毎月の生理、デリケートゾーンの悩み……我慢できてしまう小さな不調を見逃していませんか。不調があって当たり前と見過ごしていると、思わぬ病気や妊娠時のトラブルの原因に。連載「まさき先生が導く全女性のためのウェルネスメソッド」では、産婦人科医の安部まさき先生が、専門的な視点から女性の体と心に寄り添うアドバイスをお届けします。

TOPICS
1.毎月のつらさを我慢しないための、治療とは?
2.排卵を止めるお薬「ピル」
3.子宮内に装着⁉︎ 1回で最長5年も有効な治療法
「毎月の生理痛を我慢する必要はなく、放っておくと病気や不妊症のリスクが上がること、だからこそクリニックを上手に利用してほしいというお話を前回しました。(記事はこちら)でも、具体的にはクリニックでどんなことをするの?と気になりますよね。“低用量ピル”や“ミレーナ”という言葉を聞いたことがありますか? 今回は、クリニックでの生理痛に対する具体的な治療法について、詳しく解説しますね」(安部まさき先生)
毎月のつらさを我慢しないための治療とは?
──具体的な治療方法を教えてください。
「痛みの原因物質であるプロスタグランジンを抑える鎮痛剤や、思春期に多い子宮収縮による強い痛みを抑えるブスコバンといった鎮痙薬、低用量ピルなどの飲み薬のホルモン薬、漢方などの投薬治療があります。また、ミレーナという選択肢も」
──低用量ピルには、どんな効果が期待できますか。
「ピルは簡単にいうと、排卵を止めるお薬。妊娠中と似たホルモンの状態を保つことで、脳が『今は排卵の必要がない』と判断し、排卵が起こらないように働きかけます。その結果、ホルモンの変動が少なくなり、子宮内膜も厚くなりすぎず、生理痛の軽減や経血量の減少、月経周期の安定といった効果が期待できます。このメカニズムは、実は自費の避妊用ピルと同じなんです。
確実な避妊効果に加えて、ひどい生理痛や過多月経、排卵痛などの改善効果があり、肌荒れやニキビなどの改善にも効果のあるタイプもあります。
ただし、ピルの服用を避けたほうがいい人もいます。乳がんの治療中の方、血栓症の家族歴がある方、血栓症のリスクが高い方、1日15本以上の喫煙をするヘビースモーカー、前兆を伴う片頭痛がある方、BMIが30以上の方などが該当。クリニックでは必ずチェックリストに記入していただき、リスクがあるかないかを判断します」

──ピルと聞くと、副作用も気になるところ。
「ピルを飲み始めて1〜3カ月は、不正出血や吐き気、頭痛などが少し出ることがありますが、3カ月ほどすると体が慣れてきて、おさまってきます。また、むくみを感じる人もおり、体重増加を心配されることがありますが、実際に大幅な体重増加はほとんど見られません。
心配な副作用としては、血栓症。低用量ピルを使用していない人が発症する率は、1年間に1万人あたり1〜5人程度なのに比べて、3〜9人程度とリスクがやや上がります。また、数年以上の長期内服で、乳がんや子宮頸がんのリスクが少し上昇するという報告もあります。
そういったリスクがある方、心配な方には、プロゲスチン療法(黄体ホルモン療法)という選択肢もあります。黄体ホルモン製剤を毎日飲むことで、ピルと同じように子宮内膜が厚くなるのを防ぎます。ピルに比べて血栓症のリスクが少ないのが特徴。ただし、副作用がまったくないわけではなく、飲み始めの頃に不正出血が見られることもありますが、次第に落ち着いていきます。
ピルによって、むくみや吐き気がひどい場合は、他のピルに変えることも。私のクリニックでは、ピルを飲み初めて3カ月間は1カ月に一度、症状を聞きながら、様子を見て、つらそうなら薬をチェンジすることもあります。効果は人によって異なるため、医師とよく相談して、自分に合う薬を探しましょう」
子宮内に装着⁉︎ 1回で最長5年も有効な治療法
──ミレーナとは?
「子宮の中にT字形の器具を挿入する避妊方法です。T字形の本体の部分から黄体ホルモンが最長5年間、ゆっくり持続的に放出され、妊娠を防ぐことができます。これは、飲み薬のプロゲスチン療法と同じで、子宮内膜を薄く保つ効果があるため、月経困難症や過多月経の改善にも効果を発揮。ただし、子宮内でのみ作用するため、PMSやPMDDのように全身に影響を与えるホルモンバランスが関わる症状には効果がありません。
避妊効果は非常に高く、正しく使用すれば1年間に妊娠する確率は約500人に1人(約0.2%)とされています。使用期限に近づいてくると、出血が増えたり、月経痛が起こることもあり、避妊の効果が低下する可能性もあります」

──器具を挿入となると、大掛かりな手術などが必要だったりするのでしょうか?
「クリニックで専用の器具を用いて子宮の中に挿入するだけ。多少の痛みはありますが、麻酔なしで耐えらえる程度で、そのまま家に帰れます。ただし、2〜3日は下腹部の違和感や痛み、不正出血がみられることも。
懸念点としては、ミレーナが知らないうちに抜け出てしまうこと。特に月経量が多い方では、効果が安定する前に出血によって押し出されてしまうことがあります。また、子宮に奇形がある場合や大きな子宮筋腫がある場合もうまく固定されず、抜け出てしまう可能性があります。さらに、非常にまれではありますが、挿入時に子宮の壁を傷つけてしまう『穿孔(せんこう)』というリスクもあります。ダラダラと出血が続くケースもあるため、装着後は1カ月後、3カ月後、半年後、1年後、その後も年に一度の定期検診が必須。最長5年で新しいものに交換する必要があります」
安部まさき先生からひとこと
「治療の選択肢は複数あり、ピルひとつとっても種類があるので、信頼できるドクターと相談しながら、自分にぴったりの改善策を見つけることが大切です。そのためにも、もっと気楽に婦人科を活用してほしいと思います。“生理痛は当たり前”という思い込みから解放されて、快適な毎日を過ごしてくださいね」
なのはなレディースクリニック
住所/埼玉県さいたま市見沼区東大宮5丁目33-12 柏洋ビル1F
TEL/048-878-8338
公式サイト/https://nanohanalc.com/
Photo:Kouki Hayashi Styling:Ako Tanaka Hair &Makeup:Kei Kouda Interview & Text:Hiromi Narasaki Illustration:Akari Kuramoto Edit:Saki Tanaka
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