2025年3月8日で、国際女性デー(IWD)は50周年を迎えた。社会の意識が変わりつつある今、それでも私たちの周りには、根深いジェンダーギャップや無意識のバイアスが残っている。この半世紀で女性が生きる社会はどのように変化し、どこへ向かうのか。アート、エンターテイメント、ビジネス、社会活動と、多様な分野で活躍する7名の女性たちを迎え、エディションのカルチャー&エンターテイメントディレクターを務める白川麻美とともに、それぞれの経験や様々な視点から捉えた女性の権利や立場、そしてこれからの未来について考える。
“ニュー・ジェネレーション・オブ・ラグジュアリー”をテーマに掲げるエディションは、誰しもが自分らしく自由に生きる権利を持てるようになることを願い、LGBTQ+など様々な支援やイベントを行っている。その一環として、女性として生きる権利や活躍の場を広げる機会を増やすためにも、国際女性デーを敬したトークセッションを2023年から開催している。そして、第三回目となる今年は第一弾を東京エディション銀座にて、第二弾を東京エディション虎ノ門にて開催。
第一弾は、国際協力NGOジョイセフ事務局次長の小野美智代を筆頭に、モデルであり女優や歌手として活躍するSumire、レディースモデルとして新たなスタートを切ったIvan、書道家の万美、アーティストでありイラストレーターのNARI(LITTLE FUNNY FACE)、ライフスタイルブランド「アマテラス」代表の佐藤マクニッシュ怜子、DJのHarunaら活躍の場や世代の異なる多彩なクリエイターやアーティストを招き、東京エディションのカルチャー&エンターテインメントディレクターの白川麻美と共に、それぞれの経験や考えをシェアしながら女性としての権利や生き方について意見を交わした。
変化する社会と、変わらない課題
この50年という歴史の中で、ジェンダー平等を目指した法整備や育休制度の見直しなどジェンダーロールの変化によって法律、教育、社会的な面で「女性の権利」は少しずつポジティブな変化を遂げてきた。その一方で、男女による賃金格差は世界平均で約20%とされ、管理職や政治分野での女性の割合の少なさなど様々な課題があげられ、「女性の権利」というものがどこまで実現されているのだろうかと考えさせられる。実際に、2024年にジュネーブに所在する国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、日本の男女の平等に関する課題について、婚姻後の夫婦同性が強制されている民法の規定の改正について、別姓を選択できるよう勧告を行った。
また、日本国内では都市部と地方でジェンダー意識にも大きな差があると小野美智代は言う。「都市部よりも地方都市の方が、男尊女卑の価値観が色濃く残っています。たとえば、震災の義援金やコロナ禍の給付金は“世帯主”にしか振り込まれなかったことで、多くの女性に届かなかった。それを当たり前だとする日本。世帯主=男性という前提がある限り、女性は経済的に自立しにくい構造になっています」。
50年という時を経て様々な変化、改善が見られる一方で、女性の権利はまだ確立されていないのだと痛感せざるを得ない。また、「日本は、出産や中絶で亡くなる女性が少なく、日本の女性は平均して世界で最も健康で長く生きる。でも、だからといって女性が自分の人生を自分で決めて、自分らしく生きられているか、と聞かれるとどうでしょうか。日本はまだ産むことがキャリアの弊害になっている女性は多く、あまり知られていませんが10代よりも40代の中絶数が多い現状がある。日本は中絶で命を落とすことはないので問題視されないですが、医療従事者が不足している国・地域や中絶が合法でない国では、自分自身で安全でない中絶を試みて亡くなっているのです。2分に1人の割合で、1日にすると約800人もの女性がこの問題で亡くなっている現実を、もっと多くの人に知ってほしい。アメリカがトランプ政権になった今、安全でない中絶が増えて、妊産婦死亡数も増えるのではと危惧しています」と話し、支援を続けている。
女性として自分であることの難しさ
女性として生きることの難しさは、働く環境や業界、立場によって形を変える。女性ということで賃金が低かったり、管理職に就けなかったり、色眼鏡で見られマスコットのように扱われたり、働く上でも様々な壁が生じる。アート、エンターテイメント、ビジネス、それぞれの分野で活躍する女性たちは、どのような壁を感じているのだろうか。
大学時代の22歳でブランドを立ち上げた佐藤マクニッシュ怜子は、若さと女性であるということが大きなハードルとなった。「『本当に話を聞いてくれているのか?』と疑問に思う場面も多く、ビジネスの相談をしていた男性経営者からは“別の目的”で食事に誘われることもあった。意見を発する女性は疎まれて、女性として求められるロールモデルがいまだに存在していることも感じます。でも、今は時代が変わりつつあることも感じています。メディアが女性の起業家を取り上げる機会が増え、女性たちが声を上げることで、ビジネスシーンの空気も変わり始めました」。
