中野裕太インタビュー
「ラブストーリーのほうがじつは僕、得意なんです」
旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。Vol.31は、俳優、中野裕太にインタビュー。
家に帰ってお湯が出るだけマシ
──後ろ手で扉を閉めて役者1本でやると決めたのは、もう3年前ですね。
はい、2014年の春です。お世話になっていたプロデューサーに挨拶に行き、今後の活動について自分で報告しました。3月にはすべて降りて、6月に1~2週間、福岡に帰省したけど、最近母が言ったのは「あの時は言えなかったけど、帰ってきた時の裕太はやばかったよね」って。軽いうつ状態というかね。でも、自分の中では、一旦すっぱりと辞めるという選択肢しかなかったから。
──これでやっと自分が本当に目指す分野に挑戦できる!という明るい未来ではなかった。
いやいや。自分が選んだ道だけど、お先真っ暗だし、どーなんだ? みたいな。でも、今ここできちんと舵を切って方向転換しないと、本来の方向に戻さないとマズい、今が戻すタイミングなんだという感覚でした。
──役者の仕事は何か入っていたんですか?
まったく入っていませんでした。
──1本でも入っていれば、心情的にも違ったのかな。
そういう問題でもないかな。イケメンの爽やか男子が主役を張る、いわゆる日本の“ゲーノーカイ” で起きているフェノメノンに、ストレスなくにハマる素材ではないことは自分でもわかっているんです。だからこそ、1本決まっていれば不安から解放されたということはないだろうし、海外作品に出たから、じゃ今は安心しているか?と問われると、そういうことでもない。ただ、なんとかなるんじゃねぇか?という、根拠のない希望や夢はあります。貧乏生活も長かったしね。いまだにそうですけど、日常は夢遊病者みたいな感じですよ。最低限の食事とか運動とか、やっておかなければいけない準備に気を使いながら、ボーッと生きてます。
──お風呂のないアパートは今も変わらず?
何度か引っ越しました。同居していた弟のデビューが決まってパリに移住したので、今は完全な一人暮らし。上京したての学生が住むようなアパートに住んでいます。でもお湯は出るし、小さいけどバスタブもあるから、お湯を沸かして台所のシンクで洗う必要はない。精神的にキツかったり、「オレ、大丈夫かな」と思う時も、家に帰ってお湯が出るだけでもマシか〜って…じつは昨日もふと思った(笑)。日常の自分は、クズ人間です
──目指す役者像というのは…。
それは秘密です(笑)。
──まだ聞いてません(笑)。その目指す先に行きつくために、ダンスを習ったり、いろんな人に師事していますよね。
バラエティに出ていた期間も、2年間演技のレッスンを受けていました。基礎的なことからメソッド的なことも含め、今も研究は続けています。自分に何が足りないのがは、わかっています。見た目も、表現能力にしても。ダンスは、昔スポーツをやっていた筋肉の癖で、末端の筋肉で物事を処理しようとするんです。手先も器用なので、ちょっとした動きでやってしまうクセがあって。でも、芝居をするなら体幹、インナーマッスルがしっかりしたうえで、末端の筋肉を意識せずに動けるほうが所作が美しく見えたり、芝居も感情が作りやすかったりする。そういうことがわかると、クラシックバレエをやって体幹を鍛えようと思うんですね。普段は夢遊病者みたいだけど、そういう意味では、いろいろやっています。
──夢遊病者でいる時間には、楽しみってあるんですか?
ないですよ。ゼロっす。
──朝起きて、ワクワクする瞬間とか。
一切ない。でも、それでいいかなって思ってる自分もいる(笑)。「ヨーイ、スタート!」から「カット!」までを、いかに圧倒的に生きるかが僕の仕事なんですよね。それで評価されるか、されないか。これしかもうないから。そのために貯めておいて、現場での「ヨーイ、スタート!」から「カット!」の間だけ、「まともに生きてんな」と思えるというか。大げさな話ではなくて、充実感とかもその瞬間しかないですよね。
──女性誌の方々が取材に来て、「オフは何をやっているんですか?」って質問してきたら、なんて答えているんですか?(笑)
一様に、「クズ人間だ」って答えていますよ。廃人ですって(笑)。
想像を超えた相手が現れることを期待します
Photos:Kenji Yamanaka
Interview&Text:Atsuko Udo
Hair&Makeup:Aiko Ono
Edit:Masumi Sasaki