寛 一 郎インタビュー「お芝居しか存在証明ができないから」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.51は俳優、寛 一 郎にインタビュー。
映画『菊とギロチン』でアナーキストの古田大次郎を演じる寛 一 郎。父は佐藤浩市、祖父は三國連太郎と、俳優一家に生まれ育ち、いま注目の22歳だ。俳優になった理由や作品について、そしてON、OFFとは?
もっとできると思っていた。現実は甘くない
──映画やドラマの出演が続いていますが、『菊とギロチン』が俳優として、初めての撮影だったとか。
「はい。何もかもが全く初めての経験でした。演劇の学校を出たわけでもなく、何の基礎もない状態。映画は好きでたくさん観ていましたが」
──現場に入って、戸惑いはありませんでしたか。
「ありました。何もかもわからないことばかり。途中から少しずつ、自分が何をすべきかがわかってきて、役にのれるようになりました」
──撮影期間は?
「1ヵ月強です。キャストとスタッフはずっと泊まりで、毎日、朝の5時ぐらいまで飲んでいましたね。雰囲気が良くて、この人たちいいなぁって。お芝居のことを真面目に話す人もいますし、全く関係ない話で、ワイワイ雑談したり。それでも次の日は朝から撮影、全力投球で臨んでいました」
──それ、体力的に大変ですね!
「でも、多分、自分ひとりでいたら、できないことが多くて考え過ぎてしまったと思うので、みんなで一緒に入られたのは心強かったです」
──『菊とギロチン』は、大正末期の日本が舞台で、実際に日本各地で興行されていた女相撲の一座と、実在したアナキスト・グループ“ギロチン社”の物語。寛 一 郎さんが演じた、古田大次郎はどんな男性ですか。
「格差のない平等な社会を目指して、中濱鐡と共にギロチン社を立ち上げた実在の人物です。割と女々しくて、人間臭い。自伝を読んだら、人への嫉妬がこじれて、アナーキストになったんですね。いい意味で、童貞臭くてピュア。その中に熱い気持ちがあって、中濱鐡と行動を共にしたようです」
──古田大次郎とご自身との共通項ってありましたか。
「わりと近しい部分がありました。古田大次郎は現代にいそうな草食系なんですよ。他のメンバーは男臭いタイプばかりなのに」
──中濱鐡役は東出昌大さん。東出さんのような先輩と組めたことは大きかったのでは?
「はい。僕、東出さんのことが本当に大好きで。すごく優しい方で、僕と一緒にいる時間をちゃんと作って、向き合って対話してくださいました。カメラにどう映るかではなく、どう僕の目を見るかということに、重きを置かれている。そういう役作りをする俳優さんはあまりいないですし、良い兄貴でいてくださったことに感謝しています。毎日夜ご飯を一緒に食べて、撮影したシーンの反省をしたり、東出さんが今までどうお芝居と向き合ってきたかを伺ったり。ホテルに帰っても一緒に飲んで…と、密な時間を過ごしました」
──瀬々敬久監督に言われて、心に残っていることは?
「愛のある檄を飛ばしていただき、もう、たくさん言われすぎて! 俳優をやっていると、共通言語が生まれてくるじゃないですか。僕はそれを一切持っていなかったので、しばらくは何を言われてるのかすらわかりませんでした。わかったところで、できないし。とにかく、何かしらと戦っていました。監督をはじめ、皆さんの熱量がすごくて、自然に引っ張られた感じです」
──もうやめる!みたいにはならなかった?
「さすがにならないです(笑)。でも、できない自分が悔しくて、プライドがズタズタになりました。自分の中の妄想では、もっとできる予定だったんですよ。なんてこった!と思いました。現実は甘くないなぁって」
──完成作、つまり初めての出演映画を観た時はどんな気持ちでしたか。
「いやぁ、自分が出ている映画を観るのは気持ち悪いですね。汗をかきますし、自分の場面ではウワァと思ってしまう。ものすごい作品が完成したのですが。これから頑張って、恩を返さなければ!」
──反省のほうが多い?
「そうですね。まあ、今、自分の作品を見て満足しているようでは伸びしろがないと思う」
俳優は楽しくてやってるわけじゃない
──お芝居を始めたきっかけは?
