河合優実インタビュー「高3の夏で人生が決まった。卒業まで残りわずかでも何かが変わるかも」|Numero TOKYO
Interview / Post

河合優実インタビュー「高3の夏で人生が決まった。卒業まで残りわずかでも何かが変わるかもしれない」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.94は河合優実にインタビュー。

高校の卒業式は特別だ。それまで友達と毎日一緒に過ごしてきたのに、進学や就職などそれぞれの進路が分かれ、生まれ育った街を離れる人もいる。どんな人にとっても分岐点になる1日だが、その学校はこの日を最後に廃校になると決まっていた……。高校3年生たちの卒業までの2日間を描いた映画『少女は卒業しない』は、朝井リョウの連作短編小説を原作に、4つのストーリーからなる群像劇だ。主演は、話題作への出演が続く河合優実。初主演となる今作への意気込みと、彼女のターニングポイントになったという高校時代について聞いた。

みんなが本物の高校生のように輝いていた

──今作は朝井リョウさんの連作短編小説をもとに、中川駿監督が脚本を書いた作品です。まなみという人物を作り上げる上で、監督とはどんな話し合いがありましたか。

「クランクインする前に、どんな心づもりでまなみを描いたらいいのかという話や、監督ご自身の経験談を話してくれました。台本読みのときには、監督が、キャストと同じ目線で考えたいのでなんでも言ってほしい、一緒に作ろうという意思を示してくれたんです。台本も最初から細かく決め込まず、あえて余白を残しておいてくれたので、撮影しながら監督と一緒に、まなみという人物を見つけていきました」

──河合さんは、まなみをどんな人物だと捉えましたか。

「まなみは言葉数が多い人物ではないので、どんなふうに人と関わって生きているのかを少ない台詞や行動から読み解いていきました。親友と話すシーンでは、相手を観察して周りとのバランスを取る人なんだろうなと感じた部分を膨らませたり。彼女は私が経験していない喪失感を抱えているので、その部分は監督や周りの人の話を聞いて人物像を作っていきました」

──今作では4つのエピソードが卒業式に向かって進んでいます。現場はどんな雰囲気でしたか。

「みんなと一緒に撮影したのは卒業式のシーンぐらいなんですが、撮影は別々でも控室が一緒だったので、みんなでおしゃべりしたり、他のエピソードを撮影しているときはモニターを見に行ったりしました。控室が音楽室だったので、(佐藤)緋美くんがギターを弾いて歌ったり、共演者と積極的に交流する子もいれば、一人が好きな子もいたり、それぞれに過ごしている感じも、高校のクラスの人間模様のようで面白かったです」

──本当に高校生に戻ったような時間だったんですね。

「制服を着て、校舎にいるという力もあったかもしれませんね。学校を丸ごと借りて撮影したので、待ち時間は校舎内で自由に過ごしていて。みんなで一緒にいるときは楽しい空気を貰って、まなみについて考えるときは、一人で調理室にいることもありました。(中井)友望ちゃんは図書準備室で(藤原)季節さんとお話してたり、物語の中を生きているような感覚もありました。最後の卒業式は自分でも驚くほど本当に寂しくなりました」

──改めて完成した作品をみて、印象に残ったシーンを教えてください。

「それぞれのパートで印象的なシーンがありました。小野莉奈ちゃんたち2人がバスケのフリースローで遊んでいるシーンは友達同士の自然な時間が素晴らしかったし、小宮山莉渚ちゃんたちのシーンも、私自身、高校時代に体育館のステージで出し物をすることが多かったので懐かしく感じたし、(中井)友望ちゃんと(藤原)季節さん2人にしか出せない空気感にもグッと引き込まれました。それぞれに自分のパートとは異なるきらめきがあって、なんだか嬉しい気持ちになりました。自分が主演とはいいつつも群像劇なので、みんながいいものを作りたいという気持ちを持ち寄る連帯感というか、連作ならではの良さが生まれたと思います」

人生を変えたターニングポイントは、高校3年の夏休み

──河合さんにとって、高校時代とはどんなものでしたか。

「私にとって、高校3年間をあんなふうに過ごしてなかったら、今、この仕事をしてないだろうというくらい大きな意味のある時間でした。もともと小3の頃からダンスを習っていて、中学はバスケ部だったんですけど、高校はダンス部のある学校に進学して。そこが、体育祭や宿泊行事とか、ことあるごとに出し物をするパフォーマンスが好きな学校だったんですね。それで、みんなで一緒に表現するという過程を繰り返しているうちに、演者としてだけではなく、みんなでものを作ることに喜びと楽しさを感じていきました」

──演技の道に進もうと決心したのはいつ頃でしたか。

「最初はぼんやりと、仕事に繋がればいいなというくらいの感覚だったので、一般の大学に進学して、在学中にオーディションでも受けてみようかなと思っていたんです。高3の文化祭にクラスで演劇を上演することになって、みんなで一生懸命に取り組んだ稽古がとても楽しかったんですね。ちょうどその頃、ブロードウェイから大好きなミュージカル『コーラスライン』が来日していて、その公演にすごく感動したことが重なって、高3の夏休みの最後に突然、この道だと決めたんです。その時期に進路を変更するのは大きな賭けだったんですが、志望校を演技の授業がある大学に変えて、同時に事務所も探し始めました。今の事務所に入ったのは、高校の卒業直前でした」

──高校最後の半年で急に進路を変えたことに、周囲から反対は?

