中村倫也インタビュー「すぐ泣いちゃう、ずるい弟なんです」 | Numero TOKYO
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中村倫也インタビュー「すぐ泣いちゃう、ずるい弟なんです」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。 vol.18は俳優、中村倫也にインタビュー。

ドラマ「下町ロケット」「お義父さんと呼ばせて」などに出演し、爽やかなルックスと底知れぬ演技力に注目が集まる中村倫也。若手俳優の中でも独自のスタイルを持ち存在感を放つ彼は、デビューから10年以上、舞台をベースに経験を重ねてきた実力派の29歳。主演作『星ガ丘ワンダーランド』がこの春公開となる。変幻自在の役者、中村倫也とはどんな人物なのか? 気になる彼の素顔に迫った。

デリケートに作り上げた主人公

──CMディレクター柳沢翔さんの映画デビュー作となった『星ガ丘ワンダーランド』。原作のないオリジナルストーリーで、中心人物となる温人(ハルト)を演じた中村さん。表現者として、苦労したところは? 「物語が極力シンプルに作られている分、キャラクターが浮き上がってくる作品なんです。例えば人物の描き方ひとつにしても無駄な装飾がないし、必要以上に(情報を)提示しすぎない分、肌触りや匂いがダイレクトに伝わるような撮り方をしていて。その中でも温人は、登場する“7人”ひとりひとりと関わることで気持ちが変化していく役なのですが、この日は新井(浩文)さん、この日はイッチー(市原隼人)、菅田(将暉)とのシーン...って、物語とは違う順序で日ごとに撮影していったので、それが役者として面白くもあり、難しかった。どうしても、ストーリーの流れ通りに撮影が進められるわけではないから、まだ起こっていない出来事に対してごめんなさいって頭を下げたり(笑)。デリケートな運び方をしないといけないと頭の中で整理しながら、現場では生で起きていることを信じてその場で反応したり。難しいという言葉とはちょっと違いますね。とてもデリケートで、その分やりがいと楽しさがありました」

──佐々木希さん、木村佳乃さん、菅田将暉さん、杏さん、市原隼人さん、新井浩文さん、松重豊さんという、個性溢れる役者陣との共演でしたね。

「とても幸せでしたよ。こういう座組で“真ん中”をやれることが。キャストもスタッフも誰ひとり、目を逸らしている人がいない。全員が映画というものに誠心誠意向き合っている現場は楽しいですし、そういう現場に毎回いられる訳じゃないんですよ。だから、ありがたかったです」

──現場の雰囲気は?

「すごくよかったです。でも空気感を一瞬で壊したらもったいないときもあるから、次に撮るのが佐々木(希)が思い詰めているシーンだったとしたら、普段しているような無駄話をふっちゃいけないなとか、そういう正しい大人としての気の使い方は、ちゃんとします!」

媚びてる自分も見てみたい

──シリアスな場面が多い劇中、市原さん演じる楠仁吾と遊んでいるシーンが微笑ましかったです。

「はは(笑)。二人の関係は、あのまんまです。温人が唯一ケラケラ笑えるのがイッチーとのシーンでした。同い年なんですが、彼自身も本当にいい人で、気持ちのいい人。温人が一緒に笑いあえる役をイッチーがやってくれて本当によかったと思ってます」

──温人と中村さんは似ていますか?

「共通しているのは多少のわがままさと、ささやかに人生を過ごしている感じですかね。僕は、めちゃくちゃささやかです。草花のような人ですよ。秋の風のような人ですよ…(照)。我慢している訳でもなく、夏の太陽のように光り輝きたいみたいな感情はあまりないんです」

──高校生の頃にスカウトされて役者として12年目。どうやって今の道を切り開いて来たのでしょうか。

「2004年の夏にはじめて仕事をしたので…そんな経ってますか。でも、基本的にはずっと仕事がなかったですね。演劇がやりたくて、映画でデビューした2年後に初舞台に出させて頂いて、そこからは演劇をホームグラウンドにさせてもらって。自分で選択したのは、演劇をやりたいと思ったことくらいですかね。あとはもう、与えられた仕事に忠実に。必要とされたら喜んで役割を果たす。流れのままに。無欲ということではないのですが、自由でありたい」

──この先もその穏やかな姿勢は変わらない?

「とんでもないことをスクープされて、ものすごいスキャンダルとかが出たら、突然媚びへつらうようになったりして(笑)。それはそれで、僕も見てみたいです。『お願いしますよ、旦那〜』とか言っている自分も面白い。媚びずに流れのままにですが、常に笑っていたいし、笑かしていたいなとはずっと思っています。周りにいる人たちを笑かしたいんですけどね、実際は空振りばっかです(笑)」

兄との思い出も役作りのヒント

──仕事とプライベート、スイッチを切り替えるときにしていることは?

