
シンガポールのアイコンとも言える「マリーナ・ベイ・サンズ」や、世界一高い屋内滝で知られるチャンギ国際空港の巨大複合施設「ジュエル」。これらを手掛けたモシェ・サフディ氏率いる建築事務所サフディ・アーキテクツが、シンガポールで手掛けたもう一つの注目作が「シンガポール・エディション」だ。しかも、「EDITION」は、ブティックホテルという概念を世に広めた伝説的ホテル経営者イアン・シュレーガー氏と、マリオット・インターナショナルとのコラボレーションから生まれたホテルブランド。世界的名建築家とブティックホテルの雄による、ラグジュアリーライフスタイルホテル「シンガポール・エディション」の全貌をご紹介。
庭園都市と呼応する、シンガポールで2軒のみのサフディによるホテル

シンガポールの一大ショッピングストリートとして知られるオーチャード・ロードから、路地へ入った静かなエリアに佇む「シンガポール・エディション」。世界のホテルシーンを牽引してきたイアン・シュレーガー氏とマリオット・インターナショナルがタッグを組んだ「エディション」ブランドとして、世界で21番目、東南アジア初のホテルとして2023年11月にオープンした。

エントランスに足を踏み入れた瞬間、エディションブランドを象徴するブラックティーのフレグランスがゲストを優しく包み込む。館内の至る所にボタニカルを取り入れるのはブランド共通だが、ガーデンシティ・シンガポールとあり、その取り入れ方にケレン味はなく、自然体で洗練されている。

ホテルの中心となる「Lobby Bar(ロビーバー)」は、特注されたローズカラーのビリヤード台や、ピンクのバックライトに照らされた巨大なバーディスプレイが中央に据えられ、鮮やかなピンクのアクセントが目を引く空間だ。

ロビーやコンサバトリー(温室)には、手彫りの石や軽石の鉢と並んで、バリ島の職人によるアンティークのテラコッタの壺のコレクションが温かみを醸している。

そして何より目を引くのが、建物の構造だ。写真右側が8階建てのホテルで、左側が2つの28階建てレジデンスタワーで構成されている。しかも、ホテルの最上部から2棟のレジデンスタワーの間をぬけてつなぐスカイブリッジが架けられ、さらにそのはるか上空では、2棟のレジデンスタワーの最上階もそれぞれスカイブリッジでつながっているのだ。

2つのレジデンスタワーとホテルをつなぐ「スカイブリッジ」にも面白い細工がある。ホテルのルーフトップにあたるこの空間には、オーチャード・ロード沿いで最長となる43メートルのプールがある。プールの底には透明なアクリル製ののぞき窓がはめ込まれており、泳ぎながら9階下の緑豊かな中庭を見下ろすことができるという、遊び心あふれるデザインなのだ。

建物はそれぞれ異なる通りに向けて配置されており、敷地の中心に沈床式の中庭がある。ホテルとレジデンスという異なる機能を持つ2つの空間を、自然に繋ぎつつ分離するアプローチも面白い。

ロビーから、中庭へと続く白いヴェネチアン漆喰の螺旋階段は、「シンガポール・エディション」の代名詞的存在で、人気のフォトスポットだ。それぞれの空間を機能的かつ滑らかにつなぐ“導線の美”が随所に見られる。
機能美がつまった客室や、空を泳ぐ絶景プール、至福のウェルネス体験

全204室の客室とスイートは、オーチャード・ロードの喧騒を感じさせない静謐な雰囲気が漂う。ホワイトオーク材の床には温かみのある白のラグが敷かれ、ベッドには手縫いのダマスク織りのスローが上品なアクセントを添えている。調光可能な木製のルーバーや遮光シェードにより、自然光をコントロールした心地よい空間だ。

ホテルは中庭をコの字型に囲むように配置されており、客室からもその眺望が楽しめる。レジデンス棟の下層階をコンクリートの柱で高く持ち上げることで、ホテルの客室と居住区の視線が直接合うのを防いでいるのもさすがの心配りだ。

バスルームに目を向けると、「ル ラボ(Le Labo)」がエディションのために開発したアメニティが並ぶ。ビタミンEとアロエを配合した肌に優しいシャワージェルや、ホホバ、マカダミア、スイートアーモンドオイルをブレンドしたマッサージ&バスオイルは、どちらもエディションブランドのシグネチャーであるブラックティーの香りが漂う。

個人的に目を見張ったのが、シャワーの操作ボタン。無駄をそぎ落としたシンプルでスタイリッシュなデザインながら、誰でも感覚的に理解でき、使いやすいのだ。こういったクールな機能美にエディションの美学を感じる。

先述した通り、ホテルのルーフトップには緑あふれるプールがあり、アーバンリゾートステイが叶う。テラコッタとブルーを基調とした半屋外のラウンジスペースにはパラソルとデイベッドが並び、心地よい南国の風を感じながらリフレッシュできる。

プールに隣接する形で「The ROOF(ザ・ルーフ)」があるので、プールサイドで軽食をつまんだり、サンセットタイムにソファに座りアペロを楽しむのもいいだろう。東南アジアのエッセンスを取り入れたカクテルや、搾りたてのフレッシュジュースで乾杯したい。

とことん癒しを求めるなら、2階に位置する「The Spa at The Singapore EDITION(ザ・スパ・アット・ザ・シンガポール・エディション)」へ。合計7室のトリートメントルームを備え、そのうち1室は専用のシャワーとバスルームを完備したカップル用スイートだ。

