【連載】松岡茉優の「考えても 考えても」vol.2 送迎車の中
圧倒的な演技力で唯一無二の輝きを放つ俳優、松岡茉優。芸能生活20周年を記念して、Numero.jpでエッセイの連載がスタート! vol.2はお気に入りのアイテムで埋め尽くし、いまや“ワンダーランド”となった愛すべき送迎車の中について。
vol.2 送迎車の中
現場へ向かうとき、事務所で管理している送迎車で移動させてもらっている。家から5分の場所であっても、日帰りで遠方へ行くときも、基本的にはいつも、送迎車に乗せてもらう。大きい会社さんだと、先輩や後輩とシェアしたり、決まった車ではなく、その日の状況で臨機応変に違う車がやってくるという場合もあるようだが、私の所属する会社は現状、タレントが私一人なので、送迎車は1台。私と車は、相棒といえる。
会社のみんなは、過ごしやすいようにと、大きい車を薦めてくれたのだが、私は憧れだった車を選んだ。幼いころ家族で乗っていた車であり、子役時代に目標にしていた女優さんが乗っていた車でもあった。今は生産をしていなくて、中古のものを社長が探してきてくれた。せっかくなら新車にしたら?とも声をかけてくれたが、私はこの車がよかった。
クリーニングなどを経て、いよいよやってきた車。これからよろしくね、と声をかけた。とても状態のよい車だった。探してきてくれた社長に感謝。大事にします、と誓った。
車内は私の大切な空間となる。移動中だけでなく、待ち時間や、休憩時間、あるいは簡単なお支度だって、車ですることがある。ごはんも食べる。滞在時間が意外と長いのが、送迎車なのだ。
まず、私はお気に入りの毛布を3枚持参した。以前から車に置いていた、安心する毛布。これを機に自宅で念入りに洗ってきた。どんなに寒い日も助けてくれる分厚いもの、生地が柔らかくてホッとするもの、絵柄が好みのもの、の3枚。馴染みのある毛布たちがシートに置いてあるだけで、一気に私の車内だという感じがした。
以前から車に置いてあるシリーズだと、外せないのが「ごろねこサミット」というドウシシャさんから出ているクッション。ねこのぬいぐるみに近いのだが、これがまた、夢のように気持ちがいいのだ。もちろん、触るもよしだが、もし出合ったら、力まかせにぎゅーっと抱きしめてみてほしい。中綿がこれでもか、と詰め込まれているので、もっちもちなのである。余談だが、「ごろねこサミット」のクッションは、一番多いときで5体、我が家にいた。しかし私の愛が強すぎて破けてしまったり(手術もした)、遊びにきた友人に一目惚れされて譲ったりしていたら、いつの間にか残ったのは車内のハラダさん(猫の種類によって人間の名前が商品名としてついている)だけになってしまった。クレーンゲームでゲットできるアイテムなので、ゲームセンターを通りかかるたびにチェックしているのだが、ここのところ出合えていない。私はまた「ごろねこ」に囲まれて過ごしたい。
私の愛すべき車内の話を続けよう。他にも数年愛用しているレッグウォーマーはショート、ロング、スーパーロングと長さを取り揃えていたり、衣装によっては急に必要になる肌着が何枚か、冬場のベンチコート、カイロ、お灸セット、携帯湯沸かし器(重要)、お腹が空いたときのフリーズドライなど、多種多様のアイテムがあるのだが、今の車からデビューしたのが、シートポケットである。カー用品店などで売っている、車のシートにくくりつけて使う収納ポケット。
いろいろな商品が出ているのだが、私はサンリオで購入した。マイメロディと、クロミちゃんのプリントがしてある、ピンクや紫のかわいいもの。気持ちが上がるかなと、期待して買ったのだが、これが大正解。暗い夜に出番を待っているときも、夜が明けきらない早朝に出発するときも、マイメロディとクロミちゃんはいつも私に微笑みかけている。そしてピンクがかわいい。
カー用品としての使い勝手もよく、ティッシュケースと、ウエットティッシュケースがそれぞれ内包されており、もはや私は目線を変えずに一枚抜き取ることができる。ポケットには、虫除けスプレーや、ごはんに髪がつかないようにするクリップやヘアゴム、急に何か書かなくてはいけないときのメモ帳とペン、車酔いしたときの梅干し系おやつなど、場合により緊急性の高いアイテムたちが収納されている。必要になれば、パッと取れる。もはやこのシートポケットがない車内は考えられない。
もう一つ新たに購入したのが、ブローチ。きっかけは、お洋服を買ったときにノベルティでいただいたブローチを見ていて、これ、車のカーテンにつけたらかわいいのでは?という発見から。早速つけてみたところ、かわいい。癒される。
当時、ちょっと頑張らなくては、という仕事が始まる間際だったので、その前にブローチを集めたいと思った。ネットで見つけて購入したり、もともと持っていたものたちを導入したり。カーテンはどんどんかわいくなっていった。実際、そのお仕事の間、ブローチたちにかなり助けられた。どうしようか、と台本と睨めっこしているときも、自分なりにうまく行かずに落ち込んでいる帰り道も、そのブローチたちがキラキラと、励ますように揺れていた。
目線に入るものって、無意識であっても、感じている。それにより影響を受けている。もはや私のワンダーランドと化した車となら、4時間の移動だって苦ではない。もう生産されていない私の相棒。お気に入りで埋め尽くされた私の相棒。いつまで一緒にいられるだろうか。どんな現場を共に過ごすだろうか。これからも、寒い日は暖かく、暑い日は涼しくなって、私を守ってくれるだろう。何があっても、車内に戻ればいつもの居場所だ。
実はここで紹介した以外にも、車内にはまだアイテムはあり、荷物が多すぎることは自覚している。以前、共演者さんの車に乗せてもらったことがあったのだが、水が1本、予備で置いてあるだけだった。
現場マネージャーさんには、本当に申し訳なく思っている。これ以上何か増やすなら何か引っ込めるから、どうかお付き合いしてほしい。
Text:Mayu Matsuoka Logo Design:Haruka Saito Proofreader:Tomoko Ueshima Edit:Mariko Kimbara