臼田あさ美インタビュー「お互いの生活を尊重できるから結婚したのかも」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.40は女優、臼田あさ美にインタビュー。
シリアスな法廷ドラマからコメディまで、幅広く活躍する女優・臼田あさ美。冨永昌敬監督が魚喃キリコの伝説的作品を映画化した『南瓜とマヨネーズ』でヒロイン・ツチダを演じる。カルト的に支持された作品を演じること、映画化までの道のりや、いつも音楽が溢れているというプライベートについても聞いた。
中断しかけた映画制作。それでも諦めきれなかった
──原作の『南瓜とマヨネーズ』は出版当時(1999年)からご存知でしたか? 「リアルタイムではなかったんですが、20歳過ぎの頃、魚喃さんの作品をたくさん読んでいて、それでこの作品も知っていたんですが、2013年に出演のオファーをいただいて改めて読んだら、すごくリアリティを感じました。大人になって読むともっと響く作品なのかもしれません」 ──2012年から動き出したこのプロジェクトは、制作が中断した時期があるとか。 「映画の現場ではよくあることなんですが、企画が延期になって、そのまま再開が難しい状況になって。たまたま、『色即ぜねれいしょん』(2009年)でご一緒したスタイルジャムの甲斐真樹さんにプライベートで会う機会がありまして、その話をしたら、脚本も魅力的だし、これはやるべきだと動いてくれて実現したんです」 ──女優の臼田さんがプロデューサーに掛け合うほど、この作品を映画化したかった理由は? 「これほど執着した割には、私自身もはっきりしてなくて。ひとつ言えることは、ツチダに思い入れがあるというよりは、太賀君が演じるツチダの彼氏〈せいいち〉をどうにかしてあげたかった。共感というよりは、私もせいちゃんをどうにかしてあげたいと手を差し伸べたくなったんだと思います」 ──原作ファンが多い作品を、映画化するに当たってプレッシャーはありましたか? 「どうしても、マンガより生きている人間が出演している映画の方がナマナマしくなりますよね。それに、自分が原作ファンだから、考え始めるとキリがなくて。後ろで支える存在でありながら、人を惹きつけるような見えない何かを持っているツチダのシルエットだけはブレたくないなと考えていたんですけれど、監督や太賀くんと話すうちに、原作を中心にして考えるよりも、脚本を基に話し合った方が新しいものを生み出すことができるんじゃないかと思うようになって、原作とはどこかで線を引くようにしました」 ──今回、恋人役として共演した太賀さんの印象は? 「太賀くんは、本当にその場に存在していそうな雰囲気があると感じました。存在感に説得力があるというか。彼はプライベートで音楽をやってることも知っていましたし、カルチャーが周りにある世界にいるから、せいちゃんという人物に厚みが増したと思います。〈ハギオ〉を演じるオダギリジョーさんもそうですしね。3人とも、実年齢は結構離れているんですよ。太賀くんとも10歳離れているんですが、劇中ではちゃんと恋人に見えればいいなと思います」大人になってわかった揺れ動く気持ち
──〈ツチダ〉は同棲するミュージシャンの〈せいいち〉を支える一方で、元彼である〈ハギオ〉に心が動いてしまいます。演じてみていかがでしたか?
「マンガを読んでいる一読者のときは『ツチダ、そう簡単にこんなバカな男に行くなよ』と思っていたのに、演じてみると、そうなるかもしれないなと生身の人の気持ちの揺れを感じました。ツチダはずっとせいちゃんのためにと頑張ってきたけれど、それが空回りして彼女も行き詰まっている。そんな時に、昔、好きだった人が突然現れた。撮影でも、せいちゃんとのシーンを先に撮影して、〈ハギオ〉とのシーンは後から撮ったんです。オダギリさんの魅力もあるでしょうし、役作りもあったでしょうけれど、演じながら、人たらしで周囲もしょうがないなと思いながら魅了されていく気持ちってこういうことかと実感しました」
──心の隙間があるときに、スッと入ってくるような?
「そうですね。人って、淡々とした日常の中に、ぽっと現れた刺激に弱いんでしょうね。何かをあてにしているわけでもないし、ダメだとわかっているのに、引き込まれていく。過去にいろんなことがあって、離れようと決心しても、また会ったら、彼に惹かれてしまうんだろうなという気持ちが理解できました」
──そういう人の弱さを描いているから、カルト的な人気のある作品なのかもしれませんね。
「弱さゆえに流されてしまうことはありますよね。例えばそれがこの作品ではお金の動きにはっきりと描かれていますが、見えない心の動きなら誰でも心当たりがありそう。長年付き合った彼とは別れる理由はないけれど、過去に熱い恋をした人の顔が、ふとよぎることくらいはあるんじゃないかな」
──臼田さん自身も共感しますか?
