
近年、重厚な俳優の出演や演出で上演されることの多い『リア王』。ここ数年の間でも段田安則、木場勝己主演の他、横内正演出版のものなど数多くのプロダクションで上演されている。
親子の断絶や主君に対する忠義、といったテーマが日本人にフィットしやすく、長寿社会の日本では、他のシェイクスピア作品よりも自分の身に近づけて考えやすいのかもしれない。
この秋、Bunkamuraの〈DISCOVER WORLD THEATRE〉シリーズが手掛けるのは、大竹しのぶ主演の『リア王』。海外戯曲を新しい視点で上演してきた試みのなかでも、ひときわ意欲的な企画だ。
今回演出を手掛けるのは、シリーズ最多登場を誇るフィリップ・ブリーン。『罪と罰』(19)、『アンナ・カレーニナ』(23)などを新たな視点で描き出す作業は、人間を深く見つめ物語を繊細に紡ぎ出す視点を持ち、高く評価されている。
ブリーンがテネシー・ウィリアムズ、ユージーン・オニールといった近代演劇の傑作を共に作り出してきた大竹に、今回のチャレンジを持ちかけるのは、性別、という固定概念さえ取り払ってしまえば、当然のことかもしれない。
面白いことに、大竹は中学生の時に脚本を手掛け、『リア王』を上演した経験があるという。その際はコーデリアを演じた大竹が、タイトルロールのリアを演じるというのが実に面白い。
老人というものはなぜか、年を経るにつれ性別を超越したものになっていく。単純に見た目が、という事ではなく、女性の中に隠されていた芯の強さはより堅固に、男性が内包していた柔らかさや一種の弱さが露呈していくからなのか、とも思う。
リアの男性としての、そして王としての権威が弱くなっていき、最後に残る部分を大竹しのぶが演じるとすれば、なにかそれは、人間の性別とか社会的地位とかそういうものがすべて取り去られ、最後に残されたものがキラリと見えるだろう。
脇を支える俳優たちがまた、実に豪華だ。リアの長女ゴネリルに宮沢りえを配するほか、成田 凌、生田絵梨花、鈴鹿央士、横田栄司、安藤玉恵、勝村政信、山崎 一と、華もあり、狡猾さもお手の物の顔触れがそろう。
自分が来た道、そして行く道を男性も女性も、自分のものとして考える、そんなボーダレスな『リア王』を楽しみたい。
Bunkamura Production 2025/DISCOVER WORLD THEATRE
vol.15『リア王』 NINAGAWA MEMORIAL
作/ウィリアム・シェイクスピア
上演台本・演出/フィリップ・ブリーン
出演/大竹しのぶ 宮沢りえ 成田凌 生田絵梨花 鈴鹿央士
西尾まり 大場泰正 松田慎也 和田琢磨 井上尚 吉田久美 比嘉崇貴 青山達三
横田栄司 安藤玉恵 勝村政信 山崎 一
ミュージシャン/会田桃子(Vn.)、熊谷太輔(Perc.)、平井麻奈美(Vc.)
公演日程/2025年10月9日(木)~11月3日(月・祝)
会場/THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
チケット料金/S席¥13,000 注釈付きS席¥13,000 A席¥9,500(税込・全席指定)
※注釈付きS席は場面によりご覧になりにくい場合がございます。ご了承の上、ご購入ください。
主催/企画・製作:Bunkamura
<大阪公演>
公演日程/2025年11月8日(土)~16日(日)
会場/SkyシアターMBS
お問合せ/キョードーインフォメーション 0570-200-888 (12:00~17:00 ※土日祝は休業)
主催:MBSテレビ/サンライズプロモーション大阪
Text:Reiko Nakamura
