ロック親父も若者も夢中!GLIM SPANKYインタビュー | Numero TOKYO
Interview / Post

ロック親父も若者も夢中!GLIM SPANKYインタビュー

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。Vol.44は、映画『不能犯』の主題歌「愚か者たち」をリリースしたGLIM SPANKYにインタビュー。

多くのクリエイターを夢中にさせているバンドがいる。ヴォーカル&ギターの松尾レミ26歳、ギター亀本寛貴27歳による二人組のロックユニットGLIM SPANKY。圧倒的な存在感のハスキーな歌声とストレートに響く歌詞、新しいのにどこか懐かしい60〜70年代を思わせるロックサウンド。サイケデリックでいてブルージーな独自のスタイルで、久々の逸材!と音楽ファンを喜ばせた。春には初の日本武道館公演も決定。さらに勢いを増す二人に、彼らの音楽を形成してきたルーツに迫った。 父が聞いていたピチカートが音楽の原体験 ──ライブでは40~50代のロック親父から、音楽好きの若者、そして親子席には子供まで。思い思いの楽しみ方をする、幅広い世代のファンが印象的でした。20代のふたりの音楽のルーツはどこに? 松尾レミ(Vo/Gt)「レコードマニアの父がいたので、小さい頃からいつも音楽が流れていました。ロックやフレンチポップ、フリージャズなどの洋楽と、渋谷系カルチャーが大好きだったようで邦楽もたくさん。自分の中で一番古い記憶は、細野晴臣さんやビーチ・ボーイズですね。そして保育園のころ私がお熱だったのが、ピチカート・ファイヴです。カラフルでファッションも素敵だったので、視覚的にも大好きで」 亀本寛貴(Gt)「僕はすごく普通に生きてきたので、ルーツと言われると自分で初めて買ったCDが『世界に一つだけの花』と『さくら(独唱)』。松尾さんと違ってまったくバンドマンらしくない(笑)」 松尾「私がロックにはまったのは中学生の頃。ビートルズが大好きになって、ホワイト・ストライプスにはまり。邦楽だとBUMP OF CHICKENとか。でも好きな音楽を掘り下げていくと、結局、昔家で聞いていた音楽に繋がるんですよね」 亀本「その後バンドミュージックに興味を持って、GLAYとかL'Arc-en-Cielとかポルノグラフィティとかが好きで聞いていましたね。田舎だったので、基本的にはテレビにたくさん出ている人」

──お二人は同郷で、出会ってバンドを結成したのが高校生のころ。初めから音楽の趣味があったわけではなさそうですが?

松尾「はい、私が高1の冬くらいですね。地元は田舎すぎてバンドメンバーを選べるような環境じゃなかったんです。高校も軽音部がなかったので、まず楽器をやる人、バンドに興味がある人がほとんどいなくて。だから趣味の不一致も全然関係なく、とにかくやってくれる人を集めて結成しました。音楽がやれるってことが第一、あとは私の曲をやってくれる人(笑)」

亀本「僕は一つ先輩なので高2の時です。サッカー部だったんですけど、あまり強くなかったから暇だったんです。バンドには全く興味なかったんですけど、何か趣味を始めようと思って、軽い気持ちで7000円くらいのギターを買いました。ダメなら飾っておけばいいやと思って。そうしたら面白くなっちゃって、毎日家で2、3時間必ず練習していましたし。それが苦でもなかったし、性に合っていたみたい」

松尾「だから上達は早かったよね。すごく練習をするタイプで。部活みたいに真面目にやってきてくれる(笑)」

亀本「体育系の精神で練習してましたね。軽音やる人って、帰宅部的なサボり癖のある人が多かった中で、僕は運動部のように毎日必ず練習するのが当たり前っていう(笑)」

松尾「初めてオリジナル曲を合わせたときに、すごくちゃんと曲を理解して考えてフレーズを考えてきてくれたんですよ。またそれがすごくよくて。この人はちゃんと一緒に音楽を本気でやっていけるって、そのときに思いました」

──松尾さんが東京の大学に進学が決まり、バンドを続けようと誘われた亀本さんも上京。

亀本「はい、僕は愛知の大学に行っていたんですけど、一緒に東京でやろうと言われて。初めは愛知で別でバンドを組もうとしていたんです。でも松尾さんみたいな人はなかなかいない、歌声に個性と特徴があって、ちゃんと曲がかけるボーカルが見つからない。こんなに探してもいないってことは成功できるな、と思って。だから上京しても大丈夫、ものになるだろうと、勝手に思い込んでました」

