東京エディション虎ノ門で語られた、知ること、学ぶこと、伝えることから始まる自分らしい生き方 | Numero TOKYO
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東京エディション虎ノ門で語られた、知ること、学ぶこと、伝えることから始まる自分らしい生き方

“ニュー・ジェネレーション・オブ・ラグジュアリー”をテーマに掲げ、誰しもが自分らしく自由に生きる権利を持てるようになることを願うエディションが、国際女性デーを敬して、各分野で活躍する多彩なゲストを迎えて、女性として生きる権利や活躍の場を広げる機会を増やすために行うトークセッション。

今年は東京エディション銀座と東京エディション虎ノ門を舞台に、それぞれ異なるゲストを招いて開催。その第二弾となるセッションには、第一弾同様に国際協力NGOジョイセフ事務局次長の小野美智代を筆頭に、歌手として活躍するAI、クリスタル ケイ、新たな活動をスタートさせたマリウス葉、DJそして、POOLDE/PEGIONのデザイナーであるPELI、モデルの立野リカ、ナイキジャパンのアントン ミエが参加。東京エディションのカルチャー&エンターテインメントディレクターの白川麻美と共に、それぞれの経験や考えをシェアしながら女性を取り巻く環境や次世代へ繋ぐ性教育の大切さ、さらには大人だからこその学びの重要性などについて論議。エネルギッシュな日本の未来を築くために、今、必要なものとは?

健やかに生きるために、大人も子どもも学ぶべき性教育

日本の性教育は、他の先進国と比べて非常に遅れをとっているのはなぜか? その背景には、社会的なタブーや教育方針の制限、保護者の主観や政治的な影響が見え隠れする。長年性と生殖に関する啓発教育に携わってきたジョイセフの小野や子どもを持つ歌手のAI、そしてナイキジャパンのアントン ミエらは、性教育についてどう考えているのだろうか?

「日本は性教育が本当に遅れています。日本の公教育において一貫した性教育は行われていません。例えば、中学一年の保健体育科の学習指導要領を見ると学校教育の中で性交は取り扱わない方針であることが分かります。学校もやらないし、親もどう教えていいかわからないので、性的トラブルになっている大半が同意のないものです。相手がノーと言っているのも分からず性交渉し、トラブルになる。もともと昔からあったことだけれど、ようやく最近ではテレビも報道するようになり、そこはすごく変わりました。ジョイセフが活動をはじめて50年の間に、色んな意味で世の中が良い方向に変わってきたと思います。

ただ今後は、アメリカのトランプ政権が世界各国に悪影響を及ぼすのではないかという心配があります。世の中が保守化傾向になってきているように感じています。それ以上に心配していることは、女性は安全に中絶をする権利があるのにできないことです。アメリカでは19の州で安全な中絶が許されていません。もし中絶をしたら女性も医者も犯罪者になります。だから、安全な中絶を提供するクリニックがどんどんなくなっているのです。さらに、もしそこに私たちのように応援する団体がいたら、その団体に対してアメリカは資金援助をストップするのです」(小野美智代)

性への知識が乏しいが故の性的トラブルを避けるためには、子を持つ親たちは家庭での性教育をどう捉え実際に取り組んでいるのだろうか。例えば、学校などで大人に性的なハラスメントを受けたときにきちんと子どもが「ノー」と言えるだろうか。今回の参加者の中で子どもを持つAIとアントン ミエはどんな取り組みをしているのか?

「私が小さい時は、日本の公立の小学校で性教育がほとんど行われませんでしたが、今、私の子どもたちが通っている東京の公立小学校では、小学校の性教育が大きく変わっておりびっくりしました。性に関して何かモヤモヤすることがある、誰かに嫌な触り方をされて嫌な気分になった、先生に変な見られ方をして嫌な気分になった、というようなことがあったら報告してくださいと、学校とコミュニケーションが取れています。小学校でもこのような環境があることに驚きました。

7歳と9歳になる子どもは2人とも男の子なので責任を感じる部分もあり、自宅でも性に関して話していますが、きちんとコミュニケーションをとって同意がどういう意味なのかなど、成長に合わせたコミュニケーションをとっていきたいと考えています。困った時は、医者のママ友に助けを求めることも。性に関して、ざっくばらんに子どもたちに話をするのがものすごく得意な方なんです」(アントン ミエ)

現在、学校で行われている性教育は十分と言えるのだろうか? 日本の学校での性教育の男女差はとても激しいという声も。さらには、生徒だけでなく親を含めた大人たちも今一度、性教育について考え直す必要があるという意見もあった。

