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松尾貴史が選ぶ今月の映画『カツベン!』

映画に音がなかった時代に楽士の奏でる音楽に合わせ、自らの語りや説明で映画を彩った活動弁士(通称、カツベン)。そんな活動弁士を夢見る青年(成田凌)を主人公に送る、周防正行監督による極上エンターテインメント作品。映画『カツベン!』の見どころを松尾貴史が語る。(「ヌメロ・トウキョウ」2020年1・2月合併号掲載)

無声映画ブームが到来するか

無形文化財といわれるものは、人材がいなくなればそこで途絶えてしまいます。古典芸能の場合はまだ型や資料も豊富なジャンルもありますが、それでも再興するのは容易ではありません。

講談の神田松之丞さんが、自らの業界を「絶滅危惧種」と自嘲的枕で笑いを取りますが、東西合わせて100人はいるといわれる講談界です。この映画の題材となっている活動弁士は、関東と関西を合わせても、すでに10人を切っているといわれています。

しかし、映画が映像だけで音声を伴っていなかったときに、その筋書きや登場人物のセリフを説明する話術が隆盛を極めました。最も有名なところでは徳川夢声という人がいました。映画がトーキーの時代となり、彼はラジオでも活躍するようになって、「話術」という言葉からある年代以上の人が連想する、筆頭の人物でもありましょう。「ああ、あの人は活弁士だったのか」と思われる人も少なくないと思います。

この映画に登場する活弁士たちは、もちろん架空の芸人ですが、話術の面白さをバラエティ豊かに演じてくれています。昨年の今頃、活弁士の映画が制作されているという話を聞いたときには、どんな物語になるのか楽しみで仕方がありませんでしたが、期待通りの素晴らしさに仕上がっています。

周防正行監督は『シコふんじゃった。』で学生相撲に、『Shall we ダンス?』では社交ダンスにスポットを当てて再注目を呼ぶ作品をいくつか手がけられていますが、いま無声映画のブームが来るのか、活弁が再注目されるのか、すこぶる楽しみでもあります。

時代劇や落語、演歌の司会など、節回しが特徴的な語りに馴染みがないであろう世代の若い成田凌さんらが、ここまでの形にするのは生半可ではなかったのではないかと想像しますが、活弁指導を務めた本職の片岡一郎さん、坂本頼光さんの功績は大きいのではないでしょうか。そして、劇中、活弁士たちが解説する10本ほどの無声映画は、すべてその時代の世界観を忠実に再現して監督が作り上げた、「新作」という贅沢な内容です。

物語自体も随分と入り込んで登場人物に肩入れしている自分自身が滑稽でした。最後までハラハラさせてくれるサービスたっぷりの展開は名匠の技が活きています。

そして、ヒロインを務めた黒島結菜さんの可憐で純粋かつ勝気な役作りがとてつもなく魅力的で、これからが楽しみな人です。

単なる懐古趣味ではない新しいエンターテインメントとして、楽しんでください。乞うご期待。

『カツベン!』

監督:周防正行 出演:成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、
音尾琢真、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内 豊
12月13日(金)より、丸の内TOEIほか全国順次公開中
www.katsuben.jp/

配給:東映
©2019「カツベン!」製作委員会

Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾 貴史Takashi Matsuo 1960年、神戸市生まれ。TVに始まってラジオ、映画、舞台、落語、「季刊 25時」編集委員、創作折り紙「折り顏」、カレー店の運営など幅広く活躍中。最新刊に『違和感のススメ』(毎日新聞出版)。

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