前田敦子インタビュー「理想の男性はジェームス・ディーン」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.47は女優、前田敦子にインタビュー。
母親が若い男とダイナマイト心中した実体験をもつ雑誌編集者・末井昭の自伝的エッセイ『素敵なダイナマイトスキャンダル』が、冨永昌敬監督によってついに映画化。昭和のアングラカルチャーを牽引する主人公・末井昭(柄本佑)を支える妻・牧子を前田敦子が演じる。平成生まれの彼女にとって昭和とは? そして恋愛観や仕事について、平成アンダーグラウンドカルチャーの最前線、歌舞伎町ブックセンターで話を聞いた。 憧れの女優は、昭和の大女優・若尾文子 ──本はお好きですか? 「映画や舞台を観るほうに時間を使ってしまうので、なかなか読書する時間がなくて。でも、映画化される小説が多い中で、まだ映画化されていない面白い作品があると聞くと気になりますね」 ──前田さんは映画通としても知られてますが、映画はよく観るんですか? 「そうですね。AKB48を卒業してすぐの頃は、名画座にもよく通っていました。最初はハリウッド映画から入って、今は大映作品をよく見ています。若尾文子さんが、すっごく好きなんです。泥沼の不倫ものや、男性を罠にはめるような作品も面白いんですけど、女性には、当時の女子の会話劇『婚期』がおすすめです。独特のリズム感が楽しいし、当時の映画独自の世界観も味わい深いです。昔の映画は、みなさん声がちょっと高いですよね。もしかしたら当時の録音技術のせいなのかもしれないですけど」
──若尾文子さんの、特にどの部分が好きなんでしょうか?
「声です。あんなにセクシーな声の方は他にいません。デビューしたときからずっと色っぽいし、作品を見ただけでは年齢が判別できないくらい、ずっと変わらずに美しいです。私の中では、“いくつになっても男性を誘惑することができる女性”の象徴です」
──声で人を好きになることはよくありますか?
「特に雰囲気と声が一致している女性に惹かれます。現代の女優さんでは、鈴木京香さんや、本作にも出演している尾野真千子さんの声が素敵です。自分の声はあまり好きじゃないんですよ。だからこそ、気になるのかもしれません」
──今回出演された『素敵なダイナマイトスキャンダル』は、昭和30年代からバブル期までの時代が舞台でしたが、当時の話し方は意識しましたか?
「まず台本を読んで、語尾が今とは違うから、普通の話し方では表現できないと思いました。「そうよね」や「〜だわ」とか、現代劇でもたまにありますが、この作品は台本からも昭和の雰囲気が伝わってきたので、語尾に合わせて喋り方を変えようと意識しました」
「好きになったら、しょうがない。運命だから」
──『素敵なダイナマイトスキャンダル』では、原作者である末井昭さんの最初の妻、牧子を演じましたが、いかがでしたか?
「作品では、夫である末井さんが何者でもない時に出会い、編集者として活躍するまでを描いていますが、現代ではあんな自由な生き方は成立しないんじゃないでしょうか。彼だけが特別というわけでもなく、他にも自由な男性たちが登場するので、そういう時代だったのかもしれませんし、特殊なジャンルだからなのかもしれません。奥さんは末井さんより少し年上なので、彼に出会った頃から姉のように見守っています。彼のどうしようもないところが好きだったんでしょうね。最初はそれが可愛かったけれど、徐々にダメ男になって。昔は簡単に離婚する時代じゃなかったら、諦めの方が早かったんじゃないかと思います。きっと、他の人にはわからない二人だけの世界があるんだと思います。実際には、二人は別れてしまいましたが…」
──そんな男性に惹かれてしまう気持ちは理解できますか?
「今も牧子のような状況の方はたくさんいると思いますが、出会って好きになってしまったら、それも運命だからしょうがないのかな」
──「夫を支える奥さん」に憧れますか?