「ユネスコはグローバルスタンダードの性教育として、学校では男女一緒に生理(月経)の話と精通の話をすることを推進していますが、日本では男女ともに同じ教室で行おうとすると保護者から、生理の話を男の子がいる前でしたなんてとんでもない、とクレームが入る。実は、そういう親の意見は多いのだと耳にします。だから、親たちや大人たちへの性教育も同時並行で実施する必要があると思うのです」(小野美智代)

「僕は日本の高校に通っていて、男女別々で性教育を受けました。女の子たちの気持ちが落ちていたので聞いてみると中絶の動画を見せられたと。男の子の性教育と言えばコンドームの付け方を教わるなどです。中絶についても勉強しなくてはならないのに、日本では男性にそれを教えないから男女で性教育の差が激しい。男性こそ女性の体をより理解しないといけないと思います。男性社会が成り立ってしまっているからこそ、男性としての責任を知る必要があります」(マリウス葉)

「性教育もですが、次世代の幼い子どもたちが自然とこれはみんなで一緒に学ぶものなのだという考えになれば、世の中は大きく変わると思います。例えば性教育は男女別で受けることが一般的だった世代の人たちの考えから新しい世代へ入れ替わり、きちんと教育を受けてきたり学ぼうとする人たちが親の世代になることで変わりますよね。子どもはいませんが、例えば、弱い者いじめはダメだし優しく守ってあげなくてはいけないよなどと伝えることで、子どもが成長したときに、自然と女性の生理がどんなもので体がどのような状態になるのか理解をし、他者への思いやりが身に付いていくのではないでしょうか」(クリスタル ケイ

子どもたちの未来の鍵を握るのは、やはり“教育”。それは性教育だけに留まらず、もっと幅広い範囲で捉えていかなくてはいけない。

「2025年のジョイセフの活動の主軸は『性教育』です。自分を大事にして自分のことは自分が決める、という人権教育を日本でやりたいと思っています。ユネスコが中心となって定められた国際セクシュアリティガイダンスで性教育の開始が推奨される5歳の子どもから教えたいです。日本では、いろんな家族がいていいということを学ぶ機会がほとんどない。例えば、保育園で母の日にお母さんの絵を描いたりしていますが、そういうところから多様性を認めにくい凝り固まった偏見が生まれるのだと思います」(小野美智代)

心の声を大切にすることがメンタルヘルスの第一歩

PELI、アントン ミエ、AI
PELI、アントン ミエ、AI

多くの人々がストレスや不安、うつ病などの精神的な問題が増えている今、メンタルヘルスの重要性がますます認識されるようになっている。そんな現代において、日本はその対策に遅れをとっている。心の健康を保持することは、身体の健康同様に大切であり、人生を豊かに過ごすために欠かせないもののはず。その中でもカウンセリングの必要性は非常に重要で、幅広い世代が取り組むべき課題のひとつとなっている。自分自身でどのように心のサインに気づき、カウンセリングを受けて対処していくことがベストなのか? 自身もメンタルヘルスの問題に直面した過去を持つマリウス葉は、自らの経験を経てこう語る。

「喜びとは何ですか?と聞かれた時に、ワイワイというようなテンションの高い喜びもありますが、公園で散歩しながら綺麗なお花を見て感じるような小さな喜びも大切。何か心に抱えているときに、セラピストや精神科など臨床心理士に話すことが重要となりますが、多くの人がそこに対する壁を感じており、なかなかそこに辿り着けない。私は病気じゃないと心の状態を認められない人たちも多くいますが、もし骨を折ったら必ず病院に行きますよね? それと同じ感覚でセラピストや精神科、臨床心理士を訪れてほしい。

そして、親や家族と話しやすい環境があるとなおさらいいです。僕の場合、親にはいろんな話をできる関係でしたが、メンタルについてはなんとなく話せないことが多かった。そのため、問題に直面する前に話すことも大切だと思っています。話すことで解放される感覚を幼い頃から身につけていたら、また違っていたかもしれません」(マリウス葉)

最近では、カウンセリングを受けられるなど、メンタルヘルスに関するサービスを社員に提供している企業も増えてきているとか。

「会社の福利厚生にカウンセリングを受けられる制度があるので、私はチームのメンバーにも自分がカウンセリングを受けていることを話していますし、受けることを勧めています。会社のサポートがあっても、受けられることを伝えないとみんな受けない雰囲気があるので」(アントン ミエ)

日本は未だ男性社会。だからこそ、男性たちへ負荷がかかり、プレッシャーも相当なもの。女性はもちろんだが、男性にも積極的にメンタルヘルスの問題に向き合ってほしいとの声も。

