太賀インタビュー「人以外、あんまり興味がないかもしれない」 | Numero TOKYO
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太賀インタビュー「人以外、あんまり興味がないかもしれない」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.54は、11月16日公開の映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』で主人公を演じる俳優、太賀にインタビュー。

美しく人格者と慕われる母から虐待を受けていた自身の壮絶な半生を赤裸々に描いた、歌川たいじのコミック・エッセイ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』を、『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』の御法川修監督が映画化。確執のある親子として、実力派俳優の吉田羊と太賀が対峙する。どんな作品でもリアリティをもってスクリーンの中に生きる俳優・太賀が、本作で体現したのは、悲しみを打ち負かすような明るい強さだった。現在25歳の太賀が、本作について母親との関係ついて、プライベートの楽しみ方について語ってくれた。

原作を読んだときの温もりが、演じる上でのヒントになった

──本作に出演することになった経緯は?

「最初、脚本を読んだときに、活字の強さもあって、すごく壮絶な人生で悲しい物語のように感じて、果たしてこれを僕が演じることができるのだろうかと思ったんです。それで参考として原作の漫画を読んだんですけど、歌川さんの絵のタッチがとってもチャーミングで、優しくて、温もりがあって、この物語の本質みたいなものは多分そこにあるんじゃないかなと感じることができて。原作で読んだときに感じた愛おしさとか、生きる上で自分自身を肯定していく力強さみたいなものだったり、タイジという役の明るさだったり、そういうものが演じる上でのヒントにとてもなって、やれるかもしれないなと思って飛び込みました」

──原作者である歌川たいじさんご本人に出会って、取り入れた部分ってありました?

「歌川さんはほぼ毎日のように現場に来てくれて、料理やおやつを作ってくれたりして、結構な頻度で顔を合わせていたんです。とはいえ、『このときはどういう気持ちだったんですか?』とか、そういう意見はあえて聞かないようにしていました。歌川さんからも干渉してくることはなくて、そこはすごく信頼してくれたのかな、と思っていて。でも、他愛のない会話をしながら、その端々から歌川さんの人となりみたいなものを観察させてもらいました。歌川さん自身がお持ちの品のよさだったり、たまに毒づいてるときのチャーミングな表情だったり、所作だったりは、そこから得たことが多いかなと思います」

──この作品を通して、ご自身の親子関係を見つめなおしたりも?

「自分の中の実感は大事にしてましたけど、あえて見つめなおすということはなかったですね。僕自身、不自由なく育ててもらって、親の愛情は全面的に受けていましたし、母が大好きですし、タイジとはやっぱり違う。だから、どうしてもタイジの深い悲しみだったり、逆に言えば喜びみたいなものは、僕の人生ではもしかしたら味わってこなかったかもしれないなぁとは思っていました。でも、僕がタイジにグッと寄り添って、存在を肯定することができたら、映画の中でのシチュエーションの中でタイジのタイジらしさたるものを体現できるのかなと」

──吉田羊さん演じる母親・光子とタイジとの掛け合いは、観ていて辛いながらも胸を打たれるものがありました。

「羊さん演じるお母さんと対峙して、どんな気持ちになるかというのは現場で育んでいくものと思っているので、クランクインまでにある程度の準備はしていたんです。でも、いざ現場に入ってみると、羊さんから引っ張ってもらったというか引き出してもらえたものがたくさんあって、自分が思っているよりも深い領域でお芝居ができたような気がします」

誰しもが抱える弱さにどう手を差し伸べられるか

──親子の話でありながら、友情の話でもありますよね。

「タイジは母からの愛情を人生でそんなにたくさんは受けていなくて、それを補うように友達という存在がとっても重要で、ある意味タイジの居場所みたいなものは、友人との間にあるのかなと思います。でもその居場所ができたからこそ、のちに母に飛び込んでいくことができたのかなと」

──居場所のないところから自分の居場所となる人たちを見つけて、強くなっていけたなという経験はありますか?

「学生時代も今も変わらず、そういう友人がいることで助けられてるなぁという瞬間はたくさんあります。とはいえ、友人だろうが家族だろうが、誰がどうしても救えない状況みたいなものも大いにあるなぁとも感じていて、わりと、人類みな孤独と思っているようなタイプですね。だからこそ、誰かがいてくれてよかったなと思えるんじゃないかなと思います」

──最近、親のネグレクトや児童虐待のニュースを頻繁に目にしますが、そういう現状に対して太賀さんはどうお考えですか?

「もちろん、虐待には絶対的に反対です。じゃあ、なぜ今社会問題になっているんだろうと考えると、親も子も同じ人間ですし、弱さっていうのは誰しもにあって、それが露呈してしまうとネグレクトとか育児放棄とか虐待になるんじゃないかと。親が子どもに対してする暴力ですけど、親自身にとっては自傷行為みたいなところがあると思っていて。多分、今は人間関係の希薄化がより顕著なんじゃないですかね」

──孤独ってことですかね。

「悲しみに耐えられないから当たってしまう。目の前の人を傷つけてしまう。想像するに、やり場のなさっていうのが原因なんじゃないかなと。羊さんもおっしゃってましたけど、『きっとこの問題の当事者は、この映画見れないだろう』って。でも、そうじゃない人たちは彼らみたいな人に手を差し伸べるヒントになるんじゃないかとおっしゃってて、本当にそうだなと。手を差し伸べるって勇気がいることですし、『あのとき声を掛けてあげればよかったな』とか、『もうちょっと側にいてあげればよかったな』と後悔することはありますね」

──そういうときに重要なのは、明るさや笑いで行き詰まった空気を変えることなのかな、と本編を観ていて思いました。

「監督はある種、それを狙っていたんだと思います。僕がこの映画をやる上で、今までもそうですけど、リアリティをもって演じるということをすごく重要視していて、今回もそのつもりで臨んだんですが、監督の意図としては、『実際のリアリティよりも10㎝ほど宙に浮いたような世界観でやっていきたい』というものだったんです。それがこの映画の持っている明るさであり、想像を絶するような悲しい出来事を打ち負かすような強さに変わると。最初はその10㎝をどうやったら表現できるんだろうと悩みましたけど、監督が熱心に丁寧に描いてくれていたので、信じて乗っかってみようと思いました」

自分にとっての潜在的な正解は母の中にある

──太賀さんにとって、お母さんはどういう存在ですか?

「とても仲が良いですし、大好きですし、愛情もたくさん受けていて、無自覚に、自分の中での基準になっているような気がします。母が僕に対して、あれがいいとかよくないとか言ったとして、同調できなかったら衝突するんですよ、ぜんぜん。でも、自分にとっての潜在的な正解は母の中にあるというか……」

──自分以上に自分のことをわかっている人みたいな?

「いや、それとも違うんですよ。そんな達観した生き物でもないと思う、母親っていうのは。うーん、難しいな……。正しい、間違ってるというよりは、自分が求めてるものがわりと母的なものだったりするのかもしれないです。もしかしたら」

──じゃあ、コミュニケーションはよく取る方なんですね。

「取りますし、なんでも話します。でも、違う人間なので、なんでもかんでもわかり合えるとは思ってないです。違う人間なのに、なぜか「僕の中の基準」っていうところがミソで、それが「親子」で。共感もしないし、わかり合えないし、喧嘩もしないし、干渉もしない、されたくもない。でも、「正解は母」っていうのが自分の中である。これ理屈じゃないですね、たぶん」

──母親から生まれてますしね。

「根幹なんだと思います。だから、母が死んだら僕の何かが崩れる。それは怖いですね。そういう存在です。なんだか母のことをしゃべるって変な感じです(笑)」

──お母さんは、太賀さんが出演されている作品はご覧になってるんですか?

「見てるものと見てないものがあると思いますが、ほぼ観てないですね。関心がないんですよ。『マジか……』と思います。父親はすべて観てくれてるんですけどね。不思議ですよ。でもまあ、別に観なくてもいいけど……(笑)。何か言うんだったら観てほしいし、何も言わないんだったら別に観なくてもいいですね」

ハマっているのは、スッポンとサウナ

──今、プライベートでハマっていることは?

「最近、スッポンをよく食べに行きますね。すごくリーズナブルに食べられるお店があって、そこに友達だったり、会ったことない人と10人ぐらいで、みんなでスッポンを囲むっていう会をやってます」

──やっぱり、活力は出るものですか?

「そこらへんは実感ないんですけど、ただ、みんなでスッポンの血を一滴残らず、みたいな感じで飲んだりして。スッポンってあまり食べる機会がなかったんですけど、『若者みんなでスッポンをちゃんと食べに行こう!』とみんなでスッポンと向き合う、という一連の行為にハマってます。ザギンでシースーしてみる会とかもしてます。……『Numero』っぽくないですね(笑)」

──太賀さんは、プライベートでも役を引きずるタイプですか?

「ふらっと現場に来て、パパッとやるみたいなことが僕できなくて。なので、ずっと考えてる……というか、神経を研ぎ澄ませていかないと、わりとカメラの前に立てないんですよね。だから、ちょっとピリッとしてる感じかもしれません」

──そういうときに、切り替えるためにやっていることはありますか?

「ひとつの区切りみたいな感じで、サウナ行ってますね。ひと仕事終わって行くこともありますし、仕事の前日に気合入れるために行くこともあります。サウナに関しては美学というか、自分のルーティンがあって。その日のコンディションの中での限界までサウナに入って、水風呂に1分ぐらい入って、そこから外気浴というか外でボーッとする時間がある。それが僕の中で重要で、『ホップ・ステップ・ジャンプ』なんです」

──外気浴が「ジャンプ」なんですね。

「そうなんですよ。その時間で自分の中の邪念を取っ払っていく作業をしています」

──太賀さんはお友達とワイワイ過ごす時間は多そうですが、あまりベッタリはしなさそうですね。

「みんなでワイワイするのは好きですが、つるむ感じになってるなぁって思ったらやめちゃうという傾向はあります。そこはバランスですね。一定の距離感を大前提に付き合いたいですし、どこかでちょっと放っておいてほしいと思うことはあります。それはたぶん、ある種、友人だったり家族だったりに恵まれた環境にいるからだと思います」

──友達に愛されていそうなイメージすごくあります。

「いつもワイワイってわけでもないんですけど、側から見たらどうなんでしょうね。でも、いろんな人と会おうと心がけていますね。人は好きなので。人以外、あんまり興味ないかもしれないです」

映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』の情報はこちら

Photos:Ayako Masunaga Styling:Ryota Yamada Hair&Makeup:Masaki Takahashi Interview&Text:Tomoko Ogawa Edit:Masumi Sasaki

Profile

太賀(Taiga)1993年2月7日生まれ。東京都出身。2006年に俳優デビュー。08年、映画『那須少年期』初主演を果たす。14年、第6回TAMA映画賞 最優秀新進男優賞受賞。『淵に立つ』(16)で第38回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞受賞。主な出演作に『ポンチョに夜明けの風はらませて』(17)、『南瓜とマヨネーズ』(17)、『50回目のファーストキス』(18)など。公開待機作に、『十年 Ten Years Japan』(11月3日公開)がある。現在、日本テレビ系10月よりスタートのドラマ『今日から俺は!!』に出演中。

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