米原康正キュレーション!中国人アーティスト・チリの初個展 | Numero TOKYO
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米原康正キュレーション!中国人アーティスト・チリの初個展

中国人アーティスト、C.H.I 池磊(チリ)の個展が、渋谷のDIESEL ART GALLERYでスタート。展覧会のキュレーションは、中国と深い関わりをもつ米原康正が手がける。二人の出会いから今回の展覧会の実現に至るまで、二人に話を伺った。

Low_ScienceGatheringHotpot
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HOT POTシリーズより『Science Gathering HotPot』(2011)© C.H.I テーブルを囲む男女。皿こそ並んでいるものの、それぞれ手にしているのは、試験管や虫眼鏡、電話の受話器など、食事には縁遠いものばかり。テーブル中央に置かれた盆の上には、チューブで繋がれた豚の首が巨大な水滴のようなものに包まれている──。 DIESEL ART GALLERYで開催中の展覧会「中國最先端 – CHINESE CUTTING EDGE -」では、中国人アーティスト・C.H.I 池磊(チリ)の作品が展示されている。扱うモチーフや色づかい、題材などすべてが、見る者の視覚を刺激し、出合ったことのない境地に誘う。会場には写真作品だけでなく、イラストレーションやコラージュ、ミクストメディアなど代表作約60点が展示。さまざまな手法で表現する背景には、芸術家でありながら写真家、デザイナー、ロックシンガー、映画監督など、幅広いフィールドで活躍してきた作家の軌跡が見てとれる。

Low_social new religion
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『social new religion』(2014)©C.H.I

絵を描くことが昔から好きだったというチリは、1981年中国の石家庄市(せっかそうし)生まれ。中学生の頃にパンクに出会い、1999年からは正式に音楽活動を開始。中国国内を巡りアンダーグラウンドのトップにまで上り詰め、音楽を通して表現者としての自分を自覚したという。
「中国のアンダーグラウンドの世界では ”do it by yourself(自力でやれ)”という言葉がある。音楽と向き合うことで個性を出すことの重要性を理解したんだ。それによって、それまで確信が持てなかった “自分が表現したいこと” が、初めて分かった気がした」とチリ。

Low_tumbledown splendid performance
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『TUMBLEDOWN SPLENDID PERFORMANCE』(2014)©C.H.I

バンドは2003年に解散したが、自分を表現できる場所を追い求め続けた。2005年からは雑誌『RollingStone』のアートディレクターとして雑誌づくりに携わる。カメラマンが撮影した作品を見て、自らも写真撮影をするように。2007年には美術雑誌『O’ZINE-符号』を創刊、編集長とアートディレクターを兼任した。

本展会場では、バンド時代に制作した初期のフライヤーから現在に至るまで、作品を通して彼の活動の変遷を見ることができる。チリが名付けた会場全体のテーマは “Be a bastard.(くそ野郎になれ)”。表現手法が変わっても、PUNKの精神が作品にも内包されている。

Low_DESIRE IN THE CAN
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『DESIRE IN THE CAN』(2015)©C.H.I

チリにとって、海外では初となる今回の個展。実現に繋げたのは、Numero.jpでもおなじみの米原康正の強い想いだった。チリと同じく、アーティストであり編集者、写真家でもある米原は、10年ほど前から中国に通い、自らも上海で個展を開催し、 “中国版Twitter”ことWeibo(ウェイボー)では236万人のフォロワーを抱えるほど中国と深い関わりを持っている。

二人の出会いは2012年。中国で米原がチリの個展に足を運んだのがきっかけ。
「作品を目の前にして、『すごいなぁ。これは誰がやっているんだろう』と思って、チリを紹介してもらった。コラージュ作品が多かったけど、特に、中国病人と題されたシリーズ“MADHOUSE IN CHINA”が印象に残ってる」と米原。文化的・歴史的背景を共有している中国人同士だから共感できる作品ではなく、外国に出しても充分通用する力強さを、作品から感じたという。

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『THE POOR』(2012)©C.H.I

米原が衝撃を受けたという作品は、中国で実際に起こった6大ニュースをオマージュしたもの。例えば、「THE POOR」と名付けられた作品は、中国の格差社会の象徴。土地開発に伴い政府から立ち退きを言い渡された貧乏な人が、引っ越しする金もなく自殺したニュースからインスピレーションを得ているそうだ。

米原曰く、「中国が高度成長で大きくなればなるほど、そこに隠されたものや軋轢が生まれる。それを見ないフリをしたり、騒ぐだけの人と、そこにある影を拾って表現する彼のような人もいる」。世界を代表する中国人アーティストが海外を拠点に活躍する中、チリは中国に生き、中国のリアルな ”今” を表現しつづけている。

会場には、本展で初公開となる新作「REAL FAKE」シリーズも。女性の肢体や料理のメニュー、オマージュされたお菓子のパッケージなどが切り取られ、ホチキス留めされて、絵の具で色を塗ることで作品を構成している。

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「REAL FAKE」シリーズ Photo:Norihisa Kimura

切り貼りされたそれぞれのモチーフは、すべて中国最大手の検索サイト「百度(バイドゥ)」 から拾ってきたもの。チリは、「この作品ではもう僕は撮影さえしていない。というのも今、写真という媒体はもう自由じゃないんだ。僕が撮影したかどうかは関係なくなっている」と説明する。常に時代を見つめて作品づくりに取り組んでいるチリだが、今回の個展に至るまでの心境を尋ねると、意外な答えが返ってきた。「僕はもう時代から捨てられた人間。でも米原さんのおかげで、もう一度社会に入ってみようかなという気持ちになった」という。

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「REAL FAKE」シリーズ Photo:Norihisa Kimura

その理由について、米原はこう補足する。「中国の改革開放政策は30年経過して、経済は目まぐるしく発展してきた。1980、90、 00年代に生まれた若者たちが今の中国を動かしているといえると思う。チリと同じ80年代生まれは、子どもの頃インターネットがなくて漫画やロックといった音楽も禁止されていた。 90年代になると改革開放政策が始まって、00年以降の若い中国人は改革開放以前と以降の変化を体験していない。チリの世代はこの変化すべてを見てきたと同時に、すでに世代間による価値観の違いが発生していて、社会から取り残されていると感じているのかもしれないね。でも、ローテクだったり、手でつくるものが削ぎ落とされていく中で、なんでもある今だからこそ編集作業が必要になっていくと思う。だから、チリのような人間が必ず必要になると思うよ」

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チリ(左)&米原康正(右) Photo:Norihisa Kimura

米原が架け橋となって実現した今回の展覧会。チリという、一人のアーティストが表現する圧倒的な個性を目の当たりにしてほしい。

「中國最先端 – CHINESE CUTTING EDGE –」
会期/2017年11月17日(金)〜2018年2月14日(水)
会場/DIESEL ART GALLERY
住所/東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F(DIESEL SHIBUYA内)
入場料/無料
時間/11:30〜21:00
休館/不定休
TEL/03-6427-5955
URL/yonerecommendschilei.tumblr.com

Text:Manami Abe
Edit:Masumi Sasaki

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