「日本は、自殺率が高い国。その中でも、男性の自殺率はすごく高いです。日本は未だに男性中心の社会なので、そのことで女性にすごく負担をかけていることもありますが、男性にとっても相当なプレッシャーを与えていると思います」(マリウス葉

「例えば、男だから泣いちゃいけないとか、悩んじゃいけないというプレッシャーがあります。ジョイセフが実施した若者の意識調査で、男性の半数近くが性の悩みを相談できる人がいないという結果が出ました。女性は相談相手として母親、ついで友達をあげましたが、そこにも大きなジェンダーギャップがあることが分かりました。悩みを誰にも相談できない男性の割合は年齢が上がるとともに高くなります。それが男性の自死率の高さにも繋がっていると思われます」(小野美智代

「世の中には、男の子だからママを守らないとね、と子どもに声をかける大人がたくさんいます。息子が2人いますが、彼らにそんなことは求めたくない。子どもにそのようなプレッシャーを与えたくないし、男の子だからママを守るというコンセプト自体が間違っている。私は母親であり子どもを守ることは私の役目。男の子だからという偏見はいけません」(アントン ミエ

周囲の人たちがどんどん鬱状態になっていく現代。そんな時に自分に何ができるのか? そして、自分自身が鬱に陥らないためにはどんな風に生きていけばいいのか。

「周りの人たちが悩みを抱えてみんな鬱になるわけです。『鬱』という言葉をこんなに聞いた年は他にはないくらいに。みんなから届くメッセージは、『助けて』『もう死にたい』『どうしようもない』……というようなメッセージが多い。そのため、最近では歌でも死なないでという歌詞が多くなっています。もう本当にその言葉しかない。平和を作る以前に、とにかく人が死なない世界を作るには、どうすればいいのかと。人って気力がないと、何か変えようと思ってもできません。だから、みんなを元気にさせないといけないと思っています」(AI)

「心の問題や、トラウマがあってもカウンセリングを受けないというのが日本の現状。自分がちゃんと信頼できて、話しやすいセラピストを見つけるまで、いろいろな方と話してみるのがいいと思います。いい出会いによってメンタルヘルスは回復するから。日本の学校では、我慢が素晴らしいというようなことを教えますよね。だから、たとえ体がサインを出してもそれを無視することを覚えてしまうんです。そのまま大人になり、ストレスを感じても我慢しないといけないという思考になるのだと思います」(マリウス葉)

「メンタルの状態は体全身に繋がっています。女性は婦人科系も含めて、全てのことはストレスから始まるんです。例えば、ストレスで生理が止まってしまったり、ひどくなってしまったり。ちゃんとケアすることが、心身ともに健康でいるためにとても大切です」(立野リカ)

我慢を身に付けることは悪いことばかりではない。しかしながら、体が発しているストレス過多のシグナルにも気づかなくなるほどの我慢は、健やかなメンタルを維持するには大敵と言える。そんな中、話はメンタルヘルスの不調で東京オリンピックを途中棄権し、その後パリオリンピックで見事に復活。団体、個人総合、跳馬で見事に金メダルに輝いたアメリカの体操選手、シモーネ・バイルズの話にまで及んだ。

「東京オリンピックで、メンタルヘルスの問題を理由に途中棄権した体操選手のシモーネ・バイルズが、その4年後となるパリオリンピックで団体と個人ともに金メダルを取り、そのドキュメンタリーをネットフリックスで観ました」(マリウス葉)

「スポーツをしていると我慢というよりガッツによってストレスも簡単に超えられるというようなこともあります。だから、我慢することが大切だということも一理あると思います。実は、3ヶ月ほど前にシモーネ・バイルズとお会いしてお話をしました。すごいと感じたのは、彼女が母親に、東京オリンピックには出られないと伝えると、母親は、あなたがやりたくなければやらなくていいと一言。そういう家庭環境や母と娘の絆、その関係性がすごく素敵でした」(立野リカ)

男らしさ、女らしさではなく、自分らしさを目指して

マリウス葉、クリスタル ケイ、立野リカ
マリウス葉、クリスタル ケイ、立野リカ

日本では現在でも、「男らしさ」「女らしさ」という固定観念が根強く残り、女性がキャリアを重視すると「家庭を顧みない」と批判されたり、男性が育児に積極的だと「男のくせに」と言われたりする文化があるのも事実。社会的プレッシャーと共に、本来、性はグラデーションで良いにも関わらず性別を固定化し役割を助長していると言える。では、様々な分野で活躍する今宵のゲストたちは、この状況をどう捉えているのか?

