長澤まさみインタビュー「愛するという関係性を考えさせられました」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.36は女優、長澤まさみにインタビュー。
──映画のなかでも、ある事件によって二人の関係が再構築されますもんね。
「以前は夫である真治の後ろにいたのが鳴海だったけれど、彼女の後ろに真治が寄り添ってくれるようになったということだと思います。やっぱり、成立するのが難しい平等な関係を夫婦で成し得たいと思うなら、そのときそのときで臨機応変に入れ替われることが必要なのかもしれないと思いました。人間ってそう簡単に大人になれるものではないし、お互いにすごく幼稚な感情を持っていて、でもそれを出せるから一緒にいられるわけで。すごく愛という関係性について考えさせられました」
──侵略者と彼らのガイドとなる人間との関係性から、その後の侵略者の行動が変わってくるというのも、人間社会でよく起こっていることだなと思いました。
「確かにそうですね。世の中に言いたいこと、メッセージをたくさん感じ取れる作品だなぁと思います。そういう作品が、新しいエンターテイメントとしても楽しめる映画になっていることが、とても有意義で面白いですし、夢もありますよね」
芝居だからという概念を捨てて演じること
──いい意味で大変で辛い現場で、撮影中毎日ふらふらになったとおっしゃっていますが。
「そうですね。ずっと怒っている役だったので。怒るのって、パワーを使うじゃないですか。それで疲れていましたね。愛のある人に対してじゃないと、人間って怒ることはしないですよね。どうでもいい人だったら、自分の感情は動かないと思うので。鳴海は愛情深い人なので、彼女の気持ちが伝わればいいなという思いでやっていました」
──今年はミュージカルの『キャバレー』にも出演されて、色んな演出家の舞台に出演されていますが、映画と舞台で楽しみ方は違うんですか?
「舞台は、稽古が毎日あることが楽しくて、ずっと稽古が続けばいいなって思います。映像の世界にはないものだから、とても面白いですね」
──稽古がずっと続くというと役でずっといることになりますが、役柄から普段に戻るときのスイッチってありますか?
「私はあまり切り替えが上手なほうではないので、次の作品が始まるまで続いちゃうことが多いですね。でも、撮影が終わったあとに割とすぐ次の作品が入っていて、鳴海をすぐに抜かなきゃいけなかったので、今回は大丈夫でした」
──役を引きずるタイプ?
「引きずるまでやる、という気持ちはあります。この作品は特にそうでした。やっぱり、お芝居をする上で成長していかなきゃいけないし、観る人たちを飽きさせないという意味でも自分が没頭することは大切なので。それこそ、芝居だからという概念を捨ててやっています」
──以前インタビューで、「仕事をしながら女性としての人生を充実させるのは難しい」と仰っていたんですけど、その考えに変化はありますか?
「何を幸せと捉えるかですよね。結婚生活を幸せと考えるのか、友達といる時間を大切にするのか、私生活をどういうふうにしたいのかにもよりますが、今のところは30歳になってから毎日が楽しい日々です」
──30歳になって何かが変わったということは?
「想像していた30歳はもっと大人な印象でしたが、まぁこんなもんだよなって感じでした。経験値が上がって大人になるってことはあるのかもしれないですが、根本的に人間が変わることはないと思いますね」
何でも完璧にするよりは、一つのことに集中したい
──根本的には変わらなくても、いろんな物事に対して開けるようになってきたという実感はありますか?
「経験があるからこそだと思いますが、年齢を重ねると許容範囲が広がるので、昔よりはいろんな人とコミュニケーションがとれるようになっている気がします。若い頃から外国へ行って撮影させてもらって、いろんな国の人と仕事ができていることは人間的に成長できるひとつの方法でもあるので、とても良かったですね」
──オフの日でも、演技につながることをする機会が多いんでしょうか。
「舞台はちょこちょこですけど、映画は映画館も行くし、動画配信サイトでも観ています。年齢を重ねるほどに、お芝居というものがそんなに簡単なものではないとわかってきたので。でも、気の合う友達、仲間と会うことも自分が癒される、一番楽になれる瞬間ではあるので、メリハリを持って過ごすようにはしています」
──お料理もお好きなんですよね。
「料理をするのは昔から好きなんです。きれいな料理は作れないんですけど(笑)。「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」を観るのが、毎週の楽しみです。上沼さんの番組がいいのは、どこのスーパーでも置いてある材料のレシピで作っているところなんです。テレビを見て今日これを作ろうと思ったら、すぐできる。でもちょっと凝りたいときには、「キユーピー3分クッキング」を参考にしています」
──料理好きには振る舞うのが好きな人と、食べるのが好きな人がいますよね。 結婚したら、料理はちゃんと作りたい派ですか?
「恥ずかしくてあんまりできないんですが、人のために作るのも食べるのも両方好きです。母がきちんと料理を作ってくれる人なので、結婚してもちゃんと作りたいですね」
──そうなると、仕事とのバランスをとるのが難しくなってはきそうですよね。
「そうですね。だから、何でも完璧にしようとは思っていません。ひとつのことに没頭しているときには、とりあえずそのことに集中するようにしています」
──じゃあ、今は女優業に集中しているんですね。
「まだ自信も持てないし、満足もできていないし、満足できるときが来るのかわからないんですが、やっぱりまだまだだなぁと感じるので、もう少しやり切りたいという思いはあります」
「食べること」を取り上げられたら悲しい
──日々をちゃんと生きることが、役柄に活かされると思うことはありますか?
「あくまでお芝居なので、なんでも経験していないと演じられないということではないですし、必ずしも自分の経験が活きるものでもないんですが、日々の生活というものは役柄を作っていくうえで助けになるものだとは思います」
──女性として生き方が素敵だと思う人、憧れている人はいますか?
「たくさんいるのですが、麻生久美子さんは特に憧れです。19歳のときに共演してからずっと仲良くしてもらっているんですが、先輩であり、友達でもあって、とても凄い女優さんなのに普通の感覚も持っていて、魅力的で面白い方です」
──長澤さんは、仕事はずっと続けていきたいと思っています?
「需要があれば続けたいですね(笑)」
──でも、今は楽しいから続けているんですよね。
「『楽しい』という表現は使ってはいますが、ただ楽しいものではないですね。苦しさも、人に見られることの大変さもありますし。自分の知らないところで物事が進んでいるという感覚は、この映画のなかにあるものとも似ているというか。自分が思っている以上の影響があるこの仕事は、向き合い方を間違えると精神を崩すし、自分を見失うとも思うので」
──常に緊張感のある仕事ですもんね。
「ね、大変。でも、その分経験できないことができるのが魅力なので、感謝しています。この仕事をしていなかったら行けないところにも行けるし、出会えない人にたくさん出会える。人生って、行動を起こさなかったら何てことのない平凡な毎日ですからね。それをどういうふうに楽しむかといえば、物を知っていたほうがいいし、物語を読む力があるほうがいい。もっと本を読んでおけばよかった、言葉を知っていればよかったと後悔させてくれるくらい楽しめる映画、ドラマ、お芝居ってすごいものだなと、年々感じています」
──最後に、長澤さんはどんな概念だったら侵略者にあげてもよくて、どんな概念ならあげたくないと思います?
「うーん、難しい。あげたくないものはすぐ出てくるんですが。(笑)“食べること”ですかね。その概念を取られたら悲しくてやりきれないです」
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映画『散歩する侵略者』の情報はこちら
Photos:Gen Saito
Styling:Go Momose
Hair&Make-up:Rika Sagawa
Interview&Text:Tomoko Ogawa
Edit:Masumi Sasaki