グラフィックデザイナーが語ったロゴの秘密 | vol.3 クリエイティブユニット「KIGI」
店の看板やポスター、商品、パッケージ......ちょっと見渡せばあちこちにロゴがあふれている。 ロゴは私たちにとってどんな存在なのだろう。どうやって作られているだろう。 日本を代表するグラフィックデザイナー 5人にロゴの裏側と制作秘話について話を聞いた。 vol.3 はクリエイティブユニット「KIGI」の植原亮輔と渡邉良重。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年10月号掲載)
ブランドの根っこにあるものを素直に表現すること
クリエイティブユニット「KIGI」の植原亮輔と渡邉良重、それぞれの持ち味を生かしながら広がるロゴデザインの可能性について聞いた。 ──二人はロゴをどう定義しますか。 植原亮輔(以下、U)「日本でロゴがある意味〝文化〟になったのはここ約20年じゃないかと思っています。定義するにはさらにもう少し前から説明しないといけない」 渡邊良重(以下、W)「文化?また不思議な言い方だね」 U「あくまで僕の考えだけど、ロゴについて語るなら、ブランディングについても話さないと成立しないんです。5、60年前から振り返ってみると、日本のグラフィックデザインは基本的には広告が軸になっていました。企業から依頼を受けて新聞、雑誌などの広告、駅や電車の中に貼る宣伝用のポスター、CMなど。パッケージデザイン、ブックデザインもありますが、それらは専門家もいました。ロゴもロゴ専門の会社があり、デザイナーの仕事としてはどちらかというと広告に比べて責任は重い割に目立たない仕事だったのかもしれません。ロゴは〝誰かがつくったもの〞で、好きだろうと嫌いだろうと使わなくてはいけないので、デザイナーは広告の隅に小さく花を添えるように置くことが多かった」──ロゴは注目されていなかったと。
U「ロゴは企業の努力によってよく見えてくるものでもあるので、企業が文化をつくらないとロゴも文化にならない。そういった意味でいうと、多くの日本企業は高度経済成長の頃は文化をつくる過程で精一杯だったと思うので、当然、デザインもきれいで際立ってよく見えるロゴは数少なかったんだと思う。今思いつくのはソニーや資生堂など。また、DCブランドブームの前兆としてVANなどのブランドがブルゾンのフロントやバックにロゴを大きく掲げてそれを着たユーザーが街を歩き回ることで強く印象付けてブランド価値を上げていく。それが一つの社会現象となり、80年代のDCブランドブームでは多くのブランドが真似するようになりました」
──ロゴとブランド価値が結びついたんですね。
U「企業と共に歩みながらブランドを育てて広告をつくることは以前からあったんだけど、ブランドを起こすところからデザイナーが加わってロゴから何から何までデザインし、広告まで広がっていくということがその頃にはあまりなくて、ブランドのデビュー戦略としてロゴをうまく使い、VIとして展開していったのは20年くらい前からでは。一つの例としてドラフトの宮田識さんが手がけ、僕らが組むきっかけとなった『Caslon』という仕事を挙げてみます。宮田さんは今でいうブランディングという仕事を、ブランディングという言葉が出てくる前から行っていて、その仕事への意識の延長線上にCaslonという仕事が生まれました」
──他に印象的だったロゴは?
U「その頃に最も輝いたのが佐藤可士和さんが手がけたSMAPのロゴ。SMAPは企業ではないけど、ある意味一つの企業くらいの影響力があったので、そこに目をつけてアルバムを発売するにあたり、グループ名をロゴ化したところが一つのアイデアなんです。そしてそのロゴがあるルールを保ちながら緩やかに劇的に変化していくところが面白く、ブランドデザインの可能性を広げていったのだと思う」
──徐々にブランディングという考え方が浸透していったんですね。
「ロゴを語る上でブランディングが欠かせないと言ったのは、ロゴはブランドの思想や哲学をよく理解しないとアウトプットできない。僕たちはよく、クリエイティブを木にたとえて話すんだけど、デザイナーは一本の木が土の中に張った根っこまで見る必要がある。企業が何を考えているのか、どういうブランドになりたいのかをきちんと理解して、ロゴを作ることが大事なんです」
──企業に寄り添うことが重要?
U「目的にもよりますが、クライアントの想いや未来の姿をヒアリングしたものを自分たちのフィルターを通して表現します。重要なのはきれいなアウトプット=素直に表現すること。ただ、企業によってはデザイナーの作家性を生かしてロゴを作ってほしいというところはある。良重さんが手がけた『AUDERY』とか」
W「AUDERYは文字だけで組んだロゴもあるんですが、後ろ姿の少女、オードリーの線画のロゴがとても人気で。クリスマスなどイベントごとに手にしているいちごが花束になったり、いろんな場所に出かけていったりする期間限定のパッケージを作っています。柔軟性が高いんですね。これは特殊なケースで、デザイナーが私だけなのでできることでもあるんです」
U「良重さんはこうしたイラストの印象が強いので表現が際立ってますが、キギはどちらかというと、コンセプトを整理したり、店名から関わることも多いんです」
──キギのロゴの秘密は。
U「縦と横の線で構成されている〝キ〟と〝ギ〟いう文字が図形のように見えたらおもしろいなと思って。日本語にこだわったのは、日本発信のクリエイティブユニットであり、海外の人が見た時にこれは文字なのか単なる図形なのか、そこに面白味を感じてもらえないかな?と」
W「周りにはアルファベットのロゴが多いですよね。響きが素敵でも意味はなんだろう?ってよく考えます。その点日本語はイメージしやすくていいですね」
Interview & Text:Mariko Uramoto Edit:Saki Shibata Sayaka Ito