“Pii”としてソロデビュー! Awesome City ClubのPORINインタビュー「絶対的にポジティブなものを届けたい」
旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.92はPORINにインタビュー。
Awesome City Club(オーサムシティクラブ)のボーカル担当として精力的に活動する一方で、ファッションブランド「yarden(ヤーデン)」のディレクターも務めるPORIN(ポリン)。昨年からはソロプロジェクト・Pii(ピィ)の活動をスタートさせ、歌謡曲をモダンにアップデートした「カキツバタ」「ヒノキノキ」「花明かり」という3曲をリリースしてきた。11月30日に初のデジタルEP『春が呼んでる』をリリースするタイミングで、これまでの覆面アーティストという形態から正体を明かしたのはなぜか? 自身のルーツを突き詰めたというPiiについて、そして、カルチャーアイコンとして支持される素顔にも迫った。
時代を超えて愛されるものを
──そもそもPiiというプロジェクトの構想はいつ生まれたんですか?
「2019年頃ですね。ぼんやりとソロをやりたいなと思いはじめて、その流れで曲を作ろうかなと思っている中で、いろいろな出会いがあって、周りの人に相談して後押ししていただいたことも大きかったです。それで、コロナの状況も意識した上で2021年に『カキツバタ』をリリースしました。幼い頃は母の影響で、はっぴいえんどさんやユーミン(松任谷由実)さん、チューリップ(TULIP)さんとかが家で流れていることが多くて、フォーキーなものが好きになりました。それで弾き語りを始めたんですが、ゆくゆくはソロでそういう方向性の音楽をもっと追究したいと思っていました。それで、“Awesome City ClubのPORIN”という先入観なく、まず曲を聴いてもらいたかったので覆面にしました。でも、MVに顔は出してはいないけど出演したりしていて。自分からPORINだと明かしはしないけど、否定もしないというか。自然な流れでそろそろ公にしようかなと思ったんです」
──Piiのコンセプトとして“シン・カヨウキョクの提案”というのがあります。そこにはどんな想いがありますか?
「歌謡曲って時代を超えて愛されているものだと思いますし、自分が好きだし、それを表現できるアーティストになりたいなと思っていました。ただ、そのままやっても面白くないので自分らしさを足して、歌謡曲をモダンにアップデートして“シン・カヨウキョク”としてやろうかなと思いました」
──1曲目の「カキツバタ」はプロデューサー陣も覆面でしたが、ネット上の反響がかなり大きかったです。手応えは感じましたか?
「感じましたね。前情報をなるべくない状態で聞いてほしいという気持ちからプロデューサーも覆面にしたんですが、プロデュサーにPiiのコンセプトを共有させてもらった上で『カキツバタ』を作ってもらいました。自分の生きた証、人生が描かれた楽曲になったと思います」
──生きる上での希望を歌っていて、すごく根源的ですよね。
「そうですよね。リリースした時はコロナの状況もひどかったので、自分自身に歌ってる感じはしました。ところどころ私情やルーツがちりばめられているので、本当にこの曲は大事です」
──MVのアニメーションは、タムくんことウィスット・ポンニミットさんが手がけられています。
「昔パリを旅行している最中にタムくんの作品に出合ってすごく好きになって、その後紹介していただく機会があって仲良くなって。ソロをやる時は絶対タムくんに描いてもらおうと決めていたので、やることになってすぐにお願いしたんです。そうしたら、『やっとだね。頑張ったね』って言ってくれて、すごくうれしかったですね」
“植物は自分のルーツ”
──『カキツバタ』はリリースが昨年の4月29日でしたが、その日の花言葉が「カキツバタ」ですよね。これをテーマにしたのは?
「お花自体が元々すごく好きなので、だったら特別な日にリリースしたかったんです。伏線的なものも好きなので4月29日にしてみました。最近生け花を習い始めたんですが、カキツバタはすごく高貴なお花で、うまく生けることが本当に難しいんですよね。去年は本当に忙しくて自分と向き合う時間が全くなくて、今年に入って少し落ち着いたタイミングで生け花を習い始めました。父親が造園会社を営んでいて、植物は自分のルーツだと思っているので、どんどん深掘りしていけたらいいなって。ソロ活動の重要なインプットになるんじゃないかと思っています」
──生け花をやることで、実際に良いフィードバックは感じていますか?
「めちゃくちゃありますね。フラワーアレンジメントは一番きれいな状態のお花しか使わないんですけど、生け花は蕾の状態から使ったりするんです。その過程がすごいロマンチックだなって思います。あと、葉っぱを切って生けていくのは決断の連続なので、人生と近くて面白いなと思いました。その日のメンタルもお花の生け方にすごく出るので、自分と向き合うきっかけにもなる。生けることはデザインすることでもあるので、デザイン力が上がりそうな気もしています」
──「カキツバタ」の手応えから、セカンドシングル、サードシングル、EPとイメージが膨らんでいったという感じなのでしょうか?
