宮沢氷魚インタビュー「ゲイの役を通して、自分を隠して生きる苦しさを知った」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.65は俳優・モデルの宮沢氷魚にインタビュー。
ドラマ『偽装不倫』でも注目された、俳優・モデルの宮沢氷魚。映画『愛がなんだ』の今泉力哉監督が手がける新作『his』では、周囲にゲイと知られることを恐れながら、元恋人を思い続ける主人公・井川迅(シュン)を演じる。「ゲイもバイセクシュアルもいることが普通だと思っていた」という彼が、迅という役を通して感じたLGBTQを取り巻く日本の現状と家族、プライベートについて聞いた。
社会を変えるために、自分にできることはこの作品に出ることだと思った
──今回の『his』は、井川迅と藤原季節さん演じる日々野渚との、長い時間をかけた物語です。男性同士のラブストーリーですが、演じる前の印象は? 「僕は高校まで、インターナショナルスクールの男子校に通っていたんです。幼稚園から高校までの一貫校だったので、思春期を迎えるにつれ、ゲイやバイセクシャルの人も出てくるんですが、僕からしたら幼稚園の頃からの仲間なので、何の抵抗もなく普通のこととして受け入れていたんです」 ──アメリカに留学していたときは? 「アメリカはオープンにしている人も多いのですが、それは普通の恋愛のひとつで。日本に帰ってきたとき、日本にはLGBTQが極端に少ないと気づいたんです。でも、割合からしたら、そんなに少ないわけがないんですよ。それで、日本ではみんながオープンにできない、その環境が整ってないんだと気付きました。僕の友達は、こんなに生き辛い社会の中にいたんだと」──実感があったんですね。
「それで、この作品の台本を読んで、すぐに出演したいと答えました。少しでも彼らが生きやすい世の中にするために自分ができることは、こういう作品に出演することなんじゃないかと思いました」
──今回、迅を演じて、初めてわかったことが多かったそうですが。
「迅は、ゲイであることを隠して生きている人間なんですが、実際に演じてみたら、想像よりもはるかに辛かった。自分に嘘をついて生きることが、こんなに苦しいことだとは知りませんでした。ただ、ゲイに生まれてきただけで、それは悪いことじゃない。でも、自分を受け入れることができない。その葛藤を演じながら感じていました」
──迅の人物像はどのように作っていきましたか?
「撮影に入る前に、今泉監督と脚本のアサダアツシさんがそれぞれ迅として思い描いていた人物像があったんですけど、僕は感情を表に出さない、ボソボソと喋る迅をイメージしていて。監督はもっと明るい迅をイメージしていたそうなんですけど、台本(ほん)読みのときに、『落ちてる方がいいから、それで行こう』と言ってくれて。そうやって、みんなで意見を出し合いながら、迅の人物像を作っていきました」
──そのイメージは、さっき言っていたように、自分を隠さなくちゃいけないから?
「迅は、自分の思いを隠しながら生きてきたと思うんです。それに慣れてしまって、気付いたらそんな自分がどんどん嫌いになって。都会から逃げて田舎に移住したけれど、住民の方に自分からアプローチしないし、ひとりで孤独に生きていくんだと覚悟していたと思うんですね」
──監修に弁護士の南和行さんが参加しています。南さんご自身も、同性パートナーで同じく弁護士でもある吉田昌史さんと結婚式を挙げています。南さんからはどんなお話を?
「南さんは後半にある裁判シーンも監修してくださったんですが、一緒にいるだけで感じるものがありました。初対面のときに、こちらから質問しなくても、ご自身のことや熱い想いとか、いろんな話をしてくださったんです。もしかしたら、南さんも最初からオープンだったわけじゃないのかもしれない。それを乗り越えて現在があるのだとしたら、迅だったら、羨ましく感じるんじゃないかと。迅は自分を抑えて生きているけれど、いつかこんな風になれたらと思いました」
「心の底から愛した人の子どもであれば」
──映画のクライマックスのひとつに、迅が地域の方にカムアウトする場面があります。その場面の迅の表情が印象的でした。
「撮影は岐阜だったんですが、10日近く滞在して、あのシーンの撮影も終わりの方だったんです。それまで撮影したシーンを、走馬灯のようにフラッシュバックしていたら、自然に気持ちが出来上がって。空(渚の子ども)から言われた『悪いことしてないのにね』という言葉だったり、鈴木慶一さんが演じた緒方さんとのシーンだったり。初めて自分と正直に向き合って、あと先のことを考えずに、自分の気持ちを伝えられたシーンでした」
──カムアウトするシーンで、宮沢さんの耳がうっすら赤くなっていました。あれは感情が昂っていたからでしょうか。
「寒かったというのもありますが、けっこう、耳に出やすくて。肌が白いので、手もよく赤くなったりするんです」
──なるほど(笑)。今作では、元恋人の渚(藤原季節)が、彼の子どもの空(そら)を連れて、迅の前に8年ぶりに現れます。空ちゃんとのシーンも多かったですよね。
「毎日一緒に遊んでいました。3人兄弟の長男なので、子どもと遊ぶのは得意なんです」
──兄弟の面倒をみたり?
