【連載】松岡茉優の「考えても 考えても」vol.1 校閲してもらった! | Numero TOKYO
Culture / Feature

【連載】松岡茉優の「考えても 考えても」vol.1 校閲してもらった!

圧倒的な演技力で唯一無二の輝きを放つ俳優、松岡茉優。芸能生活20周年を記念して、Numero.jpでエッセイの連載がスタート! vol.1は『Numero TOKYO 2023年4月号』に寄稿した、このエッセイの序章となる“vol.0”の校閲について。 

vol.1 校閲してもらった!

Numero TOKYOの4月号にて、エッセイを掲載させてもらった。今読んでいただいているのは、Web版の第一回となる。たった一回、それでも私は以前までの私とは違う人間になった。なぜなら、私は、校閲してもらったから!

十年ほど前に別の場所で連載を持たせてもらったことがあり、校閲していただくのは初めてではないはずなのだが、記憶がなく、今回が初めてのように書いてしまうことを先に謝りたい。ごめんなさい。

校閲というお仕事は、ドラマなどでも題材にされており、特に本を読む習慣のある方には馴染みのある職業だと思う。本を愛でる身として、もれなく私も存じ上げていた。ただ正直、作家さんとややバトルをしているようなイメージがあった。それこそ作家さんたちのエッセイとか、あとがき、インタビューなどで「そうじゃないんだ、こういう意味なのに」みたいなお話を読んだことが一度ではなかったから。私も晴れて校閲デビューなので、原稿をお渡ししたあとには、お得意さまに手を揉み揉みする商人のようなムーブでお返事を待っていた。「さてさて、どんなお直しが来るのかな?」なんて。

はり倒したい勘違いである。お直しの施された美しい紙を見て私は息をのんだ。昨日まで一緒に居たのに、あなた、きれいになって……。

まず特筆すべきはそのわかりやすさである。誤字修正、変えなくてもいいけれど変えたほうがわかりやすいであろう箇所、表記ゆれを防ぐためのご提案、通例ではこうですよの部分。それぞれが色分けされて、柔らかさのある手書きで記入されていた。これをべっぴんさんと呼ばずになんと呼ぶのか。

そもそも、ど素人の書いた文章をプロフェッショナルがお直しをしてくれるなんて。こんなこと他の業界にあるだろうか? 俳優業で例えるなら、道端で見つけた演技経験のない人をそのまま現場に連れていって佐藤浩市さんとサシでお芝居してもらうようなものではないか。キャリアとして佐藤浩市さんはさすがにどうかしら……と思われるかもしれないが、謙遜されないでほしい。私はまあまあ本を読むほうなので、きっとこの度お世話になった校閲さんのお直しした本で、涙したことも、忘れられない気持ちと出合ったこともあると思う。確かに、取材を重ね、物語を生み出したのは作家さんだ。取材先に交渉し、付き添い、こういうのはどうですか?などの提案をしたであろう編集さんの導きも必須。でも今回校閲していただいて、明らかに私の文章が読みやすくなったのだ。情景が浮かびやすくなった。すっきりした。

4月号のNumero TOKYOをお持ちの方はぜひ見ながら確認してほしい。文章の中で私は「わかる」という言葉を何度か使っている。最初に書いたものは、ひらがなで「わかる」と書いている箇所と、漢字で「分かる」と書いている箇所が混在していた。これを統一しませんか?という提案をもらった。それぞれ意図なく書いていたわけではなかったので、どうかなぁと思いつつ、全て漢字に統一してみた。するとどうだろう、読みやすい! 全体がすっきりと見えることで、スムーズに読めた。

似たところで「ありがとう」の統一も提案してもらったのだが、こちらは直してみたところ、子供のころの私の言う「ありがとう」と、大人になった私が今思う「有難う」では異なる感情があり、このままいけないか?と相談をしたところ、編集の担当者さんから「その感覚はぜひそのままで」とご回答いただいた。私はもう書くだけで偉いのではと、とんだ勘違い野郎になりそうなので頬を叩いて己を取り戻す。

他にも漢字表記からひらがなにするご提案や、句読点の有無もご指摘いただき、その通り直してみるとやはり読みやすい。文章全体のパズルが揃うような感覚だった。そして、先ほどの「ありがとう」のように、ここは変えたくないのですが、という相談にも心を込めて返してくださる。

当初は「お原稿」と言ってもらうに値する文章なんてとても書けない、と恥ずかしく思っていた。文章そのものには今も自信はまったくない。でも、素人の書いた文章が、プロの手によって「お原稿」となる様を見た。完成したゲラをいただいたとき、自分の打ち込んだ文字の並びをエッセイだと思うことができた。

ふと、これは相性もあるのだろうと思う。校閲のお仕事は、芸術分野の中では正解のあることも多いお仕事かと思うけれど、直し方や、指摘の仕方、これはこうしてみては?などの伝え方は感覚によるもので、それぞれであり、そこには相性が発生するはずだ。それこそ、人による、というやつ。私だって俳優という仕事をひとまとめにしてほしくはない。それぞれに矜恃があり、仕事のやり方がある。

私は広い出版という海で、するりと腹落ちするお相手に出会えたのだ。

編集さん、校閲さん、素人の文章に頭を抱えることも多いかと思います。これから学ばせていただきますので、末長く、宜しくお願いします。

Text:Mayu Matsuoka Logo Design:Haruka Saito Proofreader:Tomoko Uejima Edit:Mariko Kimbara

Profile

松岡茉優Mayu Matsuoka 俳優。1995年、東京都生まれ。2013年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演し、一躍名を馳せる。16年に映画『ちはやふる 下の句』、『猫なんかよんでもこない。』で第8回TAMA映画賞 最優秀新進女優賞を受賞し、期待の若手俳優として注目を集める。18年、第42回日本アカデミー賞にて『勝手にふるえてろ』で優秀主演女優賞に、『万引き家族』で優秀助演女優賞に輝く。19年に『蜜蜂と遠雷』で、20年に『騙し絵の牙』でも同賞優秀主演女優賞を獲得。近年の出演作にテレビドラマ『初恋の悪魔』(日テレ系)映画『スクロール』『連続ドラマW フェンス』Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』ほか。今年で芸能生活20周年を迎え、記念企画としてNumero.jpでエッセイ連載をスタート。

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