伊藤淳史「当時は本気でサッカー選手になりたかった」 | Numero TOKYO
Interview / Post

伊藤淳史「当時は本気でサッカー選手になりたかった」

自分自身の今に影響を与えた人物や、ターニングポイントとなった出来事、モノ、場所との出会い。それをきっかけに変化し成長した自分を振り返る。伊藤淳史のビフォー&アフター。


──ドラマ『大貧乏』で、エリート弁護士・柿原新一を演じている伊藤淳史さん。一文無しになったシングルマザーの七草ゆず子(小雪)を支えるべく、悪と闘う姿が印象的です

「柿原はスーパー弁護士で、年商100億を超える法律事務所社長。ものすごいお金持ちだけど、鼻につくお金持ち感より、正義感が優っている男です。間違いを正したい、間違いを認められる世の中にしたいと心底思っています。これだけお金持ちだったら運転手付きの高級車で移動していてもおかしくないけど、柿原はそういうタイプじゃない。目の前の現実に対してどう気持ちが動くのか、内面的なものをしっかり描きたいと臨んでいます」

──ゆず子は柿原にとって、高校の同級生で、憧れていた女神のような存在。約20年ぶりに同窓会で会って、再び恋心に火がついたようですが、どこに惹かれたのですか。

「素敵だと思っていた人と20年会わないうちに、憧れやプラスな思いがすごく膨らんでいったと思うんです。つまり会えなかった時間が柿原のゆず子さんに対する思いを強くした気がします。柿原は卒業後、一生懸命に仕事一筋で頑張ってきて。もしその間に他の女性と接する機会があったら、ここまでの思いは生まれないんじゃないかな。高校時代のゆず子さんへの思いが、年月の経過とともに5倍、10倍と増して、今に至るのでは」

──ゆず子との恋がこの先どうなるのか、ドキドキしますね。

「ちょっとずつ、いい感じに向かっているとは思うんですよ。ゆず子さんに近づきかけては離れるを繰り返しながら(笑)。柿原はこれまで女性と付き合ったことがなくて、好きな人からバレンタインチョコをもらうなんてありえなくて。でもきっと現実にも、大会社の社長でもそういう方はいらっしゃるだろうなと。二人の恋の行方も大いに楽しんでいただき」

──小雪さんはどんな女優さん?

「素敵です。物事をズバッと言ってくれて、強い。実際に3児の母ですから、その強さをひしひしと感じます。それでいて美しい。現場の人たちのことをちゃんと見ていて、気配りもできる。性格が明るくて、現場が和む。ああいう人が完璧な女性なんでしょうね。家に帰ると、ご飯を作り洗濯もしている。ロケ中も毎朝5時に起きるそうで、睡眠時間もわずかとか。『台詞、いつ覚えるんですか?』と聞いたら、『隙間で』と。撮影中、テストと本番の間のカメラや照明の調整時間にも台本を読んでいらして、一瞬たりとも無駄にしない。そんな人は今まで見たことがないですよ。そういうところも完璧」

──まさに、ゆず子と重なりますね。

「本当に。ゆず子さんも一文無しになって追い込まれて。でもそこで頑張る姿は、説得力にあふれています。子どもたちとの会話も、小雪さんがお母さんの視点から考えた台詞を提案してくださる。このドラマをより良いものに導いてくれますね」

──ゆず子の子どもたちも可愛いです。伊藤さんは子役出身だそうですが、子役時代を思い出したりしますか。

「ほぼ覚えていないんです。ただ、学園もののドラマで全く言うことを聞かず、助監督さんにすごく怒られたことは記憶に残っています。あと、泣くシーンで涙が全く出なくて、怖いスタッフさんに泣かされたところでカメラが回ったり(笑)。今の子どもたちはプロなので、いい子だし、泣くときはちゃんと涙を流して芝居をする。僕はダメだったなぁ(笑)」

──俳優を仕事として意識したのはいつ頃でしたか。

「小6で映画『鉄塔 武蔵野線』で主演したとき。1カ月間、親元を離れて埼玉の一軒家でスタッフさんと合宿したんです。そんなに長く親と離れて暮らしたのは初めてで。そのとき、監督にもすごく怒られて、子どもながらに仕事をしている実感がありました。僕は千葉の船橋育ちでサッカーをやっていて、当時は本気でサッカー選手になりたかったんです。中学では部活に集中して、2年ほど芸能活動をやめていました。ところが中3の夏の大会であっさり負けてしまい、サッカー熱が少し冷めた。そのタイミングで、やめた劇団のマネージャーさんから『いいオーディションの話があるよ』と。それほど興味はなかったけど強く勧めていただき、受けたのが映画『独立少年合唱団』でした。それに受かって、高1のとき、群馬の山奥の廃校で再び合宿生活。そのとき『鉄塔 武蔵野線』のことを思い出したんです。演じることにすごくやりがいを感じたし、プロ意識が芽生えた。そこで、俳優として頑張っていきたいと思ったんです」

──それから俳優の道一直線?

「いや、他に何か違う仕事や出会いがあるかもと思って、大学に進学しました。あと、できるだけ長く学生でいたかった。まだ俳優一本でいけるか不安でしたし、親にも勧められて。性格的にダラダラしたら卒業できない、留年したら大学をやめると決めていたんですけど。大学1年でドラマ『電車男』に出演。同時に大河ドラマ『義経』の撮影があり、後期に単位を一つでも落としたら留年する事態に。ところが後期試験の真っただ中にドラマ『西遊記』の撮影が入ってしまって。猪八戒の格好で、スタジオの控え室にこもってテスト勉強し、どうにか乗り越えました」

──学業との両立、頑張りましたね。

「普通、人は一段ずつステップアップすると思うんです。小、中、高…そして社会に出て、社会人として羽ばたいていく。僕の場合は幼い頃から仕事をしてきて、学生生活が終わっても、次のステップに行くわけじゃない。その分、大学卒業後にはもう言い訳できない、頑張らなきゃとあらためて思いました」

──今はもう迷いがない?

「もう迷う要素がないですね。他にできることがないので(笑)。俳優としてできているかと問われたら自信ないけど、仕事をいただけるからには全力投球したい。今、この仕事をしているきっかけは、僕が3歳のとき、おばあちゃんが新聞の折り込み広告に入っていた劇団のチラシを持ってきたこと。僕、テレビ大好きっ子で、『あっちゃん、テレビ出たいの?』と聞いたら、『うん』って答えたらしい。それで、劇団に入ったわけです。だから、もし生まれ変わって、またおばあちゃんがいたら、きっと俳優になるんだと思います(笑)。自分から俳優を選ぶかどうかはわからない。でも、とても魅力的な仕事なので、きっかけがあればやりたいと思うのかもしれません」

Photos:Tomoaki Okuyama
Interview & Text:Maki Miura
Edit:Saori Asaka

Profile

伊藤淳史Atsushi Ito 1983年生まれ。子役として活動し、2000年に出演したカロリーメイトのCMで広く知られるように。05年、ドラマ『電車男』が大ヒット。初主演の連続ドラマ『チーム・バチスタの栄光』がシリーズ化し、代表作の一つに。映画『ビリギャル』(15年)で日本アカデミー賞優秀助演男優賞ほか受賞。現在、フジテレビ系ドラマ『大貧乏』(毎週日曜21時〜)に出演中。映画『ねこあつめの家』が4月8日から公開予定。

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