秋元才加インタビュー「自分が成長すると、立ち位置も環境も変化する」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.56は女優、秋元才加にインタビュー。
2018年12月4日(火)から世田谷パブリックシアターにて公演がスタートする、三谷幸喜の新作ミュージカル『日本の歴史』。1700年にも渡る日本の歴史をわずか約2時間半で描き、中井貴一、香取慎吾をはじめとする出演者7名で演じ分けるという。三谷作品の常連になりつつある秋元才加も、そのキャストの一人。AKB48を卒業して5年、舞台に積極的に挑戦している彼女に、謎が多い本作について、そしてアイドル時代やプライベートについても聞いた。
演じる役の方が、本来の自分に近いのかもしれない
──三谷幸喜さん演出のミュージカル『日本の歴史』のお稽古が進んでいるそうですが、どんなお話ですか。
「この舞台を見たら、卑弥呼から始まる1700年の日本の歴史の全体像がわかります。私は歴史に疎かったのですが、台本を読んで初めて日本の歴史が面白く感じられました。学校で習った歴史は点としてしか覚えられず、線としてつながらなかったのですが、今回、自分の中で一本筋が通った感じ。7人の出演者はそれぞれ何役も演じます。ただし、メジャーな歴史上の人物ばかり出てくるわけではなく、三谷さんならではの人物もチョイスされています」
──秋元さんが演じる役のひとつ、弥助も名前を聞いただけではピンとこないのですが、どんな人物ですか。
「織田信長の家来だったアフリカ人です。私がキャスティングされた段階で、三谷さんは弥助を入れよう!と決めたとか(笑)。弥助には異人なりの悩みがあり、自分のアイデンティティの問題を突きつけられているようにも感じられます。登場人物を見ていると笑っちゃうところも多いのですが、最後の最後にはものすごく考えさせられて。『INGA』というナンバーではリードヴォーカルを務めていますが、観劇後、この曲が大事だと思っていただける気がします」
──三谷作品には舞台『国民の映画』、映画『ギャラクシー街道』、ドラマ『黒井戸殺し』に出演なさって、今回が4作目。三谷さんに言われて印象的だったことは?
「『幸が薄い役が似合いますね』(笑)。30歳になって思うんですけど、20代は親から与えられた顔っていうじゃないですか。ところが30歳を過ぎると、意思が顔に表れて、自分の作った顔になっていく。最近ふと鏡を見たら、自分の顔に哀しみが強くなっていると感じることがあるんです。写真でも家の環境やルーツなどへの思いが積み重なって、自分では強い目のつもりだけど、うっすら物悲しくなっている気がして。私、自分の中では派手で強いお姫様というスタンスで行きたいのだけど、三谷さん曰く、『お姫様役は来ないと思います。『ノートルダムの鐘』のエスメラルダみたいな役が絶対合いますよ』と、家庭環境で苦労しつつ、健気に強く生きる野性味溢れる女性を推してくるんです。また、『人のことをよく見ているのに、自分のことは一番わかっていませんね』とも言われました。その結果が、今回の弥助。アフリカ人なのに知らない土地に連れてこられて、完全に異物でしかない存在。三谷さんからは私のパブリックイメージである、強くて明るい人の役はもらえないでしょうね。でも三谷さんの役の方が、本来の自分に近いのかもしれない。他のキャスト方々の役も同じ、みんな三谷さんに見透かされていると思います」
──では、配役からその俳優の素がわかる、と。
「はい。例えば新納(慎也)さんは他のお仕事ではすごく明るくひょうきんな役が多いけど、三谷作品では明るければ明るく振る舞うほど、物哀しく見える役ばかり。新納さんに、『哀しく見えます』と言ったら、『三谷さんにも言われる。なぜ、わかるの?』と聞かれ、ああ、私って人のことは見えるんだなぁと」
──秋元さんは現在、女優としてご活躍ですが、目指した方向に向かっている実感はありますか。
「卒業後、5年経って、やっと目の前が見えてきたかな。2013年に卒業して、その後の3年は種まきの時期でした。AKB48で私は中心メンバーではなかったし、マラソンのように長い目で見て、コツコツ積み重ねていけたら、と」
──随分、堅実ですね。
「AKB48という大所帯で揉まれたことで、自分の立ち位置を掴めたので。スピードが速い子もいれば遅い子もいて、でも諦めたらストップしてしまう。行けるところまでは行こうとコツコツやってきて、自分の成長と共にご一緒する俳優さん、演出家さん、スタッフさんが、プロフェッショナルの方ばかりになってきたことを実感しています。あの頃、この環境で退屈、嫌だなぁと思っていたことも、自分が成長することで、立ち位置も環境も変化するんだなって。『日本の歴史』の現場もそうですけど、皆さん仕事が早いんですよ。その上、演技に集中できる環境を作ってくださり。演出部さんや制作さんのケアが手厚いです。三谷さんが、『小道具を増やします』と言うと、即出てきますからね。良い現場にいると、ずっとここにいられるように成長しなきゃ!と喝が入ります」
制服が似合わないアイドルでした
──AKB48在籍時、周りは女の子ばかりで、それも仲間でありライバル。フラストレーションが溜まったことも?
「当時は常にビリビリしていました。ピリピリじゃなくて、ビリビリ!絶対に負けないと虚勢を張っていましたね。大島優子も『あの頃は電磁波が出ていたよね』と、同じことを言っています。気持ちが休まる暇がなくて、目尻がキッと上がり、常に戦闘態勢。今思えば、若い時はあのくらいがちょうどいいのかもしれないけど。アイドルはニコニコ笑顔で可愛らしくやっていますけど、実のところ、誰よりも強くてしたたかで賢くないとできない。卒業して、より感じますね」
──アイドル時代は、充実した時間だったと思いますか。
「ソロでデビューするよりチャンスに恵まれたと思うし、若い時期にいろいろなクリエイターとお仕事したり、握手会ではファンの方、スタッフ、芸能界の先輩など多くの人たちと接することができたことは感謝しています。一方で総選挙では現実が付きまとい、夢を見られなくなったところもあります。その分、腹が据わったような」
──やはり総選挙は精神的に厳しかった?
「総選挙期間中はずっと悟りの本を読んでいました(笑)。総選挙は台風みたいなもので、ちょっとぶれるとすぐ吹き飛ばされてしまう。でも台風の目の中に入れば平和なので、ここにずっといる!と決めて。環境に流されず、まっすぐ進むために必死でしたね」
──そんな波乱の現場で、自分の持ち味や武器を見出せましたか。
「私は比較的エキゾチックな顔立ちで、制服が似合わないんです。そのことですごくネガティブになり、悩んでいたんですけど。ただ、時折私服でお仕事すると、『すごく似合いますね』『メイクするといい顔だね』って褒められる。井の中の蛙大海を知らずで、AKB48にいると自分が醜いアヒルの子みたいな気分だったのですが、一歩外の世界に出ると、個性、チャームポイントとして認めらえる。それに気づいてからは、制服が似合わないのも自分の個性と開き直ることができました」
──確かに、AKB48在籍時からアイドルっぽくなかったような。
「いろんな人に言われます。今回も(川平)慈英さんに『え?AKB48にいたの?そんな匂いが全然しないね』って(笑)。私はアイドルを全うしたつもりなんですけど、向き不向きがあったのかな?」
──卒業後は即、女優の道と決めて、始めたのですか。
「当初、いろんな仕事をやらせてもらったのですが、自分の中ではお芝居の表現と変わらない感覚でした。では『肩書きは?』と聞かれて、それまでAKB48で全て事足りていたので、うーん…と。優れた女と書く女優って呼ばれるのはむず痒いし、タレントだと才能という意味で何か違う。もちろん女優のお仕事を軸にやりたいけど、仕事には波があるじゃないですか。何もオファーがなければ、なんでもやります!となるので。将来、女優一本でやっていけるように、今は下地を作っている最中かと」
第一子は男の子が欲しい!
──30歳となると、そろそろ結婚を考えるお年頃?
「はい、考えますね。憧れではなく、いつ結婚して、いつ頃子供を産むのか、リアルに考えるようになりました。子供を産むとなると、意外にタイムリミットが短いなぁって。先輩方が30歳になったら焦ると言っていた意味がやっとわかってきた感じ。全然早いよ!とも言われますが、お仕事との兼ね合いを考えると…。役柄でもお母さんや妊婦の役が回ってくるようになりましたから、自分の人生としてだけでなく、女優としてもプラスに働く気がして。きっとパートナーが支えてくれるという安心感があるし、理解してくれる相手なら、生活もどうにかなるでしょ!って。みなさん、結婚はタイミングとおっしゃいますしね」
──確かに結婚は勢いがないとできないですからね。子供は何人とか考えていますか。
「人数まで考えていないですけど、第一子は男の子が欲しい。私、Instagramの中村獅童さんのお子さんの陽喜くんのファンで、毎日いいね!を押しているんです。陽喜くんは愛くるしくて、世界で一番可愛い赤ちゃん!彼みたいな男の子が欲しいです(笑)。スケボーに乗らせたいなぁとか、ちっちゃいナイキのスニーカー履かせたいなとか、なぜか男の子のイメージしか湧かないです」
──オフは何をしていますか。
「昨日がオフで、トレーニングに行きました。30歳になって、筋肉質だった体をしなやかに改造しようと、ほぐしや体幹を基本としたトレーニングを行っています。特にミュージカルはアウターの筋肉をつけないでくださいというボイトレの先生が多いので。あとは外食ぐらい? 昨日は家近くのお寿司やさんでレモンサワー飲んで、お寿司をつまみました」
──では、もし長い休みが取れたら何をしたい?
「今年、事務所にわがままを言って5日ほど休みをとり、コーチェラ・フェスティバルに行きました。世界最大のフェスというだけあって、スケールもレベルも桁違い。日本の援軍としてX JAPANを見ていたのですが、気づいたらビヨンセのライブが始まっていて、付いているダンサーが約200人!まるでCGみたい(笑)。それを見たら、日本でもライブも舞台もより身近になって、もっと発展したらいいなぁ、多くの人に見て欲しいなぁって思いましたね」
──この先の夢は?大作のタイトルロールを演じたい、とか?
「うーん。そういう欲はないですーね。中井貴一さんが、『秋元は欲があるのかないのか、わからない』と。確かにその通り。三谷さんみたいな人気演出家の作品に出たいと漠然と思っていて、それはすでに叶いました。欲はあるけど、主役を張りたいかと聞かれると違う。どちらかというと、二番手、三番手としてずっと、長ーく出ていたいです。中井さんは常に主役を張っていらっしゃるので、キャストへの気遣いが素晴らしいですよね。『若い人は先輩に言いにくいかもしれないけど、でも疲れているときはみんなで疲れている!って言い合おう』とおっしゃったり。香取(慎吾)さんは集中力と求心力がものすごくて、器が大きい。私はAKB48ではチームKのキャプテンでしたが、本来、副やサブが向いていて。コツコツ続けて、できるだけ長くこのお仕事に携わっていたいです」
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ミュージカル『日本の歴史』の情報はこちら
Photos: Gen Saito Styling: Makiko Kato Interview&Text: Maki Miura Edit:Masumi Sasaki, Yukiko Shinto