萩原みのりインタビュー「嫌な記憶もネガティブな感情も、心にしまって糧にする」 | Numero TOKYO
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萩原みのりインタビュー「嫌な記憶もネガティブな感情も、心にしまって糧にする」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.79は女優の萩原みのりにインタビュー。

登場人物全員が、過去の苦悩や葛藤、嫉妬、コンプレックスを抱え、その感情が交錯しぶつかり合う、戯曲『成れの果て』が映画化された。東京でファッションデザイナーの卵として働く小夜は、ある日、田舎で暮らす姉のあすみ(柊瑠美)から結婚の報告を受ける。その相手・布施野(木口健太)は、小夜の過去に関係した人物だった。小夜を演じたのは『花束みたいな恋をした』『街の上で』など今年の話題作に次々と出演している、女優・萩原みのり。この話題作に主演した彼女に、映画に登場するような感情との付き合い方を聞いた。

撮影中も緊張感を保ち、違和感のある人との距離を大切にした

──小夜は過去の心の傷を抱えて生きる人物ですが、役作りはどのようにされたのでしょうか?

「この作品のお話を頂いたときに正直、お受けしていいのかとても悩みました。私は小夜の選択が理解できず、彼女の苦しさをきちんと共に感じることができる自信がなくて……。役作りとしては、撮影前に日常で感じる沸々とした感情を爆発させずに心に溜めて、現場に入るまで冷静でいるように心がけていました。小夜が長い間、心に溜めてきたものを画面の中で爆発させられたらと思ったので、そのための準備をしました」

──劇中では、東京で暮らす小夜が地元に帰省し、まるで腫れ物のように扱われますが、共演者の方と役について話し合うことはありましたか?

「劇中に描かれるのは独特な人間関係です。その距離感を作るために、クランクインから撮影中も、現場では『小夜に関わらない方がいい』という空気感が徹底されていて。実は、共演者の方とは離れて過ごしていたんです。気まずさや違和感を現場にいる全員で生み出すことで、作中の雰囲気を作っていきました」

──役作りも含めて、それは精神的にかなりキツかったと思います。

「役者さん同士の距離は離れていましたけど、小夜の友人であるエイゴ役の後藤剛範さんもいましたし、スタッフさんとは普通に話していたので、それほどではありませんでしたよ」

「嫌な過去も切り捨てず、整理して心にしまっておく」

──作中の登場人物は、全員が過去に囚われていますが、萩原さんご自身、忘れたい過去と決別するときはどうしていますか?

「嫌な記憶と決別しないかもしれないですね。簡単に切り捨てられるものじゃないから、ずっと囚われているんだろうし負の感情も含めて、その人を形作っているものだと思うから。辛い過去があったとしても、整理して心にしまっておけばいいんじゃないでしょうか。無理に忘れようとするとふとした瞬間に爆発してしまいそうで。そういう記憶や感情が、自分の中にあると思いながら生きていくほうが楽だと思います」

──嫌なことがあったときは、どんなストレス発散をしますか?

「何かを忘れるために、ストレス発散することはないですね。騒いだり食べたりするくらいでは忘れられない(笑)。ネガティブな感情をポジティブに変換する方法も分からないので、整理して心の中にしまっておきます」

──では、感情を整理する方法は?

「誰かに話を聞いてもらうこと。子どもの頃は、何かあるとすぐにお母さんに『ねぇ聞いてよ』と一気に話して気持ちを整理していました。今もそうです。誰かにこんなことがあったと話しながら、自分の中にある引き出しにひとつずつ整理してしまっていく感覚です」

──ネガティブな感情を忘れずにいることは、この仕事に役立ちそうですね。

「そうですね。私の仕事は、感情を爆発させる場があるからいいけど違う仕事だったら、考え方も変わっていたかもしれません。最近、個性的な役が続いているのでファンの皆さんから『大変ですね』と声をかけてもらうこともあるのですが、現場を出てしまえばいつもの状態に戻るのでそんなに負担ではないんですよ」

──どのタイミングで仕事モードに切り替わるのでしょうか?