「そうですね。根底には“自分のルーツを掘り下げる”っていうのがあって、それはファッションブランドのyardenではやっているんですけど、音楽ではあまりできてなかったので、本格的にやっていきたいと思いました。家庭の影響で昔から日本の四季を感じるようなものと触れてきたので、日本特有の情緒や刹那的な儚さを楽曲に表現したい。それで、全曲、春をモチーフにして曲を作ってもらいました。世の中的にも長いコロナ禍にようやく光が見えてきた状態で、寒くて暗い冬が明けて春がやってくる感覚と似てるなと思ったんです」
Awesome City Clubとのバランス
──Piiについては、曲制作はプロデュサーに任せているのでしょうか?
「そうですね。どれだけインプットや思想がネガティブなものでも、アウトプットとしては絶対肯定的なポジティブなものにしたいっていうのが強くありました。だとすると自分はポップソングがやりたいなと思ったんです。“ポップソング”とは私の中では歌謡曲のことで、自分の感情を赤裸々に吐露するシンガーソングライター的な楽曲ではなく、作家の方が作った曲を歌手が歌っていることが大事だと思った。それで、自分で歌詞を書くとか作曲をする欲はなく、曲を書いて欲しい方にコンセプトとかをお伝えした上で書いてもらい、私は歌で表現したいと思ったので、全部お任せしています」
──Piiの歌とAwesome City Clubの歌とはスイッチが違うのでしょうか?
「全然違いますね。Awesome City Club はツインボーカルが味になってるので、男性ボーカルに寄り添ったり、コーラスに回ることも多く楽曲に寄り添う歌というスタンスでやっています。Piiの歌はパーソナルを出して説得力を持たせる歌ですね」
──音楽活動でもうひとつアウトプットができたのはご自身にとってどんな良いフィードバックがありますか?
「グループでの活動は良くも悪くもエゴがいらないんです。軽やかで、身にまとうお洋服みたいなイメージがあって。ソロは自分のルーツや存在意義、何で音楽をやっているのかっていう部分と直結するので真逆なところがあります。だから、両方あることは精神上すごく良くて、どんどん楽しくなりそうだなという予感がしています」
──ご自身のアパレルブランド、yardenの活動と音楽活動はどうつながっていますか?
「日本の文化的に音楽とファッションが割と切り離されていて、くっつけるとサブカルになってくような現象にずっと居心地の悪さを感じていました。自分はファッションも好きですし、そのカルチャーを引っ張れる存在になれるといいなと思ってyardenを始めました。だから私の中では地続きですね」
──yardenにおいて一番大事にしていることは何ですか?
「ボーダーレスであることです。ユニセックスなサイズ感もそうですし、音楽とファッションの垣根をなくすこともです。みんなが自由にフラットにファッションに触れられたらいいのにという願いを込めています」
“英語がわかるだけで、今思ってる真実が真実じゃなくなってくるのかも”
──PORINさんは様々なカルチャーがお好きだそうですが、強く影響を受けてる映画や本、マンガというと?
「映画はソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』です。バッドエンドが好きで、でも世界観はファンタジーっぽいんだけど、リアルな毒があるところが好きです。ティム・バートンの『シザーハンズ』も好きですね。マンガは『浦安鉄筋家族』や松本大洋さん、大友克洋さんの作品とか、割と男っぽいものが好きで。あと、『黄昏流星群』っていう、黄昏時の中年の男女がまた恋に落ちる様を描いたマンガも好きですね」
──例えば、一カ月オフがあったら何をしますか?
「海外に行きます。ニューヨークにも行きたいんですけど、アジア圏ののんびりしている雰囲気が好きなのでべトナムのダナンに行きたいです。泳げないんですけど、水に浮かんで浄化されたいです(笑)。自然に帰りたい。祖父の家が山奥にあって、それもあって自然が好きなのかもしれません」
──オフの時間はどんないい作用をもたらしていますか?
「心が満ちるっていうか、お花に水をあげて豊かになる感じです。脳内が活性化されます。仕事が忙しいとのめりこんでしまうタイプなんですが、オフがあることで風通しが良くなります」
──ご自身にとってクリエイティブの役割ってどういうものなのでしょう?
「必然的というか、自然とやってる気がしています。それで心が整う。あまり意識的にインプットするのが好きではなくて、生活の中で自然に入ってくることが大事だと思っています。たまたま出会ったものや人が自分にとって必要なものなんだろうなって思います。特に自分の作品のアートディレクションにはそういう出合いが直結していると思います」
──今後挑戦したいことはありますか?
「知らないことが多すぎるので、いろんな土地を踏みたいです。そのためにはやっぱり言語が大事だと思っているので英語を頑張りたいですね。英語がわかるだけで、今思ってる真実が真実じゃなくなってくると思うので、その世界に行ってみたいです」
Pii
Digital EP『春が呼んでる』
11/30(水)配信リリース
配信リンク/Pii.lnk.to/harugayonderu
Awesome City Club
Digital Single『ユメ ユメ ユメ』
配信中
配信リンク/ACC.lnk.to/yumeyumeyume
ミュージックビデオ/youtu.be/NeZWSWDjrz8
Photos:Melon Styling:Masaaki Ida Hair & Makeup:Megumi Kuji (LUCKHAIR) Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara