松坂桃李インタビュー「落ち込んだ自分に寄り添って力をくれる。アイドルオタクの気持ちに共感します」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.71は俳優の松坂桃李にインタビュー。
映画やドラマに欠かせない存在となった俳優の松坂桃李。彼が主演する『あの頃。』は、松浦亜弥はじめ、「ハロー!プロジェクト」に青春を捧げたアイドルオタクを演じる。原作は、「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシストであり、元「神聖かまってちゃん」のマネージャーも務めた劔樹人。そこで、ファンという存在、“推し”からもらう力や、松坂自身の憧れのスターについて話を聞いた。
“中学10年生”が集まった、賑やかな現場
──今回の『あの頃。』は原作者の劔樹人さん役でしたが、実在の人物を演じることについてはいかがでしたか。 「ありがたいことに、劔さんは現場に何度も来てくださったので、立ち姿だったり、人との接し方、まとっている空気感みたいなものを、演技のニュアンスとして参考にさせていただきました」 ──劔さんの印象は? 「人当たりがとても柔らかい方なんですが、それだけじゃなくて、腹の中には何か強い意志があるだろうと感じました。毒っ気のようなものを絶対に持ってるだろうと」──演じる上でも、その部分は意識しましたか。
「僕が演じる劔樹人も穏やかな人物なんですが、セリフの随所に劔さん特有の毒のようなものが散りばめられているので、それを自分の中に落とし込むときに、ご本人にお会いしたときの印象が参考になりました」
──仲野太賀さんはじめ、オタク仲間を演じる共演者たちとの雰囲気も最高でした。
「“中学10年生”というセリフがあるんですが、まさにそのままの、わちゃわちゃした空気感の楽しい現場でした。今泉監督は、鮮度を大事にされる方で、本番直前に、僕にだけコソコソっと『これを言ってください』を耳打ちするんです。本番で、それを知らない他の演者たちの素のリアクションを撮るんですよ。そうやって、この世界観が作られたと思います」
松浦亜弥とのつながり、憧れのBUMP OF CHICKEN
──劇中では、松浦亜弥さんの『♡桃色片想い♡』に出会い、日常に彩りが増す様子が描かれていますが、松浦さんは実際に中学の先輩だそうですね。
「そうなんですよ。僕が中学1年生のときに、松浦さんは3年生の先輩だったんです。ちょうど『Yeah! めっちゃホリディ』がリリースされた時期で、校内でもすごく話題でした。我が校自慢の先輩という感じで、学校で見かけても、スター感があってキラキラしていて。僕なんかとても近付けませんでした。今作で、松浦先輩がプリントされたTシャツを着て、松浦先輩を“あやや”と呼ぶのですが、すごく不思議な感覚でした。演じるときも、先輩、すいませんという感じで」
──ところで、松坂さんが10代、20代の頃、憧れのスターはいましたか。
「今も大好きなんですけど、10代の頃、部屋にBUMP OF CHICKENさんのポスターを貼るくらい、大ファンでした。ライブのチケットも何度も落選して、当選した友達に代わりにグッズを買ってきてもらったりしてました。最初は、歌声から入って、その次に歌詞にハマったんです。なんて独特な歌詞なんだろうと。10代の頃、うまくいかなくて落ち込むことはあるじゃないですか。そういうときに、BUMPさんの曲を何度も繰り返し聴きました。BUMPさんの曲は、無理に背中を押したり、頑張れと励ましたりはしないんですが、寄り添ってくれる独特の距離感が僕には心地が良くて。ずっと聴いているうちに、一歩踏み出してみようと思えるんです」
──では、今作の中の、アイドルオタクの感情は理解できたのでは。
「すごく共感しました。今作で、みんなが松浦先輩やハロプロに活力をもらったり、元気になる感覚はすごく理解できました」
──BUMP OF CHICKENに、直接会ったことはありますか。
「それがあるんですよ。2012年の“GOLD GLIDER TOUR”のオープニングムービーに参加したことがありまして、撮影現場にみなさんがいらしたんですよ。『うわ! 本物だ!』と思って握手していただいて。そこからは緊張しすぎて記憶が途切れています。ただ、ひたすらいい方だったという印象だけが残っています」
──それは“成功したオタク”ですね。
「そう言うんですね(笑)。当時、僕は、いろんなところで、BUMPさんが好きだと言ってたんですよ。それがお仕事につながって、言霊ってあるんだな、言ってみるもんだと思いました」
エンターテインメントができることを改めて考えた
──現在、松坂さんはファンに“推される”存在でもあります。ファンに対してはどのような思いをもっていますか。
「アイドルの方々とは畑は違えど、エンターテインメントを仕事とする一人として、多くの方に楽しんでいただいたり、メッセージを伝えたり、パイプの役割もあるのかなと思うんですね。だから、その期待には応えていきたいと思っています」
──松坂さんが出演する作品には、メッセージが込められているように感じます。今作の出演を決めた理由は?
「観る方に何かプレゼントできればいいなと思って、出演作品を決めてたりするんですが、この作品は、2020年2月に撮影して、撮影前と今とでは、ちょっと違う感情なんです。撮影後、数ヶ月で、世界はガラッと変わり、悲しいこと、辛いことが本当にたくさんありました。この作品は、クスっと笑えるような作品なので、今だからこそ、みなさんに観ていただきたいし、楽しんでいただけると思っています」
──劇中に描かれているライブやイベントの熱気も懐かしくなりました。またそういう日がやってくるのかなと……。
「そうですよね。コロナ禍で、エンターテインメントが一斉に停止したとき、自分の中で改めて感じたのもそこなんですよ。これまで、エンターテイメントがどれほど心を救ってくれたのか。僕の仕事は、大変なときに心を少しでも軽くすることができる職業だし、これからも役者という立ち位置から、みなさんの助けになれたらいいなと思っています」
ハマっているのは『マツコの知らない世界』と「ゲームアプリ」
──昨年から周囲の環境も色々と変化したと思いますが、今、プライベートで楽しんでいることは?
「マツコ(・デラックス)さんの番組はほぼ観ています。特に『マツコの知らない世界』では、毎回、その道のオタクの方が、マツコさんにプレゼンしますが、マツコさんVSオタクという構図も面白いし、いかにマツコさんを唸らせることができるかという攻防戦と、適度なゆるさが絶妙です」
──その道の、ということでいうと、『ゲームアプリ』に関しては有名ですが。
「そうですね、今もやってますよ(笑)」
──菅田将暉さんの『オールナイトニッポン』でも、デュエルの話は大人気ですよね。
「最初は軽い気持ちで話していたんですけど、2回3回出演するたびに、喋らざるを得ない雰囲気になってきて(笑)。ゲームをやっている方が、こんなにたくさんいるんだとわかって嬉しいです」
──もともと趣味にのめり込むタイプなんですか。
「小学生のときから、ミニ四駆やヨーヨーとか、ひとり遊びが好きでした。今もそうですね」
──では、外出自粛期間中もそんなに苦でなかったとか?
「でも、自分から家にこもるのと、外出を控えるというのでは意味が違って。やっぱりストレスを感じますよね。コロナ禍によって、昨年からいろんなことが起きて、改めて作品に参加できる喜びを感じたし、無事に撮影を終えることが、いかにありがたいことかも実感しました。この期間で特に大きく考え方が変わったわけではないですけど、今作『あの頃。』も含め、いい作品をみなさんにお届けしていきたいと思っています」
『あの頃。』
バンド活動もうまくいかず、バイトに明け暮れていた劔樹人は、友人・佐伯から「これ見て元気をだしや」とDVDを渡される。それは、松浦亜弥の『♡桃色片想い♡』だった。思わず、画面に見入ってしまい涙が溢れてくる劔。その後、ハロー!プロジェクトのイベントに参加し、個性豊かなハロプロオタク「ハロプロあべの支部」の面々に出会う。そこから、ハロプロに全てを捧げる青春の日々が始まる。そんな愛しい時間は永遠に続くと思っていたが……。
監督/今泉力哉
脚本/冨永昌敬
原作/劔樹人
音楽/長谷川白紙
出演/松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウほか
URL/phantom-film.com/anokoro/
©️2020年『あの頃。』製作委員会
Photos:Takehiro Goto Styling:Takafumi Kawasaki(MILD) Hair&Makeup:Azuma Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Yukiko Shinto