イタリアワイン、家族の物語 【Vol.6】「Braida」バルベーラのブドウに愛を注いで | Numero TOKYO
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イタリアワイン、家族の物語 【Vol.6】「Braida」バルベーラのブドウに愛を注いで


日が暮れるのも早くなり、秋の気配が漂うこの頃。このくらいの気候になると、恋しくなるのが赤ワイン。ワイン造りに情熱を注ぐイタリアの家族にフォーカスし、月1回でお届けしているワイン連載の第6回は、ピエモンテ州 「Braida(ブライダ)」のストーリー。 


美食の土地で生まれたブドウ



このところのローカルブームで日本各地の特色を押し出した食や風習などが注目されているが、同じく北から南へ細長い国、イタリアも土地ごとに違いを持っている。州の数は41、その中にコムーネと呼ばれる市町村があり、その数は8000以上にものぼるという。今回紹介するワイナリー、ブライダがあるのは北西部に位置しフランスやスイスに隣接するピエモンテ州で、州都はトリノ。スローフード発祥の地でもあり、ネッビオーロ種によるバローロやバルバレスコといった上質な赤ワインやトリュフの産地としても知られている。
 そのピエモンテ州の南にあるロッケッタ・ターナロという人口1400人余りの小さな村が、ブライダの本拠地。自然公園があるほど豊かな自然に恵まれ、古城跡、教会など歴史を感じさせる建築も有している。また夏は暑く、春秋は適度に暖かく、冬は寒いという大陸性気候で、砂質と粘土質が同程度の土壌とワイン造りに適した環境。

幸せを生活の理念に掲げた父の教え



ブライダの名を現在に至るまで確固たるものにしたのは、この地域で栽培されているブドウ品種、バルベーラの改革だ。それまで酸が強く敬遠され、安売りされがちだったこの品種を、畑の改良とオーク(樫の木)樽=バリックによる熟成で、味わい深いワインへと昇華させ、現在では黒ブドウにおいてはイタリアで1、2を争う生産量を誇る品種となっている。

この偉業をやってのけたのが、ブライダの創設者のジャコモ・ボローニャ。プロの大工で広大なブドウ畑も所有していた彼の父、ジュゼッペのニックネームを冠したワイナリー、ブライダを1961年にスタート。1982年にはこのバルベーラの驚くべき革命を成し遂げた。「大きくて、広くて、風通しの良いセラーを建てて、たくさんの美しいボトルで飾り、あるものは立てて、あるものは寝かせて、春夏秋冬の夜に、歌も音もなく、女もなく、ワインもなく、自分より10年くらい長生きするはずのあの人のことを、優しい目で考えてみよう」とまるで詩人のような夢を持ち、幸せを生活の理念に掲げ、ワイン造りを着々と推し進めていたが、1990年のクリスマスに志半ばで帰らぬ人となる。

そのブライダを受け継ぎ、現在の発展させているのがジャコモの子どもたち、姉のラファエッラと弟のジュゼッペ。「父、ジャコモは、寛大で好奇心旺盛、そしてワイン生産者としては非常に真面目で選りすぐりの”大らか”な人物でした。私たち家族も同じです。偉大なワインは偉大な土壌から生まれなければならないという信念を持っており、ピエモンテのブドウ栽培に理想的な土地を受け継ぐことができたのは幸運だったと思っています。ボローニャ家が愛してやまないバルベーラを中心に、絶対的な品質を実現することがブライダのセラーの目標です」


陽気で外向的で関係的な魂を持つ姉のラファエッラは醸造を、内向的で勤勉で数学的な弟、ジュゼッペは畑を担当する。異なる性質を持つ二人は互いにリスペクトと愛でつながり、お互いを補い合い、一緒にいる必要があると感じている。「自然と触れ合い、ワインを通じて世界の洗練された味覚や料理と触れ合いながら、一歩一歩夢を実現していくことが、私たちの人生に満足を与えてくれるのです」


