過去へ未来へ。小説&漫画で叶うタイムトラベル
もしも時間旅行ができるとしたら、あなたはどこへ行くのだろう。遠い昔へ? 近い未来へ? 時空を超えて無限の可能性に導いてくれる作品を手にすれば、その旅の一端を感じさせてくれるはず。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年7・8月合併号より抜粋)
1.『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』
パラドクスの中で動き出す、家族との時間
時間旅行が実現した世界で、タイムマシンの修理工として働く「僕」。個人用タイムマシンに乗り、時間のはざまに引きこもるように暮らしていたが、あるとき「もう一人の自分」を光線銃で撃ってしまう。陥ったタイムループの中で、失踪した父との過去に意図せず向き合うことになる「僕」の物語は、時空を超えた家族小説として思わぬ方向へと展開していく。やり直せない過去と人はいかに向き合うべきかを考えさせられるタイムトラベル作品。
チャールズ・ユウ/著 円城塔/訳(早川書房)
2.『帰ってきたヒトラー』
現代に蘇った“悪人”が巻き起こす社会風刺
ヒトラーが現代に甦り、社会風刺をネタとするモノマネ芸人と誤解されながらもスターダムにのし上がるという問題作。ヒトラーの一人称の語り口で物語は描かれるのだが、彼をモノマネ芸人だと思い込んでいる人々との会話が何ひとつ嚙み合っていない様子は喜劇的でもありながら恐ろしさも感じさせる。時の流れが生む変化だけでなく、決して風化しない価値観をも描き出す本書は、時間でも癒やせないものがあることを痛感させる。
ティムール・ヴェルメシュ/著、森内薫/訳(河出文庫)
3.『嘘と正典』
歴史や過去を変えることは、善か悪か?
「時間」と「歴史」をテーマにした6編を収録した作品集。冷戦時代のモスクワを舞台に、CIA工作員が時空間通信の技術を使って共産主義の消滅を企む表題作は、スパイ小説としても楽しめる内容でありながら、歴史における偶然と必然を描き出す物語にもなっている。同書に収録された時間旅行に挑むマジシャン家族を描いた「魔術師」、西洋史を題材とした「時の扉」も、過去を改変することの是非を考えるきっかけを与えてくれる。
小川哲/著(早川書房)
4.『テルマエ・ロマエ』
時空を超える古代ローマ人の“風呂愛”
古代ローマの浴場技師ルシウスを主人公に、時空を超えたドラマを描いた本作。現代日本へとタイムスリップするたびに温泉や最新の浴室技術を目の当たりにして驚愕するルシウスの姿は、私たちが当然と思っている風呂文化の奥深さを実感させられる。また古き良きものを愛する彼が物語の後半で放つ「歴史や伝統は金銭で購えるような薄っぺらいものではないのだぞっ!?」という言葉は、時だけが生み出せる価値の尊さも教えてくれる。
全6巻 ヤマザキマリ/著(KADOKAWA)
5.『バビロンまで何マイル?』
高校生コンビが目撃するヨーロッパ歴史悲劇
別の時代へと移動できる能力を、ひょんなことから手に入れてしまった高校生の月森仁希と真船友理。ルネサンス時代のバチカンでルクレツィア・ボルジアと出会った二人は、思いもよらぬ形でイタリア半島の騒乱に巻き込まれていく。愛憎渦巻くボルジア家の悲劇を描いた作品は多々あるが、市井の人として歴史を間近に見つめる本作は良質なヒューマンドラマとなっている。ほのぼのとしたタッチながらもイタリア史をしっかり学べる一冊。
川原泉/著(白泉社文庫)
6.『レディ&オールドマン』
時を超えて出会った、最高の男女バディ物語
1960年代のロサンゼルス、元ゴロツキが集まるダイナーの娘シェリーは100年の刑を終えて出所したという不老不死の青年ロブと出会う。不老不死の謎を知る双子の弟の行方を探るために運び屋コンビを組む二人だが、市警と裏社会が絡んだ陰謀に巻き込まれていく。前世紀の価値観にとらわれたままのロブと、自立心が強い新時代の女であるシェリー。二人が最高の相棒となる様子を描く物語は“時を超える”ことの醍醐味も描き出す。
全8巻 オノ・ナツメ/著(集英社)
Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara