有村架純やENHYPENらが来場。ノイズにまみれた現代カルチャーに抗う「プラダ」2026年春夏ウィメンズコレクション
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有村架純やENHYPENらが来場。ノイズにまみれた現代カルチャーに抗う「プラダ」2026年春夏ウィメンズコレクション

プラダ(PRADA)は、2026年春夏ウィメンズコレクションを現地時間の9月25日にミラノで発表。ランウェイ形式で行われたショーのフロントロウには、グローバルアンバサダーを務めるaespaのカリナやENHYPENのメンバーらに加え、日本からは俳優の有村架純や『メタルギア』シリーズなどで知られるゲームデザイナーの小島秀夫が顔を揃えた。

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“構成の核”を意味する「BODY OF COMPOSITION」をテーマに掲げた本コレクション。コレクションノートによれば、溢れかえるコンテンポラリーカルチャーに対して、衣服を通じて抽出や濾過といったプロセスを経ることで、その答えを導き出すものだという。思えば、プラダは2025春夏ウィメンズコレクションでも、インターネットがもたらすアルゴリズムによって導かれる限定された世界への懐疑的な視点を表現しており、おしなべて均質化されたカルチャーに対しての異議申し立てという点では、ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズにとっては継続的なテーマであると言えよう。

会場となったフォンダツィオーネ・プラダは、剥き出しの円柱が等間隔に並べられただけのシンプルな空間。アート・オブ・ノイズの『Moments In Love』が流れるとショーはスタートした。先述したコレクションノートには「期待を裏切るような意外な手法で、さまざまな要素を分散あるいは組み合わせ、ボディにまとわせた」とあったが、サンプリングを駆使したサウンドコラージュの先駆的な存在であるアート・オブ・ノイズの曲を使用したのも示唆的である。

 

ファーストルックは、ミリタリーのオフィサーシャツとパンツのセットアップ。トップハンドルのバッグを携え、足元はフラットソールのレザーシューズを合わせた。シャツのエポーレットやパンツのクリースにユニフォームの規律が見て取れる。続いても同じようなセットアップだが、肘まで覆ったオペラグローブがスタイルのアクセントに。ワークウェアとフォーマルな小物という“組み合わせの妙”もさることながら、“異なる要素を並べて配置しただけではない、創造的なプロセス”で作られたとコレクションとあるように、ワーキングクラスと上層階級の象徴的なアイテムを組み合わせることで、装いにおける記号性を排除したと捉えるべきだろう。このオペラグローブはマテリアルやカラーを変えてショーを通じて多用されており、本コレクションのキーピースとして機能していた。

また、ショー終盤にいくつかのルックで披露された、首元をスクエアにカットしてビジューで装飾を施したトップスは、ノルウェーの民族衣装“ブーナット”やドイツの“ディアンドル”を想起させるもの。どちらも元々、農村の女性が着用していたという出自を考えれば、記号性はもちろん、階級という“呪い”を取り払う狙いも伝わってくる。

再度コレクションノートの言葉を拾うと、ドレスにおいては「従来のやり方から解放された自由な作りでありながら、完璧な調和を奏でた」とある。バリエーションで魅せていたサロペットのようなルーズなスカートや、フィット感を無視したブラトップがその一例だ。前者は肩紐の存在がかろうじて重力に抵抗しているような異形のフォルムであり、後者に関してはバージスラインがブカブカに浮いており、服やアンダーウエアが持つ根本的な性質や機能そのものを問い直している。ただ、どのアイテムも柔軟な着こなしができるようデザインされたものであり、スカートで言えば怠惰にズレた腰元の隙間からショートパンツを覗かせ、レイヤードで魅せていた。シアーなレーススカートにはアウトドアライクなナイロン素材を合わせるなど、素材感や色柄の対比で重層的なニュアンスを表現するなど、スタイリングの余白や遊びを着用者に委ねている。

今年2月に行われた2025-26秋冬ウィメンズコレクションでは、女性らしさの定義を見直し、ファッションにおける従来のジェンダー規範の解放を試みている。今回、スカートやブラトップといった女性性の典型的なアイテムを、意外な手法でエレガンスに昇華させたのは白眉であった。また、ラフとミウッチャというトップ・オブ・トップのスターデザイナー同士が、こうしたセンシティブなニュアンスを共有し合っていることも、現在のクリエションの充実度に繋がっているのだろう。

衣服が本来備える作用を問い直す試みは、何もシルエットを崩すことだけに留まらない。レースやタフタなど、パネルごとに異なるファブリックを繋ぎ合わせたスカートは複数のバリエーションで登場。プリーツの数やティアードの位置、色柄のバランスなどを考慮してそれぞれの分量や丈感を変えるなど、手の込んだ作りが光る。中盤以降にいくつか登場したボックス型のワンピースの裾をたくし上げてテクニカルファブリックのバルーンスカートが飛び出したようなドレスも印象に残った。身頃に生まれる大きなドレープとドローコードで絞った裾部分が歩くたびに揺れ動くようなフォルムを形作っており、構築的なパターンメイキングによって、従来の常識から逸脱した自由なファッションの作り方を別のアプローチから立証している。

他にも目を惹いたのが、マイクロミニ丈のブルマパンツだ。2026春夏メンズコレクションで披露されて話題を呼んだが、今回もトップスと一体化したジャンプスーツやパンツ単体として様々なルックで重用されていた。“姿勢の変化−意味の解体、そして力の解体”をテーマの一つに据えたメンズコレクションとも地続きとなるテーマの継続性が、コレクションに奥行きを付与しているのも見逃せない。

ファッション誌のレポートによると、コレクション後にラフは「今は世の中の何もかもが極端に激しい」と語ったと言う。ミウッチャもまた、ミュウミュウ(Miu Miu)2025年春夏コレクションのなかで、情報過多な現代社会において物事を正しく吟味する審美眼が必要だと暗に説いている。両者ともにネット、とりわけSNSにおけるエコーチェンバー現象が、偏った情報をより先鋭化し、逆に感性を鈍化させていることを危惧しているのだろう。その巨大な渦の中で2人の天才が抗い続けている姿は実に頼もしく、心を打つものがある。そうした背景も含めて、深い余韻が残る印象的なコレクションであった。

PRADA
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TEL/0120-45-1913
URL/www.prada.com

Text: Tetsuya Sato

 

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