「あの時代は今のように女性が活躍できる時代じゃなかったから、結婚して妻として夫を支える側に徹するか、女性であることを武器にして男性社会に食い込んで行くか、どちらかですよね。もし私が昭和に生きていたら、牧子さん派かな。独身の時に働いて、結婚したら家庭に入って家事を担っていたでしょうね」
──昭和と現代の恋愛スタイル、どちらが好きですか?
「昔のほうが素敵な恋愛ができたのかもしれません。私の母の話よると、次にいつ会えるかわからないから、好きな人にその場で『好き』と言わないといけなかったそうで…。今はあとで連絡すればいいかなってつい後回しにしちゃうから、当時の、瞬間を全力で生きる感じには憧れます」
3歳でハマった『家なき子』。小さい頃から夢見た女優
──女優になろうと思ったきっかけは?
「家族みんなテレビ好きで、私も小さい頃からドラマが好きだったんです。3歳頃に『家なき子』を観てましたし、幼稚園の頃『ひとつ屋根の下2』が好きでした。それも影響して、デビューする前から、女優になりたいと思っていました。芸能界入りしたのが14歳だったので、ざっくりとした夢でしたけど」
──アイドルとしてデビューしてから、女優に転向しようと決めたきっかけは?
「夏帆ちゃんが主演した映画『天然コケッコー』が大好きで、あの世界の中で生きることに憧れました。今、仕事はとても楽しいです。今回の作品も、お話をいただいてとても嬉しかった。冨永昌敬監督で柄本佑さん主演なら絶対に面白くなるはず!と思いましたね」
──柄本佑さんと共演していかがでしたか?
「弟の柄本時生と友達なので、以前から佑さんは知り合いでしたが、佑さん含め、柄本家のみなさんの独特の佇まいがすごく好きです。こういうインタビューでもお芝居のことを熱く語らずに、一歩引いているというか、飄々としていますよね。現場でも佑さんがいると、みんなの肩の力が抜けていい雰囲気になるんです」
──撮影前に本作の原作は読みましたか?
「あえて読みませんでした。先入観を持ちたくなかったので」
──昭和の映画女優を演技の参考にすることもありますか?
「演技の参考にするために映画を観たりはしないんです。何かを真似するのは、自分に合ってないと思うし、映画や舞台を観るのは純粋な趣味なので(笑)」
理想の男性は、ジェームズ・ディーン?
──休日の過ごし方は?
「仕事の準備ですね。ヘアサロンに行ったり、マッサージしたり、ネイルを整えたり、外見のメンテナンスをしています」
──映画や舞台を観に行くことは?
「休日は映画か舞台と決めると息苦しくなるから、予定を決めずに『今日は何しようかな、じゃあ映画を見よう』くらいの気軽な感覚で行くことが多いですね。なるべく映画館で観たいけれど、家で昔の作品のDVDを観ることもあります」
──普段の自分をひとことで言うと?
「他人には流されないし、思ったことはちゃんと言うから、大人しいタイプではないと思います。でも、その場の雰囲気は大事にするよう心掛けています。仕事で考えることが山ほどあるから、プライベートでは悩みを作らないように、いかにシンプルに生きるかが課題です。だから、面白いエピソードがなくて…」
──仕事はどのくらいのウェイトを占めていますか?
「70%くらい。10%は、美容など仕事で必要な自分の外見に関すること。10%は食。10%は何も考えないでいられる環境づくりと友達」
──そこに恋愛は入ってこない?
「今は仕事を大事にしたいから、人間関係で悩みたくないんです。でも、結婚への憧れが全くないわけでもなんいです。ご結婚されている方のお話を聞くと、自分に戻れる場所があるのはいいなとは思うんですけど…まだ先でもいいかな。子供はいつかは欲しいけど、今は姪っ子で満足です(笑)」
──理想の男性は?