──そうして音楽性も共有していった。

松尾「いや、初めの頃はまったく一致してないです。ビートルズ聞いて!とかザ・フーのこれがかっこいから!とかやりとりしてたんですけど。彼が大学で軽音部に入って、やっと話が通じるようになりました(笑)」

亀本「新しい友達ができてからだね。バンドを始めてギターの雑誌とかを買い始めて、ジミヘン、レッド・ツェッペリン、クラプトンとか、表紙になっているような人がきっと重要なんだ!と思って聞き始めて。でも当時はなんか古くさいな〜とか思いながら(笑)。それをひたすら繰り返していましたね」

──課題を出されるように聞いていた?(笑)

亀本「僕らの世代って、邦楽だと松尾さんのようにBUMP OF CHICKENとかELLEGARDENとかのバンドミュージックから入った人が多いと思うんです。だから当時のトレンドとして、ロックがギターを聴かせるっていう感じではなくて。ヴァン・ヘイレンみたいに弾くのは、古臭いっていう。でも僕がコピーしていたGLAYとかLUNA SEAやX JAPANは、ギターソロ聴かせまくりの世界じゃないですか。だから最初からギターを”ピロピロ”やりたくて(笑)。僕がいわゆる当時流行ってたバンドミュージックから入っていたら、今の音にはなっていないと思うんですよ。そこは今のスタイルに活きてると思う」

──確かに、亀本さんはメロディアスで聴かせるギターですよね。60〜70代のサウンドと言われることも多いと思うんですが、新しさのなかにどこか懐かしさを感じている大人のファンが多いことは確か。その時代への憧れはありますか?

亀本「僕はないな。スマホもプレステもなかったら嫌だし、大麻とかいらないし。古いのが欲しいっていう感覚もないんです。ギターは古いの一個も持っていないし、レコードもピカピカのがうれしいから、リイシューばっかり買ってます(笑)。でもやっぱり60〜70年代の音楽が素晴らしいというのはある。ただそれってロックやっている以上、その時代が重要になってくるってだけで。僕らだけではないんじゃないかな。ビートルズとかツェッペリンがやっていたことと、今そんなに違うことをやっているわけではない。ロックやってる以上、いろいろな影響を受けても、皆根っこにはビートルズとかストーンズとかがあるというか」

松尾「白人音楽が嫌いな人はいるかもしれないけど、ロックはベースにあるかもね」

亀本「だからなんで僕らだけ言われるんだろうという不思議な気持ちはある」

──リバイバルは幾度となくありますからね。90年代も渋谷系もピチカートも、60~70年代の流れを汲んでいる。

松尾「ファッションやメイク、アートもすごく好きなので、自分の好きなものをピックアップしていたら、ヴィジュアル的にも60年代中盤から70年代前半が多かったっていうのはありますね。時代性や文学とかも」

──文学は何が好き?

松尾「一番好きなのは、1920年代から70年代の稲垣足穂っていう幻想文学の人。メジャーなところだと、澁澤龍彦とか。1900年代初頭から1910年代の流れもすごく好きです。アメリカの50年代後半からのビート文学たち、サンフランシスコカルチャーにも憧れますね。それがヒッピーにもつながっていくし、ロックにも基づいている。その時代だからこそ生まれたこと、背景を理解した上で、自分の表現にしていきたいと思っています」

──オフの時間はなにしてる?

亀本「ほぼ家にいることが多いですね。ゲームしたり。一人で出かける場合は、だいたいレコード売り場か、家電かオーディオみてるか。あとペットショップ目当てにホームセンターとか。松尾さんは旅好きだよね」

松尾「短期間で普通じゃない経験を味わえるのって、海外にバッといくのがてっとり早い方法。今の自分にとってのインプットの方法は旅だなと思って、最近はそうしています。海外の友達も増えて、音楽事情とかどの町がアートが活発だとか。ファッションやコスメもすごく好きなので、海外で何が流行っているんだろうとか、生の情報が手に入れられる。世界の動きを少しだけ感じながら自分たちの活動に反映させられるから、旅行が音楽にとっても自分のためになっているなと感じます」

──いまの時代、行った気になることは容易ですが、やはり実際に足を運ぶことでヴァーチャルにはできない体験ができる?

