展覧会レビュー:「鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」@東京都写真美術館
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展覧会レビュー:「鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」@東京都写真美術館

展示風景 撮影:藤澤卓也
展示風景 撮影:藤澤卓也

東京都写真美術館にて「総合開館30周年記念 鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」が開催中。セクシュアリティをテーマとした作品や日常のスナップショット、さらに「影」を被写体とした写真の根源に迫るテーマにも取り組む写真家、アーティストの鷹野隆大の個展を写真評論家タカザワケンジがレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年5月号掲載)

展示風景  撮影:藤澤卓也
展示風景  撮影:藤澤卓也

回遊するように楽しむ写真・映像

展覧会場に入ると大小さまざま、カラー、モノクロが混じった写真、そして映像が飾られている。

どの作品から見るか? がすでにこの展覧会が私たち観客に投げかけている問いなのだ。

おそらく多くの人がまず目を引かれるのは紫のキャミソールを着たポートレート写真だ。だが、このポートレート写真から目が離せなくなる。男性か女性かを判断しようとする自分に気づくからだ。

鷹野隆大《レースの入った紫のキャミソールを着ている(2005.01.09.L.#04)》〈In My Room〉より 2005年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates
鷹野隆大《レースの入った紫のキャミソールを着ている(2005.01.09.L.#04)》〈In My Room〉より 2005年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

私たちは人物写真を見るとその人物について想像するという習性がある。そのときになぜか性別が気になってしまう。カメラは人物のセクシュアリティなど関係なくその表面を忠実に撮っているのに。

この展覧会で鷹野は90年代から始めた作家活動のキャリアをいったん解体し、シリーズごとではなく写真・映像単体で展示している。全体のタイトルに「カスババ」と名付けたのは、同名のシリーズが、「カスのような場」に目を向けることで始まったストリートフォトであるだけでなく、ふだん見過ごしているものを見よ、という意味を含んでいる。たとえばそれがジェンダーであり、一人一人が個性を持つ身体、そしてその身体について回る影である。

鷹野隆大《2015.10.28.#a28》〈カスババ2〉より 2015年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates
鷹野隆大《2015.10.28.#a28》〈カスババ2〉より 2015年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

この展覧会は、ぜひ歩きながら、ふらふらと見ていただきたい。1点1点で見る楽しみもあれば、隣り合う作品のつながりを楽しむことができる。身体ごと回遊するように見ることで、その両方を全身で味わうことができるだろう。

鷹野隆大《2002.09.08.M.#b08》〈立ち上がれキクオ〉より 2002年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates
鷹野隆大《2002.09.08.M.#b08》〈立ち上がれキクオ〉より 2002年 ©Takano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

「総合開館30周年記念 鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」

期間/2025年2月27日(木)~6月8日(日)
場所/東京都写真美術館 
休館日/月
URL/https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4826.html

Text:Kenji Takazawa Edit:Sayaka Ito

Profile

タカザワケンジ Kenji Takazawa 写真評論家。1968年生まれ。IG Photo Galleryディレクター。『Study of PHOTO』(BNN新社)日本語版監修。著書に『挑発する写真史』(金村修との共著・平凡社)、『二つの町の対話:花蓮・前橋』(TRIPLET)ほか。
 

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