「夢見る女子みたいですけど、ジェームズ・ディーンが好きなんです。今時、ジェームズ・ディーンが理想なんて、何を言ってるんだって思われそうですけど(笑)。『ジャイアンツ』を観て、なんて素敵なんだろうと思って調べたら、すでに亡くなっていて。ショックで母親に電話したら『当たり前でしょ、何を言ってるの?』って。お母さんも昔、ファンだったんですって。なんだか、男性について語ると、現実離れしちゃいますね」
──これから挑戦したいことは?
「いつか、女性の演出家や監督の作品に出演してみたいです。女性の作品が気になるし、女性が頑張っている姿に勇気付けられることもあるので。CMではお仕事させていただいているんですが、映画や舞台ではまだご一緒したことがないので、いつか女性が作る作品に出てみたいですね」
前田敦子が気になった3冊
歌舞伎町ブックセンターの“書店ソムリエ”である人気ホスト・風早涼太をお供に気になる3冊をチョイス。
「じっくり読書する時間がなかなかないので、今はあまり本には触れていませんが、こうやっておすすめされると、どんどん興味が湧いてきますね。映画化される小説も多い中で、映画化されていない作品で、しかも面白いと聞くと読んでみたくなります。映画や舞台でも女性クリエイターが気になっているので、今回は女性作家の3冊を選びました」
『私をくいとめて』綿矢りさ
黒田みつ子、もうすぐ33歳。男性にも家庭にも縁遠く、ひとりで生きることになんの抵抗のない彼女。なぜなら、脳内にはもう一人の自分「A」がいて、迷ったときには完璧な答えを教えてくれるから。いつも同じ行動で感情が揺れ動かないようにするみつ子だったが…。
「綿矢りささんは好きな作家さんです。この作品は、主人公が33歳という絶妙な年齢設定で、私がこれから迎える年代なので気になります」(前田)
『ノーサンガー・アビー』ジェイン・オースティン
『高慢と偏見』を書いたイギリスの小説家・ジェイン・オースティンの、実質的な処女作。17歳の平凡な少女キャサリンは、リゾート地・バースで恋に落ち、由緒あるお屋敷に招待される。小説や歴史が好きで、愛読するゴシック小説に登場するようなお屋敷だと興奮する彼女。そして妄想は暴走し…。
「ラブコメは大好きです! 表紙から歴史小説なのかと思いましたが、19世紀の辛口ラブコメディと聞いて、とても読みたくなりました」(前田)
『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子
入江冬子は34歳のフリー校閲者。人付き合いが苦手で、唯一の趣味は誕生日に真夜中の街を散歩すること。そんな彼女が、ある日、60代の物理教師と知り合い、二人は少しずつ距離を縮める。静かにつながる二人の想い。大手出版社の校閲局に勤務する友人・聖(ひじり)との友情関係も見所のひとつ。
「タイトルが本作のキーワードと聞いて、とても気になりました。シンプルで静かな作品が好きなので、これはぜひ読んでみたいです!」(前田)
歌舞伎町ブックセンター
昨年、歌舞伎町のど真ん中にオープンした書店兼バー。「LOVE」をテーマに常時約400冊を揃える。ピンク、赤、黒の3種類の帯は、それぞれ「ふんわり初々しい愛や恋から、官能的、エロ」「ストレートな情熱、昼」「タブー、闇、不倫、愛憎」をイメージしたセレクション。週末は、現役ホストが”書店ソムリエ”として店に立つ。本屋デート気分で、愛の本を探すことができる。ちなみに、本日の書店ソムリエ、風早涼太は「Club APiTS」の人気ホスト。
衣装協力:トップス¥46,000 パンツ¥38,000/ともにDISAYA(H3Oファッションビュロー 03-6712-6180)
Photos:Ayako Masunaga Styling:Mayumi Ando Hair&Makeup:Yuki Anano Interview&Text:Miho Matsuda Edit:Masumi Sasaki