ブルボン小林が選ぶおすすめの本
漫画家と思われていない人の漫画
さまざまな分野で活躍するクリエイターやアーティストに聞いたとっておきの一冊。
『これが好きなのよ長新太マンガ集』長新太/著 ¥2,800(亜紀書房)
漫画は漫画家だけが描くわけではない
餅は餅屋というが、漫画は漫画家だけが描くわけではない。ファッションモデルが女優もこなすように、漫画家ではない人でもときに「兼ねる」ことはできる。
絵本作家として有名な長新太は漫画もすごかった。この新刊は、漫画雑誌ではない媒体にちょこちょこと載せてきた漫画の集大成だ。絵本はページを「めくる」こと自体が仕掛けとなり、大きく展開させたり驚かせたりするが、漫画はページ内にも「コマ割」という区分けがある。このコマがいっけん単調に、豆腐を賽の目に切ったようにただただ真四角に切り取られるのだが、同じサイズの繰り返しが効果をあげて「語り」のリズムを生み出している。これは漫画雑誌に載るような漫画の作法では発生しないグルーヴだ。どの短編も主人公はおじさん。彼らの不可思議な冒険は、「なのよ」とのんきに繰り返される語尾と相まって、必ず癖になる。
ラフで脱力するような絵柄も、筋の行き当たりばったりなところも、読者のカロリーを消費させない優しい読書になる。「全集」ではなく選ばれているのだが、ある連載など、平気で二話の次が五話まで飛んでいる。数話飛ばしても筋は追える(というか筋はあまりどうでもいい)、それより面白い回だけを読んでくれということで、編集した人のぬけぬけ具合もまた味わいどころ。
エモーショナルな人気作品を一気読みすることも漫画の楽しさだが、脂っこさのないこういう読書もまた「漫画」だ。
レジに持っていったら値段に驚くだろう。いわゆる漫画の値段ではない。そこで尻込みをしないでほしい! ファストファッションではない、大事なときに着る服のような心持ちで漫画を買ってもよいではないか。写真集や画集を買うと思えば安いものだ。しかも、そういった「立派な芸術」とは異なるナンセンスでラフな「漫画」にこそ、ときに「ちゃんとした」値段がついて然るべきだ。「気軽に愛蔵」というと矛盾するようだが、そうできる一冊。
テーマにまつわるその他の3冊
『流しの下のうーちゃん』
吉村萬壱/著 ¥1,200(文藝春秋)
「生々しい気配で不穏さを描く純文学作家が、いきなり発表した漫画作品。絵にも独自の香気と、あと可笑しさが満ちる」
『赤瀬川原平漫画大全』
赤瀬川原平/著 ¥2,800(河出書房新社)
「エッセイ、小説、美術批評と幅広く活躍した人だから、漫画をものしていることにも納得。当時のアングラ漫画への愛も感じる」
『二週間の休暇〈新装版〉』
フジモトマサル/著 ¥1,500(講談社)
「昨年、村上春樹『村上さんのところ』の挿画で話題となったが、本業は漫画家。夭折が惜しまれる。ぜひ復刊をみてほしい」
Text:Bourbon Kobayashi Photo:Yuji Namba Edit:Miho Matsuda