「いつも取材で聞かれて答えるのは、思春期が終わって自分を見つめ直した時に、俳優という職業と向き合えて、その道を選んだと言っているんですけど。それは事実ですが、率直に言えば、やりたくなったから、ですね」
──それはお父さま(佐藤浩市)の影響?
「親父の影響しかないと思います。親父が俳優じゃなかったら、僕、絶対に俳優にならなかった。映画が好きというのもそんな環境にいたからで、やはり親父の存在が大きいです」
──実際に俳優の仕事をやってみて、この仕事の魅力はどこだと思いますか。
「難しいですよね。皆さん、よく他の人の人生を生きられるから楽しいっておっしゃいますけど、人の人生をマジで生きようと思ったら、本当につらい。面白味はあると思うけど、そこに楽しさを見出せるなんて、クレイジーだと思います。クレイジーでなければできない仕事なのか、考えが浅いのか。僕は父親が俳優という特殊な環境で育ったので、俳優という存在への距離が近かったのかもしれません。お芝居が楽しいというより、それしか存在証明ができないからやる、という感じでしょうか」
──他になりたかった職業は?
「ないんです。やりたいこともなかった」
──では、いちばんの興味は映画ですか。
「もともと映画を観るのは好きでしたけど、本格的に観始めたのは俳優をやると決めてから。毎日観ましたね。ただしばらくは映画を観てもアウトプットする場がなかったから、映画を観て、妄想して、また映画を観て…の繰り返し。
好きな映画は『カッコーの巣の上で』。中学生の時に観て、初めて映画らしい映画と出会った気がしました。日本では、相米慎二監督の作品が好きです」
──俳優になって、存在理由を見つけたかった?
「言語化するのが難しいです。僕にとって、俳優業は楽しいことではなくて。これも反発の一緒かもしれないです」
──実はお父さまやおじいさまを追い抜くぜ!という野心がある?
「もちろんあります」
脳内に画が次々に浮かぶ。妄想力には自信がある
──OFFの時間は何をして過ごしていますか。
「うーん、あまり喋らないです。僕がONになるのは、撮影に入るときだけ。その時だけは、テンションが変わる。例えば、この取材も自分にとってはOFFなんです」
──おとなしいということは、ひとりで過ごすのが好き?
「はい。ただし寂しがり屋なので誰かと一緒にいたいタイプです。あまり一緒にいられると困るけど、いなくなったら悲しい」
──周囲にいたら、ちょっと面倒臭そう(笑)。友達をすぐに呼び出したり?
「ありますね! でも最近、変わってきました。撮影をしている頃はひとりでいるほうが楽で、誰かと一緒にいるのが無理だと思ったんですけど。何が変わったのかわからないけど、最近、寂しくなってきちゃった(笑)」
──OFFで一番興味のあることは?
「何か趣味を見つけたいんですけどね。面倒臭がり屋だから、何かやろう、いや、やっぱダメだ…って、結局、家でグデーっとしてしまう。
家では、台本を読んだり、散歩したり。散歩しているときが一番頭が回るので、役についてとか、何かに迷ったときは散歩しながら考えます。目的地はなくて、公園をずっと歩いているだけでいいんです。歩きながら、ずーっと妄想しています。お芝居のイメージや、可愛い女の子とデートしたいなぁとか(笑)。基本的に僕、妄想家なんです」
──最近妄想した、楽しいことは?
「そんなの、言えるわけないじゃないですか!(笑)」
──もしかしたら、本が書けるかもしれませんよ。
「でも僕の場合、言語化するのが難しくて。まず、画が浮かぶんです。自分の中で好きなカット割りがあって、街を歩いていても風景をカット割りしたり。妄想力に関しては、人より長けていると思います(笑)。だって、妄想より楽しいこと、他にないですよね?脳内で、自由にいろんな世界を繰り広げることができるんですよ」
──寛 一 郎さんの脳内を見てみたいです。
「いやいや、これを見られたら、大変なことになっちゃう!」
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Photos:Kohey Kanno Styling:Haruki Koshinaka Hair&Makeup:Makiko Shimada Interview&Text:Maki Miura Edit:Sayaka ito