マーリア・シュヴァルボヴァー写真集 『FUTURO RETRO』
この現実は、かつて思い描いた未来だろうか。人間の予測には限界がある。でも私たちの想像力が導くのは、単なる先行きだけではないはずだ。スロバキアの俊英が写し出す、“過去でも未来でもない”展望がここに。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2020年7・8月合併号掲載)
誰も見たことのない新しい眺め──どんな時でも私たちは、“未来的な”表現を追い求めてきた。目覚ましい展望、驚くべき体験。ところが現実はいつも、予想をはるかに超えた状況を突き付ける。未来は決して予測できない。にもかかわらず私たちはなぜ、性懲りもなくまだ見ぬ景色を探し続けているのだろう。
1988年生まれのスロバキア人フォトグラファー、マーリア・シュヴァルボヴァー。89年まで続いた共産党体制下の建築物や公共空間に興味を持った彼女は、幼少期の記憶やノスタルジーを投影した独自の表現世界を切り開いてきた。3年前に発表されたデビュー写真集『Swimming Pool』は、社会主義時代の面影を残す屋内プールに人物を配した構図と、独特の色彩感覚で話題を呼んだ。続く今回の写真集では舞台を広げ、無機質な空間に表情もなく佇む人々の姿を写し出す。旧体制の雰囲気が漂うレトロな建築や、統制下を思わせるミニマルな構図の一方で、透き通るようにクリーンなイメージの向こう側に、SF的な未来社会を重ね見てしまうのはなぜだろうか。『FUTURO RETRO』──ラテン語で“未来の過去”を意味する、誰も見たことのない世界の眺め。過去でも未来でもない不可思議なヴィジョン、時間の流れを超えて広がる人間のイマジネーションが、この一冊のうちに無限の奥行きを与えている。
マーリア・シュヴァルボヴァー『FUTURO RETRO』
(青幻舎)¥7,800
デビュー写真集『Swimming Pool』で賞賛を浴び、インスタグラムで30万人以上のフォロワー数を誇るスロバキアの写真家。2014年から直近まで12シリーズの作品を収録した、待望の第2弾写真集。
Edit & Text : Keita Fukasawa