甘味、コクのある旨味。もっともっと、と手が伸びて、どんどん食べてしまう。ヴィーガン料理は物足りないという印象があっという間に払拭されていく。動物性の素材だけでなく砂糖も使われていないけれど、信じられないほどの満足感がある。興味深いのが、ヴィーガン料理には必須と思われる擬似肉を使わないこと。
「いかにお肉に近づけるか、ということは目指してはないので、大豆ミートは使いません。否定しているのではなくむしろ好きで、プライベートではよく食べています。だけどサンペダルとしてクリエイトするうえで、再現ではなくゼロから作りあげたいという気持ちがある。同じ理由で砂糖やメープルシロップ、アガベシロップといった精製された加工品も使わず、代わりに栄養のあるデーツやフルーツなどを使います。これなにでできてるの? と思われる料理は、やっぱりワクワクドキドキしてもらえる。それがモチベーションなんです」
YOKOさんにとっては、料理はクリエイションなのだ。「ヴィーガンになる前はチーズの輸入会社で働いていました。本当に好きですごい量を食べていましたが、私にとってのチーズの魅力は、味やフレーバーが予想できないところでした。年代や産地によっての違いや、香りと味のギャップがかなりある。ヴィーガンフードにも同じ楽しみを感じていて、ハーブやスパイスを駆使して、一見なにかわからないけれど食べてみたらおいしい! というものを作りたいんです。ヴィーガンを始めたばかりのときは食べたいものを我慢することもありましたが、嗅覚や味覚が敏感になっていくにつれて、それ以上にヴィーガン料理をクリエイトする楽しさが勝りました。だから我慢という感覚はなかったんです」
ヴィーガンというジャンルを選択肢にしたい
もともと幼少の頃から母親の健康志向の影響を受けて玄米菜食が身近だったこともあり、大学卒業後に留学したイギリスでフレキシタリアンに。そこからさらに、卵や乳製品も口にしないヴィーガンになったきっかけは、ヴィーガンレストランで働いたことだった。「働くからといってヴィーガンになるつもりはなかったのですが、お客さまに聞かれたときに自身の体験から出る言葉で説明できないのが歯痒くて。入社して1、2カ月後にはヴィーガンになっていました。当時はまだ世の中にそこまで浸透していなかったから、宗教とかスピリチュアルな雰囲気も強かったし、レストランも全然なかった。周りの人たちから、受け入れられ難い感じもありました。私ももっとストイックにやらなきゃって思い込んで、革製品なども避けていましたね。ただ、当時から誰かが肉を食べることを否定はしたくなかった。人それぞれでいい。イタリアンとかフレンチみたいなジャンルの一つとして捉えてほしい。そのためには、双方が理解しあって受け入れることが大事だと思うんです」
現在は、ヴィーガン料理を出すレストランもかなり増え、世の中の理解度も深まった。「時代が変わったなとしみじみ思います。多様性重視の社会になり、レストランなどの選択肢も増えました。ただ、今は自分が求めるものを食べることが自然だと思っています。今の私は、何を体が求めているかがわかるから、ヴィーガン食で満たされているけれど、それも人それぞれで、自分をケアできるのは自分だけ。自分の心身の健康と心地よく生きることをいちばんに考えて、その時々で選択すれば良いと思うようになりました」 以前よりも柔軟に考えられるようになったのは、彼女自身がヴィーガンとして素材と真摯に向き合ってきたからかもしれない。
(左)サンペダルのアイコン的スイーツである「エナジーボール」。タイガーナッツやきな粉、はとむぎなどの穀物とドライフルーツなどがブレンドされている。(右)旅からインスパ
イアされて作り上げる「ナッティチーズィーケーキ」。季節の食材を使用し、ゲリラで通信販売も。
もっと素材を探究していきたい
「新型ウイルスによって世界中の人の暮らし方が変わりましたが、私も改めて食について考えるようになりました。食がいかに大きな存在だったかということを感じましたし、そのなかで自分が料理を楽しみ続けるためにどうしたらいいかなと。今までやってきたことを単調に続けるよりは、オンラインショッピングにトライしてみたり、時代の波に合わせてフレキシブルに臨機応変に生きていきたいと思っています」
常に自分にとってワクワクすることを模索しているYOKOさんにとって、今、いちばん気になることは素材なのだそう。「おいしいと感じた素材を生み出す農家をはじめとした生産者の方々に、実際に会いに行くようになりました。どんな土でどんな環境で育ったのかという根底を知りたくて。海外に行けなくなって日本国内を旅するようになったら、その面白さに気づいたということもあります。風景が違ったり、湧き水や作物の味が違ったり。移住して面白いことをやっている人もたくさんいる。東京とは違うエネルギーを受け取って、東京で料理やデザートに反映させるのも楽しいんです。今後も月に1、2回、地方の生産者や、面白いことをやっている人に会いに行こうと思っています」
二拠点生活を視野に、受け入れてもらえる場所を探しながら、無理のない範囲で地方で料理イベントなどの企画も考えているそう。「ヴィーガンフードをクリエイトする楽しみはこれからも追求していきますが、旅先で縁があっていただいたものは、動物性であっても拒否したくないなと思うようになりました。ときには知り合った農家の方にいただいた卵や、作ってくれた鰹だしを使った料理をありがたくいただくこともあります」
自身が身をもって感じたことを人に伝えたり、人と人を繋いだり。食を通してできることを探究していく。そこにはサンペダルという屋号に込められた意志も感じられる。「ペダルを漕いだら前に進むのみ。私は常に挑戦をしたい、楽しんでいきたいっていう気持ちがあります。仕事は堅苦しく考えるよりも、振り幅を広く、半分遊びのように考えたい。うまくいくかなって思いながら挑戦し続けることに興奮するタイプなんです。サンペダルを始めたとき、ヴィーガンじゃない人たちにケータリングが受け入れられるかわからないなかでのチャレンジでした。でもだんだんといろんな人が応援してくれるようになってきて今がある。一人ができることは限られているけど、私のヴィーガン料理で食の可能性が多くの方に伝わったらいいなと思っています」
心も身体も地球も喜ぶ
魅惑のヴィーガンフード
Photos:Kishimari Interview & Text:Shiori Fuji Edit:Shiori Kajiyama