メニューはフェイシャルやボディスクラブから、アイ・リップトリートメントまで多岐にわたり、「ル ラボ(Le Labo)」「セルコスメ(Cellcosmet)」「オモロヴィッツァ(Omorovicza)」に加え、「ハイドラフェイシャル(Hydrafacial)」といった世界的スキンケアブランドのプロダクトが用いられている。

また、男女別に分かれた温浴施設には、サーマルプール、アイスファウンテン、サウナ、スチームルーム、そしてリラクゼーションラウンジがある。宿泊ゲストであればトリートメントの予約がなくても、隣接するフィットネスジムも含め自由に利用できるので、ぜひ滞在中のルーティンに組み込みたい。
数々の“女性初”を切り拓いてきたシェフが率いる、ダイニングの数々

「シンガポール・エディション」は、数々の“女性初”を切り拓いてきたマンディ・ゴーシェフが総料理長に就任したばかりで、グルメディスティネーションとしても注目を高めている。ゴーシェフは、21歳の若さで「ボキューズ・ドール・アジア」にて大会史上初となる女性のみのチームで金賞を獲得、その後「ザ・セントレジス・ランカウイ」の初の女性総料理長に就任。2023年には「HAPA Awards Malaysia」の「Executive Chef of the Year 2023–2024」を受賞し、ラグジュアリー誌の「40 Under 40」にも選出された実力派だ。
そんな彼女が得意とするのが、ヨーロッパの調理技法と、アジアならではの味わいを融合させ、現代的でストーリー性のある料理に仕立てた「ユーロ・アジアン・キュイジーヌ」だ。メインダイニングとなる「FYSH at EDITION」では、そのエッセンスを大いに感じられる。
アツアツでジューシーな魚のコロッケは、キュウリのピクルスの酸味とターメリックが絶妙なアクセントになり、スターターとして完璧。南北マレーシアのスタイルをミックスした「ラクサ」はクミンなどのスパイスやドライリーフを巧みに使い、奥深いスパイスのレイヤーを描き出している。

メインはスペイン製の炭火オーブン「ジョスパー」で香ばしく焼き上げたクイーンズランド産イエローフィンツナのテンダーロインとビーフテンダーロインが並ぶサーフ&ターフ。これらをマスタード、サンバル、チミチュリ、ハリッサ、チリマヨ、バーベキューソースなど、多彩なソースで味わうのがFYSH流だ。オーストラリア・タスマニア産のダルリンプル・ピノ・ノワールや、イタリアのニコリス・レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラといった厳選ワインとのペアリングもご賞味あれ。

朝食は、レパートリー豊かなハーフブッフェスタイルだ。100%放し飼いの鶏の卵を使用したメニューが並び、ロブスターテイルとショロンソースを添えたエディション・ベネディクトや、低温調理卵にマッシュルームフォームと黒トリュフを合わせたトリュフ・エッグなど、朝から目移りしてしまう。

揚げ豆腐が乗ったシンガポール・ロブスター・ラクサや本格的なナシレマなど、充実したローカルメニューも目白押しだ。

ローカルの女性に人気なのが、緑の木々の天蓋の下や、ピンクのベルベットに包まれた鮮やかな「ロビー・バー」でいただくアフタヌーンティー「ORCHARD BLOOM(オーチャード・ブルーム)」だ。伝統的な英国式アフタヌーンティーに、シンガポールならではのエキゾチックなローカルフレーバーをモダンに融合させている。

スモークサーモンをはじめとした3種のサンドイッチはタイルアートのように美しく、ロブスタークロワッサンはアラビアータ味だったり、オランデーズソースをかけたエビはカンノーリ仕立てだったり、洗練されたアレンジに富む。

スイーツには、ヘーゼルナッツキャラメルホワイトチョコレートケーキや、抹茶とハイビスカスのムース、オレンジバニラのブリュレカスタードを包んだチョコレートクレープなど、視覚にも味覚にも精緻な技術が施されている。英国高級ティーブランド「JING Tea」の豊富なラインアップも、心ゆくまで味わいたい。

エディションブランドと言えば東京・銀座でもおなじみのシグネチャーバー「Punch Room(パンチルーム)」でのナイトキャップは外せない。店内はブルーを基調としており、クラシックなロンドンのジェントルマンズクラブを彷彿とさせるミステリアスな雰囲気が漂う。

ここでぜひオーダーしたいのが、神話や歴史の挿絵が描かれたメニューブックから選ぶパンチカクテルの数々。マーライオン誕生の逸話を表現した「MERLION PUNCH」は、ザ・マッカラン12年ダブルカスクをベースに、コアントローやザクロルビーティーをブレンドした味わい深い一杯だ。

さらに、金曜夜には隣接するナイトクラブ「ワンダールーム(WONDER ROOM)」がオープン。DJによるライブパフォーマンスとカクテルが、週末の夜をさらに盛り上げてくれる。お忍びで利用できるVIPルーム「ピンクルーム」もあるので、プライベートな会合にも打ってつけだ。

ビルとビルをつないで作るプールとブリッジ構造、自然と居住空間の融合というサフディ建築の特長がつまった「シンガポール・エディション」。機能的で美しく、ひねりが利いていて唯一無二、そして遊び心を忘れない、そんなスピリットが建物だけでなく、サービスからも感じられるホテルだ。
シンガポール・エディション(The Singapore EDITION)
住所/38 Cuscaden Road, Singapore 249731
URL/www.marriott.com/ja/hotels/sineb-the-singapore-edition/overview/
取材協力:シンガポール・エディション
Photos & Text: Riho Nakamori
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