「すんなり私生活に戻って行きますよ。役を背負わせてもらっていると、知らず知らずに自覚のないプレッシャーを体は感じているみたいですが、基本的にはこのまま。逆に、役をもらったときに自分と向き合うということはむちゃくちゃあります。今回も温人をやる上でいろいろ探しました」

──過去のエピソードを思い出したり?

「そうですね。物語の中の人物って飽くまで想像。想像を表現しても、現実味がないじゃないですか。それをどうやったら生身のアクションに出来るか考えたときに、自分の心が共鳴する何かを探すのがいいと思っていて。自分の過去とか、考え方の中にちょっとでもリンクできる何かを見つけようとします」

──今回の作品は新井さんと共に兄弟を演じていますが、中村さんにもお兄さんがいらっしゃるとか。

「そう。兄貴がいるから、自分の生まれ持った弟キャラを存分に出せるように(笑)。たいしたエピソードでもないんですけど、兄貴との会話とか、小さい頃の感覚とか、ヒントになるものはないかなって回想しました。でも、人って忘れて行く生き物なんですね…あんまり覚えてなくて。悲しいです」

──思い出をたぐり寄せるきっかけになったんですね。

「撮影前に用事があって実家に帰った時『うちってこんな匂いだったんだ』って思ったな。実家から出て一人暮らしをはじめて10年弱経っていて、はじめての感覚でした。匂いが一番、五感の中でフラッシュバックするのは強いって言いますよね。でも、自分ちの匂いって知らなかったなって」

──かぐと何かを思い出すような、特別な香りはありますか。

「そうだな…。ヴェポラッブ(ヴィックスベポラップ 大正製薬)の匂い。あれをかぐと、風邪で看病してくれていた家族のことを思い出してほっとします。あとは、ふとした時に街の匂いで『あ!小学校三年生のあの日と同じだ』ってなるときありませんか? そのときに遊んでいたものとか友達の顔とかが出てくる」

一言で表すと「泣き虫」な男

──あると落ち着く思い出の味はありますか?

「たまごボーロですね! サクッとつぶして舌の上で溶かしていく、あの感覚と味。なんだか好き。大人になってからも食べる機会があって、エモーショナルな気持ちになりました。“エモい”ってやつですね」

──静かに穏やかに笑うんですね。私生活で、自分の気持ちを爆発させることはあるのでしょうか。

「出しているつもりが出てない感じらしいです。だから勝手に、いいふうにとってくれる人にはミステリアスって言われます。それか、取っつきにくいという印象のどちらか。表面に出てないみたいなんですよ。だから『やる気あんのか?』って昔はよく言われました。誰よりもあるつもりなのに。だからどこかのタイミングで、伝わらないんだなって諦めました(笑)。そういう意味だと、感情を表現するのは苦手なのかもしれません」

──感情を露にする姿は、演技の場でしか見られない特別なものなのかもしれませんね。

「僕の場合、そうかもしれないです。自分とシチュエーションを、一生懸命繋げるんですけど… 感情を爆発させるのはそれが演技だとしても、確かにすごく考えないと出来ない。演じるのに自分の人間性と体は使わないといけないから、どう繋げればその人物の行動に至れるかを考えますが、怒るのが苦手ですね、たぶん」

──泣くのはどうですか?

「泣くのは、すぐ出来ます(笑)。実際に僕、泣き虫なので。これまでの人生も、都合が悪くなると泣いて生きていましたから。すーぐ、泣いてやり過ごす。涙で難を逃れてきた、ずるい次男坊なんですよ(笑)」

Photos:Satomi Yamauchi Stylist:Akihito Tokura(holy.) Hair & Makeup:Shun Matsuda Interview & Edit:Yukiko Shinmura

Profile

中村倫也Tomoya Nakamura 1986年東京生まれ。2005年、映画『七人の弔』でデビュー。以降テレビ、舞台、映画と精力的に活躍。出演ドラマはNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」や「アオイホノオ(TX)」、「ファーストクラス(CX)」「下町ロケット(TBS)」。出演映画に『沈まぬ太陽』「やるっきゃ騎士」「王妃の館」などがある。また数多くの舞台にも出演し、2014年には初主演となった「ヒストリーボーイズ」にて読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。現在KTV/CX系「お義父さんと呼ばせて」の他、WOWOW「双葉荘の友人」、映画「日本で一番悪い奴ら」、劇団☆新感線『Vamp Bamboo burn~ヴァン・バン・バーン~』に出演。

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