体験型アートで新たな感覚や価値観を呼び覚ます
闇の中で光を見つめたり瞑想したり、空間自体がアートな部屋や建築を訪れたり…。アートを通じて、自分の中になかった新しい価値観や感覚を目覚めさせて。(「ヌメロ・トウキョウ」2017年11月号掲載)
01: Installation 闇に光を見いだし、 生と死を見つめる 闇は死。光は生。闇の中で生を見つめる体験には、新たな自分への生まれ変わりを感じさせる力がある。「光の館」は光の芸術家として知られるタレルが、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』に着想して手がけた「瞑想のためのゲストハウス」。大広間に寝転び、開口式の天井から日の出・日没の空の光の移ろいを眺める。「心臓音のアーカイブ」は人間が生きた証しとして、世界中の人々の心臓音を保存する施設。闇の中で生命の明滅に耳を澄まし、自分の心臓音を登録することもできる。「洸庭」は、神勝寺 禅と庭のミュージアムに誕生した現代アートパビリオン。舟形のような建物内に進むと、闇の奥に広がる波間にかすかな光が揺らめいている。言葉を超えた禅的アート空間だ。
光のアーティストによる
「瞑想のためのゲストハウス」
ジェームズ・タレル「光の館」(新潟・越後妻有)
タレルの作品世界を体感する滞在施設として第1回「大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ」(2000年)のために造られた施設。(写真)天井の開口部から夕暮れと夜明けの空×光の演出を眺める体験は格別。人気につき予約はお早めに。
住所/新潟県十日町市上野甲2891
TEL/025-761-1090
定休日/水(冬季のみ)
URL/hikarinoyakata.com
Photo: 久家靖秀
心臓音とともに明滅する
光と闇の共振体験
クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」(香川・豊島)
写真はクリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」。心臓音とともに光が明滅する館内の様子。
住所/香川県小豆郡土庄町豊島唐櫃2801-1
TEL/0879-68-3555
URL/benesse-artsite.jp/art/boltanski.html
洸庭/KOHTEI(2016年)Photo : Nobutada OMOTE I SANDWICH
禅寺の敷地内に出現した
現代アートと瞑想の空間
名和晃平|SANDWICH「洸庭」(広島・福山)
設計は名和晃平|SANDWICH、内部のインスタレーションはWOWとのコラボレーションによるもの。(WOWの記事はこちら)
住所/広島県福山市沼隈町大字上山南91 神勝寺 禅と庭のミュージアム内
TEL/084-988-1111(寺務所)
開館時間/9:00〜17:00
定休日/不定休
URL/szmg.jp
体験しました!
田中杏子/Numero TOKYO編集長
「自分の知覚するこの世界は現実?」
「洸庭」の暗闇の中では外界との境界線がなくなって、身体感覚が失われたような錯覚に襲われました。今も五感があやふやになった感覚が残り、自分の知覚するこの世界が現実なのかどうか、疑うべきものだということを知ってしまったようです。
02: Stay
アートのパワーに包まれて目覚める
宿泊空間に絵を飾るのは当たり前。では、その部屋自体が展覧会場だったとしたら!? アーティストの矢津吉隆が運営する「クマグスク」は、京町家を改修した宿泊型のアートスペース。展示スペースがそのまま宿泊の場になり、階段や塀にも漆作家や染色家の仕事が。「道後オンセナート2018」は、日本最古級の活気あふれる温泉街で「アートにのぼせる」名物企画。ホテルや旅館の客室などにアーティストが大胆な空間演出を施し、街の各所にパブリックアートも出現する。
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
温泉×アートの一大フェスを
宿泊型作品で堪能する
「道後オンセナート2018」(愛媛・道後温泉)
蜷川実花ら約20組が参加。(写真)HOTEL HORIZONTAL 蜷川実花×道後プリンスホテル「TSUBAKI」
会期/開催中〜2019年2月28日(木)
住所/道後温泉および周辺エリア
お問い合わせ/道後オンセナート実行委員会事務局
TEL/089-921-6464
URL/www.dogoonsenart.com
アート展と宿が融合。
美術展の中で一夜を過ごす
KYOTO ART HOSTEL kumagusuku(京都)
矢津吉隆が代表を務める宿泊型アートスペースのプロジェクト。今年秋からは新たな企画として写真家の澁谷征司による「A CHILD」展を開催予定。宿泊のほか展示観賞など詳細はサイトを参照のこと。
住所/京都市中京区壬生馬場町37-3
TEL/075-432-8168
URL/kumagusuku.info
体験しました!
美波/女優、アーティスト
「また帰りたくなる場所」
クマグスクは異空間だけど、安心する空間。毎朝日課のように矢津さんや宿泊者の方々とお話ししながら、おいしい朝ごはんをいただける。芸術ってもっと身近なものなんだと感じられて、また帰りたくなる場所です。
03: Architecture
建築を訪ね、
新たな心身の感覚を手に入れる
反転するのは世界か、はたまた心と体の感覚かーー。巨大なすり鉢状の敷地に奇妙な建造物が林立し、遠近感や平衡感覚を揺さぶる。荒川修作+マドリン・ギンズによる「養老天命反転地」は、構想30年を経て生まれた「肉体を再認知させるための場」。その都市版のような「三鷹天命反転住宅」は、かの瀬戸内寂聴をして「極彩色の死なない家」と呼ばしめた集合住宅。摩訶不思議な造形や波打つ床などの刺激的空間を体感すれば、建物を出た後の世界が一変する?
© 1997 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.
平坦な日常を反転する
奇想建築テーマパーク
荒川修作+マドリン・ギンズ「養老天命反転地」(岐阜・養老町)
来場者自身が全身でバランスを取りながら点在する施設を体験し、身体の持つ可能性を発見するための建築作品にして巨大な環境アート装置。
住所/岐阜県養老郡養老町高林1298-2 養老公園内
TEL/0584-32-0501(養老公園事務所)
営業時間/9:00〜17:00
定休日/月、年末年始
URL/www.yoro-park.com
photo by Masataka Nakano Reversible Destiny Lofts Mitaka – In Memory of Helen Keller, created in 2005 by Arakawa and Madeline Gins, ©2005 Estate of Madeline Gins.
人間の可能性を解放する
常識破りの“建もの探訪”
荒川修作+マドリン・ギンズ「三鷹天命反転住宅」(東京・三鷹)
「死なないための家」をコンセプトに建設された共同住宅。一部を教育と文化発信の場として運営し、見学会やイベントを開催。詳細はサイトをチェック。
住所/東京都三鷹市大沢2-2-8
URL/www.rdloftsmitaka.com
Direction & Text : Shinichi Uchida Edit : Keita Fukasawa