松尾「そうですね、綺麗なものの裏には汚いものがあったり、悲しい現実も隣り合わせ。そういうことも刺激になります。町を歩かなければわからないこと」

──オフもすべて音楽のため?

松尾「音楽のことを考えてるつもりはなくて、ファッションもメイクもアートも、カルチャー全般はロックにつながっていると思っているし、ロックミュージックは時代とともにあるものだと思っています。カルチャーとかいうとちょっと、なんかやかましい奴って感じだけど(笑)。かっこいい音楽をやりたいんだったら、音だけ聞いていたら作れない。その裏にあるバックボーン、映画だったり文学だったりとか、そういったものを飲み込んだ上で表現したものが私は好きだし、かっこいいと思うから」

亀本「常にオフなんじゃない? スイッチがないってこと」

松尾「ああ、そうかもしれない」

GLIM SPANKY「愚か者たち」 映画『不能犯』ver

──今回のニューシングルは映画『不能犯』の主題歌で、タイトルは「愚か者たち」。今までも「怒りをくれよ」「ワイルド・サイドを行け」「褒めろよ」など、ハッとさせられるタイトルが多いです。

亀本「実はタイトルを決めるのが一番嫌いで…なので基本的には一番最後です。でも、プロデューサーのいしわたり淳治さん(ex. SUPERCAR)と共同作業をしていく中で、だんだんキーワードというものが明確になってくるので、淳治さんに提案いただいて、考えたり。でも基本的にはすごく苦手です」

──高校生の頃につくったという「大人になったら」のように、閉塞感や怒りだったり若さ特有の感情がベースになっているのが、特徴でもあると思うのですが、当時より大人になって、東京のメジャーシーンで音楽をやっている。自分たちの中で変化はありましたか?

亀本「あんまりないな。僕は年々子どもになっている気がします。退化して行っていますね。年取ると戻るっていうけど、ちょっと戻り出すの早い(笑)」

松尾「高校生くらいのときは、田舎に住んでいたのでバンドとか芸術とかファッションとかで成功するわけがない、っていう価値観の人が周りに多くて。そういう悔しさとかを感じていたんです。都会に出てきて、こうやってメジャーでやっていても、まだ地元に帰れば言われるし、どうなってもいつになっても言う人は言う。だからあんまり感覚は変わっていないですね」

──逆に今の状況だからこそ感じる憤りはある?

亀本「ある? 東京好きだろ?」

松尾「確かに意識が高い人は多いけれど、その意識という殻にこもって否定してくる人はいるんだなって。田舎にはいなかった人種。東京は刺激ばかりあるんだと思ってたけど、東京ならではの特殊な狭い世界」

亀本「確かに田舎のリアルな狭い世界とはまた違う狭さはあるね」

松尾「田舎は閉鎖的だとずっと思ってたんです。でもどこにいても同じ。音楽シーンもそう、長いものに巻かれなければいけない、染まらなければならないって風潮はやはりあって。本当に覚悟を持って挑戦している人たちって、少ないんだなと思いました。だからといって、悟ってはいないです。そんなのつまらないし、私はいつまでも落ち着きたくない」

亀本「そうだね。いま音楽を仕事にできて、メジャーシーンにいられたりフェスに出られたりっていう環境になったけど、そこにも染まんねぇぞ、ここにいてもとんがってやる、って思う。な! 」

松尾「そうだね!(笑)」

GLIM SPANKYのニューシングル「愚か者たち」の情報こちら

Photos:Kenji Yamanaka Interview&Text:Saori Asaka Edit:Masumi Sasaki

Profile

GLIM SPANKY(グリムスパンキー) 松尾レミ(Vo/Gt)、亀本寛貴(Gt)からなる二人組のロックユニット。2014年にミニアルバム『焦燥』でメジャーデビュー。みうらじゅん、いとうせいこう、桑田佳祐、佐野元春が絶賛するなど、クリエイターの間ですぐに話題に。映画『ONE PIECE FILM GOLD』『少女』ほか主題歌も多く手がけ、現在放送中のCMではキャロル・キング「I Feel The Earth Move」をカバーするなど、CM歌唱も多数。17年の最新3rdフルアルバム『BIZARRE CARNIVAL』はiTunesロックアルバムチャート1位を獲得。全国ツアーと台湾ワンマンライブを終え、18年5月12日に初の日本武道館公演が決定。2月1日公開の映画『不能犯』の主題歌である3rdシングル「愚か者たち」を1月31日にリリース。

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