「両親は驚いてました。本気なの?って。文化祭で上演したクラスの演劇が、自分たちで台詞を考える、半分ノンフィクションのような内容だったんですけど、そこで私、『夢ぐらい見させろ!』と叫んだんですね。今、考えるとかなり恥ずかしいんですけど(笑)。自分で決めた進路とはいえ、不安も感じていたし、周りから夢を見過ぎだとも言われたし、その気持ちを台詞に込めたんですが、それを観た母が、もう諦めたわと。今、ちょうど、妹が進路を決める段階なんですけど、彼女を見ていると心配で、今やっと、あのときの両親はこんな気持ちだったんだなとわかりました」

──でも、河合さんが率先して、自分の道を歩んでいるから……。

「そうなんですよ。妹たちには何も言えません(笑)。両親には、心配させてごめんなさいと謝りたいです」

──もし、これから卒業を迎える高校生にメッセージを送るとしたら?

「この作品は、卒業式までの2日間を描いた映画です。たった2日でも何かが動くことはあるし、卒業まで1ヶ月しか残っていなくても、何かを変えることができるかもしれません。後悔しないように、今、心にあることは全部やっておいたほうがいいよと伝えたいです」

気分転換は銭湯とコント

──話は変わりますが、気分転換をするときはどんなことをしていますか。

「オフのときは映画や舞台を観るのが好きですが、作品に入っている間は気持ちが揺れてしまうので、銭湯に行くことが多いです。あとバラエティもよく観ますね。好きな芸人さんはたくさんいるんですけど、シソンヌさん、ジャルジャルさんとか、コントをやっている方々が好きです」

──今はダンスは?

「今はあまり踊っていないんですけど、先日、仕事でニューヨークに行ったときに、ミュージカルを観てまた踊りたくなりました」

──2022年は映画出演作が8本、ドラマが6作品公開されました。今の快進撃について自分ではどう感じますか。また、デビューから3年間で掴んだ手応えはありましたか。

「偶然にもいい巡り合わせをいただいて、とてもありがたいと思っています。2月に5年目になりましたが、経験を積んで何かを獲得していくというよりは、どんどん余計なものを捨ててよりシンプルになっていきたいし、新しい出会いに対して、常に新鮮に向き合う感覚を大切にしていきたいと思います」

──最後に、2023年が始まったばかりですが、今年の目標は?

「昨年、初めて海外の仕事を経験したんですが、やり方も常識も何もかも違ったんですね。何より時間に余裕があるし、撮影を楽しもうという雰囲気がありました。現場にお子さんを連れてくる方もいたし、チームとしての一体感があってとても貴重な経験でした。もし機会があるなら、これからは海外にも視野を広げて行きたいと思っています」

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『少女は卒業しない』

廃校が決まり、校舎の取り壊しを目前に控えた島田高等学校は、最後の卒業式を目前に控えていた。卒業生代表として答辞を読むのは、料理部の部長・山城まなみ(河合優実)。彼女はいつも昼休みに調理室で彼氏の駿(窪塚愛流)と一緒に手作り弁当を食べることが日課だった。東京に進学するバスケ部の部長・後藤由貴(小野莉奈)は、地元に残る彼氏の寺田(宇佐卓真)と喧嘩し会話のない状態だ。軽音部の部長・神田杏子(小宮山莉渚)は、中学の幼馴染みの森崎(佐藤緋美)に片思い中、卒業ライブの直前にトラブルに見舞われる。クラスに居場所がなく、図書室が心の拠り所だった作田詩織(中井友望)は、図書室を管理する先生(藤原季節)に淡い恋心を抱いていた。卒業まで残り2日。4人の少女は、世界の全てだった学校で“恋”にさよならを告げようとする。

監督・脚本/中川駿
原作/朝井リョウ『少女は卒業しない』(集英社文庫)
出演/河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、窪塚愛流、佐藤緋美、宇佐卓真/藤原季節
主題歌/みゆな『夢でも』(A.S.A.B)
URL/shojo-sotsugyo.com
Twitter/@shoujo_sotsugyo 
Instagram/@shoujo_sotsugyo
©︎朝井リョウ/集英社・2023映画「少女は卒業しない」制作委員会
2月23日(木・祝)より新宿シネマカリテ、渋谷シネクイントほか全国公開

Photos: Takao Iwasawa Styling: Tatsuya Yoshida Hair & Makeup: Takae Kamikawa Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Chiho Inoue

Profile

河合優実Yuumi Kawai (かわい・ゆうみ)2000年12月19日生まれ、東京都出身。2019年デビュー後、数々の新人賞を受賞。2022年は第14回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、第35回日刊スポーツ映画大賞新人賞、第44回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。主な出演作品に、映画『ちょっと思い出しただけ』『愛なのに』『女子高生に殺されたい』『冬薔薇』『PLAN 75』『百花』『線は、僕を描く』『ある男』(以上すべて2022年公開)など。公開待機作に『ひとりぼっちじゃない』がある。

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