「しっかりしていたので(笑)」
──今作は、血のつながらない他人同士が家族になれるのか、というテーマもありましたが、宮沢さんご自身はどう思いますか。
「血がつながっている親子も別々の人間なので、他人といえば他人です。だから、血のつながりはそんなに重要ではないし、自分が心の底から愛した人の子どもであれば、気にしません」
──今回の『his』は、二人の爽やかなラブストーリーが軸ですが、LGBTQが直面している問題や、婚姻や養子縁組制度など、日本の問題も組み込まれていますね。
「そうですね。『his』の公開で、LGBTQの方の現状を変えられたり、救うことができるなんて大きなことは言えなくて。何も変わらないかもしれないけれど、彼らの現状を知ることもいいですし、身近にいたらこの作品を思い出して話してみるとか、少しでも考えるきっかけになったら嬉しいです」
プライベートは野球とお粥
──では、オフのお話を。今、ハマっていることは?
「お粥です。佃煮とか梅干しとか、白粥に合う具材を試しています。この前、あさりの佃煮を買いました。ちょっと塩っぱいものがいいんですよ」
──お粥好きになったのは最近ですか?
「もともとお腹が強い方じゃかったこともあったし、小さい頃に風邪をひくと親が作ってくれたりして、お粥はずっと好きなんです」
──中華粥はどうですか?
「好きなんですけど、自分では作ってないな。難しそうじゃないですか?」
──材料を揃えればそうでもないです。気分を変えたいときは何をしますか?
「友達に会ってお酒を飲んだり。特別なイベントはしません」
──好きなお酒は?
「焼酎です」
──お粥と焼酎、渋いですね。ショッピングにはよく行きますか?
「あまりお金を使いたくないので、年に数着、買うくらいです」
──貯蓄が趣味?
「いつ何があるのかわからないので」
──たまに草野球をやっていると伺いましたが。
「今は年に1回くらいですね。小学校から大学まで野球をやっていたんです。モデルを始めて、顔にボールが当たると仕事ができないので、そこで辞めました」
──ポジションは?
「ショートです」
──瞬発力が大事なポジションというイメージがありますが。
「脚には自信があります。今は定期的に、ランニングもしてます。記録を狙うというより、コンディションを維持する程度に。なんだかすいません。僕、プライベートは地味なんです(笑)」
宮沢氷魚、映画初主演!
『愛がなんだ』の今泉力哉監督が描く男性同士の愛のかたち
2019年に放映されたドラマ『his〜恋するつもりなんてなかった〜』の13年後。田舎で自給自足の生活を送る井川迅(宮沢氷魚)の前に、8年前に別れた恋人・日比野渚(藤原季節)が現れる。しかも6歳の娘・空を連れて。突然、始まる3人の共同生活だが、徐々に地元のコミュニティに馴染んできた頃、空の母親・玲奈が親権を主張し、空を連れ帰ってしまう……。
『his』
監督/今泉力哉
企画・脚本/アサダアツシ
出演/宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香、外村紗玖良、中村久美、鈴木慶一、根岸明、堀部圭介、戸田恵子
URL/www.phantom-film.com/his-movie/
1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
©2020 映画「his」製作委員会
衣装: シャツ¥29,000 パンツ¥33,000/ともにstein(スタジオ ファブワーク 03-6438-9575) ニット¥31,000/John Smedley(リーミルズ エージェンシー 03-5784-1238) シューズ¥42,000/REGAL Shoe & Co.(リーガル シュー&カンパニー 03-5459-3135)
Photos: Kanta Matsubayashi Styling: Takanori Akimiya Hair & Makeup:Yosuke Akizuki(taffic) Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto