LEO今井インタビュー「馬力を増していくことがゴール」 | Numero TOKYO
Interview / Post

LEO今井インタビュー「馬力を増していくことがゴール」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.53はミュージシャン、LEO今井にインタビュー。

ソロとしての活動と並行して、「METAFIVE」のフロントマン、また向井秀徳とのユニット「KIMONOS」でも活動するLEO今井。スウェーデンと日本にルーツを持ち、ロンドンで育ったマルチリンガルな彼が奏でる音楽は5枚目のアルバム『VLP』でより迫力と厚みのある骨太なロックへと到達した。ミュージシャンとして彼が目指す方向、そしてその素顔とは?

「さりげない」を辞書で引きました

──今回のアルバム『VLP』というタイトルに込めた意味とは?

「特に深い意味はないです。5枚目のアルバムだから『VLP』です。なので意味はそれぞれに委ねようと思って」

──ストレートですね。EP『Film Scum』『On Videotape/Stumbling』に続いて、アートワークには説明的な文字が大きく使われています。これにはどんな意味が?

「単純にそうした方が話は早いかと。『Film Scum』のアートワークで、バンドメンバーのクリーピーな感じの写真に文字を置いたらそれが面白かったので、アルバムもその流れを続けました。同じ期間で作りましたという、言わばハンコのようなものです」

──ソロとしてのアルバムは『Made from Nothing』から5年ぶりです。ロックとエレクトロのミックスから、今回は太いロックが全面に展開されていますね。

「エレクトロな要素はだいぶ減りました。2012年から岡村夏彦(ギター)、シゲクニ(ベース)、白根賢一(ドラム)の4人でライブをしていますし、ワンマンイベントを自分でオーガナイズしたりもしているので、ライブを意識しました。全ての曲はこの4人で演奏するためであり、表現したいのはバンドの迫力です。それに、なるべくステージにはPCを置きたくないので、出来るだけバックトラックは減らしました」

──前作に「Ame Zanza」という曲がありましたが、今回も「Sarigenai」という絶妙な日本語タイトルの曲があります。曲中で「Sarigenai(さりげない)」が「サタデーナイト」とも聞こえたりもして、言葉のチョイスが面白いですね。

「それはですね、もしかしたら私自身も『Saturday Night』と歌っていたのかもしれない。自分でも歌いながらそう聞こえていました。『さりげない』という言葉を選んだのは、言葉の響きの面白さから。会話によく登場する言葉だけど、実は意味をちゃんと理解してなかったので、今回、改めて辞書を引いて調べました」

──『Fresh Horses』の冒頭で「エゼキエル」という言葉が登場しますが、これは?

「旧約聖書に登場する預言者です。バーバーショップ・クワイア(アカペラの合唱の形式)でよく使われる言葉なんですよ。これも言葉の響きが面白かったので使いました」

──言葉の響きで歌詞に取り入れることはよくあるんですか。

「歌詞は声という楽器を鳴らすための道具でもあるので、響きは大事だと思います」

──歌詞を考えるときは英語で考えてから日本語に?

「歌詞は英語で考えて、そのまま英語詞にすることもありますし、『Bite』のように日本語で思い浮かぶことがあります。この曲はアニメ『メガロボクス』のオープニングテーマとして制作したのですが、まず監督とアニメのストーリーや、彼がインスピレーションを受けた音楽や映画の話をしました。特に日本語詞で作って欲しいと注文されたわけじゃないんですが、その会話からインスパイアされたので、自然と日本語の歌詞になりました」

──それ以外の曲が英語詞なのは、心の深い部分が反映されているからなのでしょうか?

「深いかはわからないけど、ナチュラルな心情で書いたからなのかもしれませんね」

インスピレーションを掴まえて噛みしめる

──曲は轟音の中に美しい旋律が現れ、ダークな力強さに一筋の希望のようなものを感じます。

「初めて音楽に触れたのが、カントリー・ポップやビートルズなので、潜在意識にメロディアスなものが刷り込まれているかもしれません。絶望感で終わってないとよく言われますが、私も絶望に浸りたくはないのでちょっとだけ。光があると見えるものが違いますから」

──「Wino」という曲は夢がインスピレーションソースとのことですが。

「タイトルの“Wino”とは呑んだくれを意味するスラングなんです。目が覚めたときに夢を覚えてることは珍しいんですが、とても複雑な気持ちになるような内容だったので、そのまま歌詞にしました」

──歌詞はどんなものにインスパイアされることが多いんですか?

「言葉で伝えたいことがそんなにあるわけじゃないので、いつも題材に困るんです。でも、歌うからには歌詞がなくちゃいけない。だから、インスピレーションソースを見つけること自体がひとつのハードルです。例えば、映画のサウンドトラックやニュース、スタンダップコメディ。そこから題材をキャッチしたら、さらにそれを自分なりに噛みしめる。なるべく深読みしてもらえるものにしているつもりです」

ラブ&ヘイトな密集都市・東京

──スタンダップコメディは日本ではあまり馴染みがないのですが、ご自身のアイデンティティが、ロンドン、ストックホルム、東京にあることで、アイデアの引き出しが多様なのでしょうか。

「そうですね。都市自体をテーマにすることもありますし、特に東京は自分の身近な環境だけど、アウェイ感や違和感のある場所です。ゴチャゴチャして、なぜここにこんなものが?という違和感もある。人口や建造物の密集度が高く、圧迫感とスケール感が他の都市に比べると桁違いです」

──ストックホルムは?

「ストックホルムはきれいな街ですが、ほっこりして刺激は少ない。逆に東京は私にとって“ほっこり度”はゼロです」

──情報量は多いですよね。

「多過ぎですよ。でも、それが好きなところでもあるからラブ&ヘイトです」

──ロンドンは?

「ここもラブ&ヘイトですね。東京と比較すると治安の面で身の危険を感じます。他の都市に比べれば安全なんでしょうけど。ロンドンへは毎年戻るんですが、経済的な格差がますます浮き彫りになっていて、金がモノを言うヤッピーカルチャーへの揺り戻しを感じます。EUによりヨーロッパがひとつの国のようになると期待してたんですが、今は逆行しています」

馬力のある音楽を鳴らしたい

──音楽的なバックグラウンドをお伺いします。音楽にのめり込んだのはいつ頃から?

「13歳の頃ですね。当時はロンドンに住んでいました」

──ということは、UKロックに影響を受けたんですか?

「当時はPulp、Blur、Oasisなど、ブリットポップ全盛の時代でしたが、それはあまり好きじゃなくて、シアトルのAlice in Chainsや、Panteraなどのメタルから音楽にのめり込みました。やっぱり馬力が違いますから」

──では、エレクトロニック的な要素はどこから?

「17、8歳のときに、Aphex TwinやDJ Shadowなど、Warp、Mo’Wax、Ninja Tuneあたりのものを聴いて、ギターが入ってない音楽もいいんじゃないかと思いました」

──ロンドン大学を経てオックスフォード大学院を卒業。文学を専攻していたのに、なぜ音楽の道に?

「もちろん卒業後は大学に残る選択肢もありましたし、むしろ長く大学に居過ぎて大学以外に職はないんじゃないかと思っていました」

──教授になるか、ミュージシャンかの二択だったんですね。

「ただ大学に残るのはあまりにも孤独ですし、そうかと言って他の職業も考えられない。それで一度、本気で音楽をやってみようかと」

──それで日本に戻ってミュージシャンに?

「きっかけは、今のバンドメンバーのシゲクニなんです。彼は高校時代からの友人なんですが、20歳からプロミュージシャンだったんですね。彼のつてで小さなインディーレーベルの人が私のデモCDを聴いて、日本でリリースしてみないかと誘ってくれたのが2005年頃です。学生でしたがもう25歳だったので、やるなら今しかない。日本に行ってリリースしてみてどうなるのか、一度トライしてみようと決心しました。だから、彼が全ての始まりだし、彼に出会っていなかったらこうなっていなかったでしょうね」

──2006年に『City Folk』を発表してから、音楽性がどんどん迫力を増しているのは、最初に衝撃を受けた“馬力のある”ロックが関係しているのでしょうか?

「そうなんですよ。馬力を増していくことが私のゴールです。今のバンドメンバーで2012年からコツコツ活動して、徐々に一体感が出てきました。この4人なら自分が思い描く音楽を、説得力をもって表現できるんじゃないかと思っています」

プライベートはお酒を週に2回

──話は変わって、OFFはどのように過ごしていますか?

「映画を観たり、家でゴロゴロしたり。“ザ・趣味”と呼べるものはありません。休みの日はだいたい家にいます」

──映画はどんなものを?

「その時によって違いますけど、最近は友人の向井秀徳が『ザ・スクエア』を大絶賛していてそれを観ました。そのリューベン・オストルンド監督が手がけた一作前の『フレンチアルプスで起きたこと』は特に面白かった。現代社会を風刺し皮肉っていて」

──アウトドア、特にスポーツはいかがですか?

「自発的には運動しません。ジョギングやエクササイズはしていますが、薬だと思って渋々やってます」

──読書は?

「ほとんどしませんね。特にフィクションは久しく読んでません。読むとしたらノンフィクションです。でもアカデミアに向けたエネルギーは使い果たしてしまったんじゃないでしょうか」

──そう言えば、お酒はどうですか? METAFIVEでもメンバーでよく飲んだとか。

「よく飲みに行きました。メンバーの中では特に飲み続けられるのが私と(高橋)幸宏さんなので、だいたい最後まで残るのはこの2人。砂原さんと小山田さんはお酒をあまり飲みませんしね。でも、最近、お酒は週2日に抑えるようにしています。でも結局、ビンジドリンキング(=暴飲)になって、1週間分のお酒を2晩にまとめて飲んでる。もうね、課題だらけなんですよ」

LEO今井の新作『VLP』の情報はこちら

Photos:Kohey Kanno Interview&Text:Miho Matsuda Edit:Masumi Sasaki

Profile

レオ今井(Leo Imai) ミュージシャン。1981年東京生まれ。その後イギリスへ渡り、高校時代以外はイギリスで過ごす。2006年、本格的な音楽活動のために東京へ移住し『City Folk』をリリース。2008年『Fix Neon』でメジャーデビュー。オルタナティヴを基盤にした無国籍な都市の日常を切り取るニューウェーブ・シンガーソングライターとして注目を浴びる。2010年より向井秀徳(ZAZEN BOYS)とユニット「KIMONOS」を結成。2015年、高橋幸宏、小山田圭吾、砂原良徳、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコと「METAFIVE」を結成。2018年7月11日に5枚目のフルアルバム『VLP』をリリース。

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