エノツーリズムが叶うホテルも経営

ブライダのワイナリー敷地内にイ・ボローニャというトラットリアを営んでいるが、そんな姉弟が新たに今年オープンさせたのが「ブライダ ワイン リゾート」。近年、ピエモンテ州はワインツーリストが訪れるべき最高の目的地のひとつとして注目を浴びているが、このホテルはワインを巡る観光=エノツーリズムを体験できるB&B(ベッド&ブレックファースト)。


700年前に建てられた典型的なピエモンテの農家を復元し、機能的かつ趣味の良いスタイルに改装した空間は、周囲をブドウ畑や自然林が囲み、まさに安らぎのオアシスといったところ。美しい尾根の位置するため、村の美しい景観も堪能できる。また熟練したソムリエが常駐、ワインを味わいながらセラーの歴史を知ることができる。屋外のテラスで、ブドウ畑を眺めながらのエキサイティングなテイスティングも楽しめるのだとか。


悲しみを力に変えて

今年はブライダの60周年。現在の困難な時代の変化について伺った。「コロナウイルスで友人が亡くなるなど、無力感に涙しました。けれどその涙はすぐに『やりたい』という気持ちに変わり、力を与えてくれました。すべての農家がそうであるように、私たちも常に抗えない自然のもと、不確実性と共存してきました。世の中すべてを停止せざるを得ない状況でしたが、そんななかでも私たちの幸運は、自然と触れ合いながら仕事ができることでした」

二人は不屈の精神で今年新たにブドウ畑をつくり、再出発を記すかのように、オークの木も植えたのだそう。「ブドウ畑を作ることは、勇気と希望を示す古代からのジェスチャーであり、再び土地に賭け、未来を耕すことを意味します。そして100年から150年後、オークの木が育ち、森となるとき、私たちの子孫がその成果を十分に楽しむことができるでしょう。これは長い間大切にしてきた夢でもありました。なぜなら父が直感し、バルベーラのブドウに魔法をかけたのは、バリック(オーク樽)を賢く使うことだったからです」

推しのワイン、造り手のおすすめペアリング



Barbera d’Asti DOCG Bricco dell’ Uccellone

バルベーラ ダスティ ブリッコ デル ウッチェッローネ


バルベーラ種のブドウを100%使用し、オーク樽で12ヶ月、瓶内で12ヶ月熟成。ガーネット色を帯びた濃いルビーレッド色。ミントやバニラ、リコリスなどの数種のスパイスをベースに、赤いベリー系の独特な芳香が際立ちリッチで複雑、濃厚で厚みのある香り。フルボディーで並外れたストラクチャーがありバルベーラ種と樽の完璧な組み合わせが柔らかさと上質感、アロマの持続性の長さを生み出す。750ml ¥9,000(参考小売価格)

ラファエッラから、このワインに合うおすすめ料理:パン粉をまぶしたラムチョップなどの肉料理にぴったり。ヴィーガンの方には大豆とポテトを使ったシチューなどもおすすめ。

Moscato d’Asti DOCG Vigna Senza Nome

モスカート ダスティ ヴィーニャ センツァ ノーメ

1990年から収穫をスタートしているモスカート ビアンコ種のブドウを100%使用した、アルコール度5.5%の甘口微発砲ワイン。輝くような麦わらイエロー。美しい泡は口当り滑らか。新鮮な果実、オレンジの花、薔薇やムスクといった多様な印象を持った香りは、フレッシュさが際立つこのブドウ品種由来のアロマティックで好ましい甘さが拡がる。食前酒やデザートワインとして。750ml ¥2,400(参考小売価格)

ラファエッラから、このワインに合うおすすめ料理:このワインと同郷の山羊乳製チーズ、ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノとの相性が絶妙です。ヴィーガンの方やデザートと楽しむときには、アップルシュトルーデルをお試しください。

購入可能な主なECサイト
バルベーラ ダスティ ブリッコ デル ウッチェッローネ 
トスカニー
フェリシティー

モスカート ダスティ ヴィーニャ センツァノーメ 
トスカニー
フェリシティー

Foodliner

TEL/078-858-2043

Edit & Text:Hiroko Koizumi

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MAY 2024 N°176

2024.3.28 発売

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