「男の子なんだからと言う表現が家族の中でされることがありますが、今の時代、ジェンダーで分ける必要はないと思います。家族もきっと口癖のような感じで、自分自身も親から言われてきたことだから、しっかりしてほしいというニュアンスで言うのもという理解はできますが、その『男の子なんだから』というフレーズがどうしても引っかかります」(AI)

「例えば、息子と娘がいる家庭で、息子には『あなたは勉強頑張りなさい』と言い、娘には『あなたはいい奥さんになりなさい』と言っていたら、その環境によって娘の方は勉強を頑張らなくなるという現実もありますよね」(マリウス葉)

そんな中、新しさが常に求められるエンターテインメント業界には変化が見られるのだろうか?

​​「昔に比べてずいぶん現場に赤ちゃんや子どもを連れて来る人が増えたように感じます。以前は、誰かに何か言われたわけではありませんが、子どもを連れてくるなんてありえないというような雰囲気があり、私も何度か連れて行ったことがありますが、やはりそのような空気でした。誰かに子どもを預けるにしてもベビーシッター代は高いです。ただ、働いて仕事が忙しくなるほど誰かにお願いしなくてはならず、一時期はベビーシッター代のために働いている感じもありました」(AI)

「エンターテインメント業界に限らず、ジェンダーギャップに対する固定概念が強い大人たちの考え方を変えられると思いますか? 今の新しい世代や子どもたちにきちんと教育をすれば、将来的に大きく変わると感じますが、大人の考え方は変えられるものでしょうか」(立野リカ)

「変わることはできます。うちの社長が少しずつ変わろうと努力しています。どちらかというと昭和に生きたタイプの考えを持った人でしたが、最近ではみんなでそういうのはアウトですよと楽しみながら言い合えています」(AI)

今回のセッションに参加したメンバーの中で、自身のレズビアンというジェンダーを公表しているPELIには、同性婚も増えてきた今の社会はどのように映っているのだろうか?

「私がいる業界は、ファッションや音楽という、考え方が柔軟な人が多かったり、セクシャルマイノリティと呼ばれている人の比率が一般的な職業より多いので、生きにくさには気がついていないだけかもしれません。ただ、これは日本の中でもとても特殊な環境にいるのだとは自覚しています。そのため、職種や地域、カルチャーが異なる環境に身を置いていたら、これも一転してしまうのだと思います。

また、最近は『多様性』という言葉が一気に広がり、一過性のブームとしておしゃれやトレンドになりつつあることに危険性を感じます。『多様性』という言葉だけが独り歩きしてしまい、本来の意味合いと異なる方向まで進んで熱くなりすぎてしまった。『#多様性』の乱用は『#ファッション』とイコールだと感じますし、本当に困っている人たちの言葉が埋もれそうで危険に感じる。しかし実際にはそうではなく、人それぞれに違う生き方がある。カルチャーや宗教、家庭、年代など、それぞれが生きてきた背景によって信じるものが違うのは当たり前のこと。それを真っ向から否定したり、押し付け合うのではなく、1人でも傷つく人が減る方向に歩み寄りながらバランスを取りませんか? 」(PELI

「エディションで行う国際女性デーのイベントには、活躍する業界や生きてきた背景、ジェンダーもミックスした様々な人たちを集めています。それぞれに好きなことも生き方も違う。本来、それが当たり前なことでエディションにとってもそれがノーマル。そのような世界がスタンダードになるように、プライドや国際女性デーを取り上げているのです。

私はニューヨークで育ったので、このような環境が当たり前として生きてきましたが、日本ではそのような風潮がなかったので驚きました。それをきっかけに、私自身もその状況を変えたいと思い、3年前から『人権第一』『リスペクト』をテーマにメッセージを発信しています。最終的には、ジェンダーに関係なく人としてどうあるか。例えば、私が男として生きたかったとしたらそれが自分にとっての生き方だと思うように、一人ひとり意志を持った生き方が重要です。自分らしく自由に生きるために、私たちにできることはただひとつ『リスペクト』なのです」(白川麻美)

それぞれが生きてきた背景にとらわれず、性別や世代を超えて自由な選択によって私たちが自分らしく生きていくために、このトークセッションを起点に、一人ひとりの個性が豊かに育まれる未来を創造したい。

東京エディション虎ノ門
住所/東京都港区虎ノ門4丁目1−1
TEL/03-5422-1600
URL/www.editionhotels.com/ja-JP/tokyo-toranomon/
 

Photos: Yuka Shirohara, Reiko Hirose Text: Miyuki Kikuchi, Kiwa Tojo

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