SCAI THE BATHHOUSEにて、森万里子のAR作品が公開
考古学から最新の物理学、仏教の唯識論などの幅広いリサーチに基づいた壮大なインスタレーションなどで、国際的に注目を集め続ける森万里子。SCAI THE BATHHOUSE（東京・谷中）にて4年ぶりとなる個展「古事記」が開催となった。
考古学から最新の物理学、あるいは仏教の唯識論まで、幅広いリサーチを通じて私たちを取り巻く見えない世界に形を与えて来た森万里子。90年代半ばより活動を開始し国際的なアートシーンで注目を集めた森は、現代美術家としての実践をより精神的な領域へと移行し、我々の生が到達しうる新たな次元の可能性へとその関心を注いでいる。その驚くようなスケール感の作品は、『Numero TOKYO』2023年6月号「“世界の果て”のアート探訪」企画でも紹介した。
（参考）森万里子『Ring: One With Nature』
本展「古事記」では、神代の創世神話から着想を得た作品群によるインスタレーション、また2024年6月16日からベニスのパラッツォ・コルネールにて公開の新プロジェクトに関する展示が発表される。
メインフロアには、形もサイズもさまざまな敷石に取り囲まれたアクリルの立体作品が鎮座。日本各地の磐座（神をおろす依り代としての岩）を巡るフィールドリサーチに基づき制作された『Kojiki Installation』（2019-2024）は、4年前に同所で開催した個展「Central」から続く森の思索を体現しているという。沖ノ島に今も残る古墳時代の祭祀跡から着想されたインスタレーション構成で、鑑賞者はホロレンズと呼ばれる装置を用いて、さらなる視覚体験に没入することができる。
大きな円盤状のフォト・ペインティング『Unity』（2023）に描写されているのは、本展のメインテーマである天地開闢の神話にインスピレーションを得た形而上学的イメージだ。三つの連なる円は、別天神（古事記の冒頭で、現れてすぐにいなくなる創世の神々）と結びついた見えない世界、現実世界、そして森がイメージする心を中心とした新しい別の世界を意味するという。イザナミ、イザナギの国生み神話に着想した、高さ180cmの光のモニュメント『Onogoro Stone』（2024）は、見る角度によってさまざまに変化する色彩のスペクトルを生み、光と空間を操るミニマリストとしての作家の側面を堪能することができる。
上がり框に見える『Peace Crystal』（2016-2024）は、人間の「霊性」を象徴する立体作品のイメージ画を中心に、それにまつわる考察、および彼女の内なる光の体験を左右にかな書で綴った巻物だ。高さ約167.5cmという現代人の平均身長を模った本作は、直立歩行の姿勢が人に知性と霊性をもたらしたという森の見解に基づいて制作され、人類発祥の地とされるアフリカ大陸、エチオピアへ寄贈され、洞窟の中の恒久設置を最終目標としているという。
ホロレンズで鑑賞者が目にする超越的な光のビジョンは、森の仏教哲学的追求が示唆する道の先でもある。深淵な霊性の探求から、未来の祭祀遺跡を思わせるような空間をぜひ体験して。
森万里子「古事記」
会期／2024年6月8日（土）〜 7月25日（土）
会場／SCAI THE BATHHOUSE
住所／東京都台東区谷中6-1-23
時間／12 : 00〜18 : 00
休日／日・月曜、祝日
URL／www.scaithebathhouse.com/ja/
森万里子 Peace Crystal
会期／2024年6月16日（日）〜10月7日（月）
時間／木〜月曜11:00〜19:00
会場／パラッツォ・コルネール / プライヴェート・ガーデン（Private Garden Palazzo Corner della Ca’ Granda, Venice）
住所／S. Marco, 3978, 30124, Venice, Italy
Text：Akane Naniwa