視覚だけで心に訴えかけることができるイラストを通して活動するNARIは、「絵は言葉よりも直接的にメッセージを伝えられるものだから、アート業界では作品の本質を見てもらえることが多く、これまで大きくジェンダーでの差を感じたことがほとんどありません。しかし、アパレル業界にいた頃は、性別によって変わる評価のされ方に違和感を持ったこともありました」と業界によって異なる体験をしてきた。
しかし、アートの世界でも「書道は、子どもの頃に習っているのは女性が多いのに、プロになると男性ばかりで、賞の審査員もほとんどが男性です。今もなお、受賞しても賞金が出ないどころか、賞をいただいたお礼として、師匠に30〜100万円ほどの金額を納めるという慣習が続いています。それが払えず辞めていく人も多い。現在はそこから距離を置き、新しい形で書道を発信しています」と万美は語る。
芸能界では、女性軽視に対する業界のタブーについてメディアが取り上げるようになるなど、世間の風向きが変わったと感じる場面も見られたが、一方で、いまだに男性社会が根強いのが現状だ。
「15歳の時からこの業界にいると、女性の立場がどれだけ弱いものか分かってきます。監督に意見を言えば『気難しい女』というレッテルを貼られるなど、男性が多い環境下では、女性が意見を持つだけで敬遠される空気がある。また、体型やキャラクターについて求められることも多く、人からの評価や判断が基準にされているようで、自分自身が幸せでいることを求めるだけでも簡単ではありません」とSumire。
世間から求められる理想像を演じてきたIvanは、今ある本来の自分らしさを手に入れたきっかけについて「私は女性として生きているけど、世間では“元男性”という目で見られることが多い。エンタメ業界では、おねえキャラとして求められることが多く、自分をピエロのように演じなければならないことがあった。でも、同じような経験を持つ誰かの憧れの女性として自信を持って言ってもらえるようになるためにも、私は“女性として生きること”をもっと自由に発信したい。だから、今回この場にLGBTG+として参加させてもらったことがとても光栄で大きな意義を感じます」と語る。
未来を変えるために私たちにできること
例えば、2017年に都内の外資系ラグジュアリーホテルでは初となる日本人女性の総支配人誕生がニュースとして取り上げられるほど、女性の管理職が少ないということが当たり前として捉えられていたり、日本ではネガティブなワードやキャッチコピーがYouTubeや広告のクリック率に繋がりお金になるという傾向があるため、ポジティブな考えや思想がシェアされにくい。多様性が求められる一方で、そのような当たり前が日常になってしまっている現状がある。その現実を変えるためには、日常にあるバイアスへの気づきがジェンダーに限らず社会を変える第一歩になるのではないか。また、その気づきをシェアし発信することで多くの人に届くはずだ。
エディションでは、プライド月間を祝してレインボーケーキを提供したり、LGBTQ+など多様なバックグランドを持つDJを招いて様々なイベントを行っている。実際にその場に立つDJの一人であるHarunaは、「音楽を通じて多様な価値観を受け入れる場を作ることができたら嬉しいです。そのような場で自分も成長しながら、次の世代に何かを伝えられる存在になれたら嬉しい」と話す。
自分らしさと多様性を貫きながら、ホテル業界に革新をもたらしたエディション創設者のイアン・シュレーガーは、70年代から80年代のニューヨークで伝説的なナイトクラブ「Studio 54」を作り上げた人物だ。そこはセレブやアーティスト、LGBTQ+コミュニティなど、あらゆる人々が自由に交流し、お金や権力では買えない多様性が生きる空間だった。 そのアイデンティティを引き継ぐエディションは、地域ごとの個性を反映しながら 「型にはまらない体験」を創造し、多様性と自己表現を尊重する場を提供する。その哲学は今もホテル業界に新たなスタンダードを生み出し続けている。
「エディションは自分らしく自由に生きることを何よりも大切にしています。女性であることを“特別なこと”として捉えなくてもいい社会を作ること。それが私たちの目指すべき未来だと思います。今、私たちがこうして声を上げることが、次の世代の生きやすさにつながるはずです」と白川麻美。
国際女性デーは、女性だけのためのものではない。ジェンダーの枠を超えて、一人ひとりが「自分らしく生きる」ための権利を見つめ直す日でもある。それぞれの人生にポジティブな変化をもたらすことを願って。
東京エディション銀座
住所/東京都中央区銀座2丁目8−13
TEL/03-6228-7400
URL/www.editionhotels.com/ja-JP/tokyo-ginza/
Photos: Yuka Shirohara, Reiko Hirose Text: Kiwa Tojo