「私は結構強いので、あまりないんですけど(笑)。20歳の頃、原作を読んだときは『はっきりすればいいのに!』と思っていたけれど、大人になって経験が増えるほど、いいことばかりが記憶に残りそれに引っ張られる気持ちはわからなくないなと思います」
Mr.Childrenも戸川純もフラットに好き
──この作品の舞台でもある下北沢にはよく行きますか?
「しょっちゅう行きます。下北沢ガレージでも知り合いのライブを観ることもありますし、スタッフの子と仲がいいので、ただお酒を飲みに行くこともあります。ライブハウスは、音楽の他にもトークイベントにも行きます」
──臼田さんといえば音楽好きとしても知られていますが、音楽にハマったきっかけは?
「中学も高校の頃も音楽が好きで、今でも自分は詳しいとか特別に音楽好きだとは思ってなくて。何かきっかけがあったというよりは、スタンダードに自分の中にありました」
──最初に買ったCDは?
「小学生の頃に買ったポケットビスケッツ。ポケビも小室ファミリーも洋楽も、なんでもフラットに聞いていました。中学生の頃は、GLAYやL’Arc-en-Ciel、X JAPANも聴いてました。でも、そんなに深く掘った記憶はないんですよ。たまに『なんでそんなに古い音楽を知ってるの?』と聞かれることもあるけれど、特に理由もなくて。Mr.Childrenのライブにも行けば、戸川純さんのライブにも行くとか、本当にフラットなんです。東京ドームも下北沢ガレージも自分の中では一緒です」
──『南瓜とマヨネーズ』のように、ミュージシャンと付き合いたいという憧れはありましたか?
「俳優さんもミュージシャンの方もそうですけど、一緒に仕事をしていると同志のような感覚になってしまって。小学生の頃は『素敵!』と思っていましたが、仕事を始めてからはそんなこともなく。ミュージシャンも、恋人になりたいというよりは、生まれ変わったら自分がミュージシャンになりたい。輝くステージが用意されているとか、自分でゼロから作品を生み出せるのは羨ましいです」
──どんなミュージシャンになってみたいですか?
「自分で作詞作曲して歌う、才能がありまくりのミュージシャン(笑)。スターになってみたいですね。ビヨンセにも憧れるけど、自分の性格上、シンガーソングライターかもしれない。それで、豪華にバンドを引き連れてワールドツアーをしてみたいです。道を歩いても気付かれないけど、ライブには人がたくさんくる、そんな人が理想です。でも、そんな人いるかな?」
──有名人オーラを消せる人ということ?
「地味に生活できることは大事ですよ。日常は静かに暮らしていたい」
お互いに尊重し合える関係だから結婚した
──OKAMOTO’Sのオカモトレイジさんと結婚されて、ミュージシャンが家族になったわけですが音楽の聴き方は変わりました?
「昔から友達だったので、このライブが良かったとかそんな話はよくしていたし、その延長のような感じですね。あまり変わりはないかな」
──休みの日は何をしていますか?
「特別なことはなにもしていなくて、台本を読んだり。レコードを聴くことやライブに行くことは私にとっては、日常的なことなので、地味に暮らしています」
──オフはあまり派手なことはしないタイプ?
「自分のペースで、飲みに行きたければ友達を誘って出かけることもあるし、家にいたい日は自転車でスーパーに行って、その後3日くらい外にでないこともあります(笑)」
──結婚後もマイペースな生活は続けていますか?
「相手がツアーに出ていることもあるし、家にいても黙々と曲を作っていたりするので、お互いに自由にしています。私も一人暮らしが長かったし、仕事にも集中したいときもありますし。お互いの生活を尊重できるから、結婚したのかもしれませんね」
──結婚の前後で、生活に変化はありましたか?
「今でも家に帰ると『人がいる』と思います。やっぱり、ただいまとかおかえりとか言うんだな、と。私が忙しいときは家事をしてくれるので、生活面では支え合ってるなと思います」
Photos:Ayako Masunaga Styling:Masayo Morikawa Hair&Makeup:Asami Nemoto
Interview&Text:Miho Matsuda Edit:Masumi Sasaki