【連載】松岡茉優の「考えても 考えても」vol.5 手紙で伝える | Numero TOKYO
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【連載】松岡茉優の「考えても 考えても」vol.5 手紙で伝える

圧倒的な演技力で唯一無二の輝きを放つ俳優、松岡茉優。芸能生活20周年を記念して、Numero.jpでエッセイ連載をスタート。vol.5は気持ちを伝える手段として松岡が一番大切にしているという「手紙で伝える」ことについて。

vol.5 手紙で伝える

いつからか。もしかしたら、物心ついてからずっと、一番気持ちが伝わる手段は、「手紙」であると疑わずに今日まできた。

私にとって最初の手紙は多分、幼稚園や保育園で書く、家の人へ向けたものだったはず。すごく喜んでくれたような気がするが、手紙への信頼が確定した瞬間ではなさそうだ。
遠く離れた親戚がいたから、たまに手紙を書いていたのか? もしくは、初孫だったこともあり、「〇〇さんありがとう」みたいなものを、ときたま書いていたのだろうか。「お手紙書こっか!」という母の声が聞こえるような、聞こえないような……。

なぜ私がこれだけ手紙を信頼しているのか、きっかけはさっぱりわからないけれど、どんな手段より、手紙が一番だと思っている。

まずいただくであろうご意見からお答えしていこう。
「手紙じゃ表情がわからないよ。直接会って、相手の顔を見ながら話すのが一番だろう」
というご意見。確かにおっしゃる通りだが、やや意地悪なものの見方をすれば、直接推しの方はきっと、相手の表情の変化を気にせず、お話ができるのだな、と思う。ビクビク族からの意見を言わせてもらえば「相手の表情が見える」ことは、必ずしも加点ではない。もし、自分の話に退屈してしまい、時計や携帯を気にし始めたら。大事な話を切り出したい場面で、怖い顔をされたら。自分にとってセンシティブなことをお伝えする場面で、ちょっと笑われたりでもしたら。もう、続きなんて話せない。話せたとしても、相手の表情が少しでも柔らかくなるように、言いたくないことや、言うつもりのなかったことを口にして、後悔するのだ。

次に多いであろうご意見はこれだろう。
「やっぱり電話だね。声のトーンで相手の気持ちがなんとなく読めるし、同じ場所に集まる必要がなくて、タイミングさえ合えばいつでもかけられるじゃない」
仰る通りである。ビクビク族からしても、表情が見えない分、気は楽である。しかし、携帯電話を通した声が、自分の声そのものではないことをご存じだろうか? 電話というのは、声の波形をもとに、さまざまな工程を瞬時にこなし、話し手の声に一番近い音声データ相手の電話機に流しているのだ。(機種やアプリによって違うから調べてみてください)
「この人、電話だとちょっと厳しいんだよね」とか、「なんか怒ってた?」などの経験はないだろうか。おそらくそれは、あなたのせいでも、相手の虫の居所が悪かったわけでもない。単に、音声データがそう聞こえさせただけかもしれないのだ。
電話派にはもう一つ聞いていただきたい。電話越しの相手が、何をしているかわからないということ。
ここが電話の危険なところだと思う。

相手が家にいるときであれば、やかんが沸騰したタイミングで、重要な話を切り出してしまっているかもしれない。相手が会社にいるときであれば、苦手な人が前を横切っているタイミングで、お願いごとを切り出してしまっているかもしれない。相手が外にいるときであれば、「あ、今走れば横断歩道渡れるな」というタイミングで、一番伝えたいことに踏み込んでいる懸念もある。相手が何をしているかわからないというのは、話の内容が肝心であればあるほどに、不確定要素が多いように思う。

そこで、手紙だ。
手紙ならば、相手の表情を気にすることもなく、もっと言うと、自分の話したい流れを止められることもない。そして何より一押しなのが、自分と相手の時間を合わせてもらう必要がないこと。相手にとって最適な、今読もうかしら、というタイミングで読んでくれている分、何かに妨げられる心配もほとんどない。もしも途中で読めない状況になれば、一度手紙を置いて、あとで読み返してくれるだろう。たとえ何かの作業中に読み始めたとしても、内容の重さによっては、手を止めて読んでくれるはずだ。
そして想像しているよりははるかに、手紙には気持ちがこもる。私は自筆に自信があるわけではなく、どちらかというときれいなほうではないのだが、なかなかどうして、伝えたい思いが強かったり、はっきりしているときほど、誠実な字になる。きれいではなくても、気持ちの伝わる字が書けるものなのだ。

たとえば書類を見ながらの打ち合わせなら、直接会うのがベストだと思うし、スピードを優先させたいときには、電話には敵わない。私にとって、手紙は奥義である。
ここぞ、というとき。会って話す自信がなかったり、電話で話しても伝わりきらないと思ったときに、手紙がお出ましするのだ。 
今まで、これは手紙だな、と思った場面で手紙を書いて、不服な結果に陥ったことがない。好転しなかったことも、解決しなかったことも、もちろんあったけれど、気持ちだけは伝わってきたと思う。

大丈夫。きっと伝わるから。わかってもらえなくても、あなたが書くことに費やした時間も、思いも、形として残るから。渡す前に写真に残すことを忘れずに、ここぞというときには、手紙という手段を使ってみてほしいと、私は思う。

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Text:Mayu Matsuoka Logo Design:Haruka Saito Proofreader:Tomoko Uejima Edit:Mariko Kimbara

Profile

松岡茉優Mayu Matsuoka 俳優。1995年、東京都生まれ。2013年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演し、一躍名を馳せた。16年に映画『ちはやふる 下の句』、『猫なんかよんでもこない。』で第8回TAMA映画賞 最優秀新進女優賞を受賞し、期待の若手俳優として注目を集める。18年、第42回日本アカデミー賞にて『勝手にふるえてろ』で優秀主演女優賞に、『万引き家族』で優秀助演女優賞に輝く。19年に『蜜蜂と遠雷』で、20年に『騙し絵の牙』でも同賞優秀主演女優賞を獲得。近年の出演作にテレビドラマ『初恋の悪魔』(日テレ系)映画『スクロール』『連続ドラマW フェンス』Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』ほか。23年は7月期の新土曜ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日テレ、7月より毎週土曜よる10時放送)、映画『愛にイナズマ』(秋公開予定)で主演を務めることが発表されている。

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