戸田恵梨香インタビュー「結婚して、海の見つめ方が少し変わった」 | Numero TOKYO
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戸田恵梨香インタビュー「結婚して、海の見つめ方が少し変わった」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.93は戸田恵梨香にインタビュー。

『告白』で知られる湊かなえの同名小説を原作に、人間は誰しも母から生まれ、その母との関係性が多くのことを左右するということを痛烈に突き付ける映画『母性』。戸田恵梨香と永野芽郁が、ずっと娘でいたいが為に自身の娘を愛せない母・ルミ子(戸田)と母に愛されたい娘・清佳(永野)という、“母性”をめぐる複雑な母娘関係を演じた。自身の母への愛ゆえに、娘を母が喜んでくれるような娘に育てようとするが、理想と現実の狭間で苛立ちと狂信を滲ませるルミ子を演じる戸田の役者としてのすごみも大きなみどころ。新たなる代表作の誕生を機に、『母性』のことに加え、「自然のある場所を抜きには生きていけない」というオフの過ごし方や結婚後の変化についても聞いた。

役柄自身が気づいていない部分を演じる


──ルミ子を演じる上で試行錯誤されたそうですが、一番苦労したところはどこですか。

「脚本のト書きに、洋服や服装、メイクが母と瓜二つだということが書いてあって、ルミ子の考え方はすべて母の世界から生まれているんですよね。だからしゃべり方も似ているだろうと思って、母役の大地真央さんのお芝居をいくつか見直して、呼吸の仕方や声の出し方を参考にさせていただき、役を作っていきました。でも、実際『母性』で大地さんがどんなお芝居をされるかがわからないので、この方向性で大丈夫なのかが判断できない。かなり賭けでしたね。実際一緒にお芝居をさせていただいて、大きなギャップはなかったので安心しました。それと、大学生から40、50過ぎぐらいまでという幅広い年齢を演じることもあり、容姿の変化、しゃべり方や歩き方の変化を考えながら特にしっかり作っていきました」

──ルミ子の視点と清佳の視点と双方が描かれていましたが、その使い分けはどんなことを意識されましたか?

「脚本上、ルミ子の目線と清佳の目線がはっきり分かれていたので、割り切って演じていました。ただ、ルミ子は母と一緒に過ごしているときと娘の清佳と接しているときは全然違うという二面性がありますし、そこにはルミ子自身が気づいてない二面性も必ずある。傍から見ると三面にも見えてくるのかなと思ったので、“ルミ子自身が気付いていない部分がある”というところは意識的に見せようとはしました。ルミ子の目線も清佳の目線も正しいわけではないという可能性を抱きながらお芝居をしました」

──ルミ子が出す違和感や不気味さという部分も肝だと思いますが、そことはどう向き合いましたか?

「脚本を読んだ時点でルミ子に対して居心地の悪さは感じました。彼女が自分自身の物語を説明する際の言葉のチョイスにも気持ちの悪さがあります。これまで演じてきた役は、基本的にはある程度の共感を得てもらえるように作っていたところがありましたが、ルミ子に関しては共感する必要性がないというか。そういう人だと割り切りましたね。ただ、『自分が娘であり続けたい』『母に可愛がってもらいたい』『愛されたい』という気持ちは大なり小なり誰しも持っていると思ったので、その部分はあまり気持ち悪く見えないように演じたつもりです」

子育てを完璧にやるのは簡単なことではない

──さまざまな角度から母性というものが描かれていますが、戸田さん自身は母性をどう捉えていますか。

「以前、友人とペットのことで話したことがあって、私は愛犬と結構ベタベタするタイプなんです。犬がおうちの中でふわふわ~とどこかに行こうとしたら、『どこ行くの?』って気になりますし、ずっとくっついていてほしい。でも猫を飼っている友人は自由気ままにさせていて。人によってペットとの距離感はさまざまなんだなという話から、子どもの話に発展しました。私がいざ自分が産んだ子どもにどういう接し方をするかはまだわかりませんが、なるべく自分の考えを無理に押し付けないで、笑顔で過ごせる母であれたらいいなと想像しました」

──『母性』はいろいろな受け止め方ができる作品だと思いますが、どのように楽しんでもらいたいと思っていますか。

「“楽しむ”作品ではないと思っています。“面白い”作品でもないというか。でも、考えるきっかけになる作品だとすごく思います。いざ結婚しよう、子どもが欲しいていう話になったときに、仕事との兼ね合いや、自分は本当に『子どもが好きなのかな』とか、『果たして本当に子どもが欲しいのかな』って考えると思うんですが、『母性が出るのかな』ってことはあまり考えないと思うんです。そして、『自分が母親としてちゃんとやっていけるのか』って考えて不安に思う人はたくさんいると思うんですが、子育てを完璧にやるのは簡単なことではないということがこの作品を通して感じられると思うので、人生の参考書のひとつとして見てもらえたらいいなと思います」

自然抜きには生きていけない! オフの過ごし方


──最近オフの時間は何をされていることが多いですか?