「メイクです。家を出て現場に着くまでは普段通りなのですが、鏡の前に座ってメイクをしてもらいながら、少しずつ役の気持ちになります。撮影が終わって、メイクを落とせば自分に戻れるので、衣装とメイクの役割は大きいと思います」

シャツドレス¥49,500、シューズ¥58,300/ともにTOGA PULLA(TOGA原宿店 03-6419-8136) 中に着たタートルネックカットソー ¥12,100/6(ROKU)(ロク 渋谷キャットストリート 03-5468-3916)
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花を買うことが、毎日のリフレッシュ

──普段はどんなメイクをしますか?

「実はほとんどメイクをしないんです。14歳で仕事を始めてから、メイクはしてもらうものだったので、自分で覚えるタイミングを逃してしまって。メイク中も目を閉じているから、何がなされているか分からないまま(笑)。ファンデーションやリップくらいは分かりますがハイライトを入れたり、ラインを引いたり、色々なテクニックがありますよね。たまにメイク系のYouTubeを見るのですが、すごいと感心しちゃいます。私は器用じゃないから、お絵描きみたいになってしまって(笑)」

──プライベートでのリフレッシュ方法は?

「最近、仕事帰りに花を買うようになりました。家で過ごす時間が増えたこともあり、家の中を充実させようと思って。花を買い替えると、気持ちがすごく変わるんです。自宅に一輪挿しがいくつかあって、今はこの色の花があるから、この色を買い足そうとお花屋さんで想像する時間が好きです」

──お気に入りの花は?

「サンダーソニア。小さな鈴のような花が連なっていて、お店で一目惚れしました。これまで花を買うなんてことはなかったから、大人になったなーと思いますね。お花を買って、家に飾ってどんな種類の花なのか花言葉まで調べるところまで含めて楽しいです」

作品や人との出会いから人生を学ぶ時間

──2021年は、出演作が次々と公開され、ドラマの主演などもありました。14歳で芸能界に入り今年10年目になりますが、今はどんな時期だと捉えていますか。

「学ぶ時間です。監督や役者さんたちとの出会いもそうですし、いただく役が作品によって全く違うタイプのこともあって現場に行くたびに発見があるし、学ぶことがあります。それはひとりの役者としてだけじゃなくて人間としても。こんな考え方は素敵だな、こんな大人を目指したいなと人に会えば会うほど知ることが増えていきます」

──そんな1年の最後に公開される『成れの果て』ですが、見どころを教えてください。

「きっと取材ではそう聞かれるだろうと思ってずっと考えていたのですが、明日の希望を抱いたり、見終わって爽やかな気持ちになる作品ではないのでたくさんの人に見て欲しいとは思いつつ“ぜひ”とは簡単に言えない自分もいて……。そう言い淀んでしまうくらい、とにかくすごい作品ですし、エンタテイメントとしても面白い作品です。誰かの背中を押すことはないかもしれないけれど、そばにいることができる作品だと思います。私も頑張ったので、ぜひご覧ください!」

『成れの果て』

東京でファッションデザイナーの卵として暮らしていた小夜(萩原みのり)は、地元に暮らす姉のあすみ(柊瑠美)から、結婚するという内容の連絡を受ける。結婚相手の「布施野」は、8年前ある事件を起こしていたのだった。小夜はいても立ってもいられず、友人のエイゴを連れて故郷へ戻るが──。

監督・企画・編集/宮岡太郎
脚本/マキタカズオミ
出演/萩原みのり/柊瑠美、木口健太/田口智也、梅舟惟永、花戸祐介、秋山ゆずき、後藤剛範
配給/SDP
2021年12月3日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
narenohate2021.com

Photos:E-wax Styling:Naomi Shimizu Hair&Makeup:Naoki Ishikawa Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Risa Yamaguchi

Profile

萩原みのりMinori Hagiwara 1997年、愛知県生まれ。2013年、ドラマ『放課後グルーヴ』、映画『ルームメイト』に出演。その後、映画・ドラマなどで活躍。近作は映画『花束みたいな恋をした』『街の上で』『そして、バトンは渡された』、ドラマでは『RISKY』『お茶にごす。』『ただ離婚してないだけ』など多数出演している。

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