墨田区民に聞く、東京イーストサイドの内部感情【街活!東京ローカル】第5弾 | Marina Oku
Marina Oku

墨田区民に聞く、東京イーストサイドの内部感情【街活!東京ローカル】第5弾

 

 

縁結びの今戸神社を後にし、隅田川沿いを歩く。

 

隅田川を境にして、こちらが台東区であちらがNの住む墨田区だそうだ。

 

「隅田川の『すみだ』は墨田区の『すみだ』が由来なの?」と聞くと、「さあ…?」との返事。とくに考えたこともなかったらしい。

 

でも多分、墨田区の『すみだ』は隅田川の『すみだ』が由来なんじゃないのか、と自説を唱える私。

 

「でもなんで漢字が違うんだろう?」と言うと「隅田川は別に墨田区の人間だけのものじゃないぞってことで字を変えたんじゃない?」とN。なるほど。

 

 

私の生息地である東京の西側からすると、東側の人間たちの動きはどうなっているのかが全然想像できないから、東側のNを捕まえてここぞとばかりに質問する。

 

「台東区とか、墨田区とか、葛飾区とか、江戸川区とか、荒川区とか、足立区とか、その辺りの人たちの間ではお互いがお互いをどう思ってるの?東京と神奈川と千葉と埼玉が、それぞれお互いに対して持ってる感情があるみたいに、お互いに確執はあるの?」

 

「あー……。えーと、まず、今はその辺りの地域を『下町』って呼んでるけど、本来は『下町』ってお城の周りにあった城下町のことを言うから、本当はこの辺は下町ではないんだよ。江戸城の周りってことだから、神田とかが本来の意味の下町で。『下町育ち、いいですね』ってよく言われるけど……江戸城があった当時は、今『下町』って呼ばれてるような地域はみんな田んぼとかだったら、別に昔から代々そこに住んでる人たちっていうわけでもない。遡ってもたかだか100年くらいの話だから、今住んでる人はほとんどの人がほかから来た人たちの集まりだよ。『浅草で職人やってます』っていうんじゃない限り、そこの土地の人っていう感じでもないよね。だから、『ちょっと前まで田んぼばっかりの田舎だった』みたいな意識はあるかな。で、江戸城に近い方が都会っていう感覚だよね。だから、一番都会なのは上野がある台東区」

 

……っへーーー!!!

 

そんな生活感情があるなんて、初めて知った。

 

「じゃあ墨田区は?」

 

「墨田区は錦糸町とかがあるからまだ栄えてる方かな。荒川区もまあまあ……尾久のあたりには住んでもいいなって思ってる、ほどよく下町感があって」

 

「じゃあ葛飾区は?」

 

「葛飾区は柴又とか有名なところもあるけど、まあ東京の端っこだから田舎だよね」

 

「足立区は?」

 

「足立区は田舎。この前まで田んぼばっかりだったところっていうイメージ。東武が伊勢崎線をスカイツリーラインっていう名前に変えたけど、路線がそのくらいしかなくて交通の便があまり良くないんだよ。……江戸川区?江戸川区も田舎」

 

 

近隣区民を容赦なく田舎呼ばわりするN。

 

…………驚いた。東京の向こうでそんな攻防が繰り広げられていたなんて。

 

正直、Nからは墨田区民の身内びいき感を感じずにはいられなかったが、とりあえず、東京駅を起点にして近い方が都会、遠い方が田舎、という感覚らしい。

 

どっちが都会でどっちが田舎かという感情が、こんな狭い東京の一部で渦巻いているなんて……。

 

ついつい「滑稽だな」と高みから眺めてしまいそうになるが、よくよく思い返すと、私も原宿に住んでいたときは、これまで住んで来た池袋、早稲田、下北沢、目黒のどこよりも都会に住んでいる、という意識があったではないか。危ない危ない。

 

「じゃあ、東側の人たちからすると杉並区とかはどういうイメージなの?」

 

「うーん。まあ、『あるな』って感じ」

 

この、『あるな』というのは、「あ、そういう場所あるよね」という意味で、「知らない」とか「どうでもいい」とかいうニュアンスを含んでいることが察せた。どうやら東側からすると西側は、あまり自分たちとは関係がない、『他人事』な地域になってしまうらしい。

 

……これは私が今まで東側に抱いていた感覚とまったく同じだ。東側にとって西側は「外国」なのだ。

 

 

さらに私は、墨田区の両国に住むNが「自分たちの守備範囲だ」と感じている地域はどこなのかを探ってみようと思い、いろいろな区を挙げて聞いてみた。

 

すると、荒川区までは『こっち』だけど北区は『あるな』、中央区や千代田区は『すぐ近くにある圧倒的な都会』で、それを境に向こう側は『あるな』になるようだった。

 

行動様式を聞くと、生活用品などの買い物は錦糸町で済ませ、洋服などは車で江東区の豊洲にあるららぽーとに行ったり、という感じらしい。「銀座が歩いて行ける距離にあるし、新宿伊勢丹まで行くっていう感じではないよね」とのこと。

 

やはり私が推測した通り、台東区、墨田区、江東区、江戸川区、葛飾区、荒川区、足立区で一括りの共同体感情があるようだ。

 

 

山手線の対岸で繰り広げられている人間模様は、こちらとまったく変わらない。

 

そのことがよく分かった。

 

地図の上で毎日ちょこまか動いてわーわー言い合ってる人間の群衆を想像すると、いくら東京だと都会ぶったところで、かわいい小人たちのリトルワールドに過ぎないなあという風に思えてくるのだった。

 

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“家帰ってからも、リア充”な、原宿のシェアハウスTHE SHAREの住人。 ヘアビューティ業界誌の編集者。『フツーの人』を主役にするコラム&プロジェクト「個性美の解放」ブログを更新中。

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