「パッと海に行って気分転換をしたり……でも家のことをやっていることが多いですね」

──ご結婚されてオフの過ごし方は変わりましたか?

「休みの日が合えば時間を共有するので、一緒に海に行く機会は増えた気がしますね。私は自然のある場所に行くこと抜きには生きていけないんです(笑)。兵庫県の海と山がそばにある場所で育ったので、週末は家族で六甲山に行ったり、放課後に友達と自転車で海に行ったり、自然に触れることが当たり前の子ども時代を過ごしてきました。でも上京して自然を感じる機会が減ったことで息苦しさを感じて。20歳のときにダイビングに出合って、やっぱり私は空や海の広さを感じていたいんだなって気付きました。その時間にすごく癒やされるし、『いつの間にかカリカリしちゃってたかもな』って気付くときもあります。心に余裕を持たせてくれるとても大切にしたい時間なんです。一人の時は本当に切羽詰まったときにしかそういう場所に行けなくて、行くことでギリギリのところに立てている感じでした。だけど今はちゃんとバランスが保てていて、海の見つめ方が少し変わった気がします」


──オフの過ごし方にもつながるのかもしれませんが、戸田さんは地球のことや体のことを本を読んだりしてよく勉強されていますよね。

「旭山動物園のスペシャルドラマに出演した際に、園長の方に野生動物の危機についてたくさん教えてもらって地球温暖化のシリアスな状況を知って、大きな衝撃を受けました。その後、別の作品を通して犬猫の殺処分のことを知って、人間のエゴや傲慢さにすごく腹が立った。ペット産業には当然政治も絡んでいて。それで、小さなことでも自分が何かできることがあるんだったらと考え、学んだことをSNSを通して発信するようになりました。一人でも多くの人にこの状況を知ってほしいという思いがあります。もしかしたら私のエゴなのかもしれないですが、発信することはとても大事なことだと思っています」

──最近勉強したいと思っていることや興味を持っていることは?

「今は仏教に興味があります。樹木希林さんが亡くなられた後、希林さんが遺した本を紹介している記事を読んだんです。そこに仏教に関する本があって、『こういう本があるんだ』と思ったことがきっかけです。それで生死への興味が湧いてきて、『宗教がなければ文明は生まれなかったわけだし、人間って面白いなあ』と思って、仏教を学ぶことで生と死を見つめていきたいと思っています」


『母性』
女子高校生の遺体が自宅の庭で発見された。その真相は不明。事件はなぜ起きたのか? 普通に見えた日常に、静かに刻み込まれた傷跡。愛せない母と、愛されたい娘。同じとき・同じ出来事を回想しているはずなのに、二人の話は次第に食い違っていく……。母と娘がそれぞれ語る恐るべき「秘密」――2つの告白で事件は180度逆転し、やがて衝撃の結末へ。母性に狂わされたのは母か? 娘か?

監督/廣木隆一
脚本/堀泉杏
キャスト/戸田恵梨香、永野芽郁、三浦誠己、中村ゆり、山下リオ、高畑淳子、大地真央
原作/湊かなえ『母性』(新潮文庫刊)
11月23日(水・祝)より全国公開予定。
https://wwws.warnerbros.co.jp/bosei/index.html

©2022映画「母性」製作委員会
配給/ワーナー・ブラザース映画 

Photos:Akihito Igarashi Styling:Yoko Kageyama Hair & Makeup:Haruka Tazaki Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara

Profile

戸田恵梨香Erika Toda 1988年、兵庫県生まれ。俳優。2006年『デスノート』で映画初出演、07年『LIAR GAME』にて連続ドラマ初主演。以降も映画やドラマに多数出演し、09年エランドール賞・新人賞、18年『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)で第99回ザテレビジョンドラマアカデミー賞 主演女優賞を受賞。近年の代表作にNHK連続テレビ小説『スカーレット』、ドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ)ほか多数。

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