アーティストによる“世界の教室”を内田紅甘がレポート@森美術館
東京・六本木の森美術館にて、開館20周年を記念する展覧会「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」が開催中。学校で習う教科を現代アートの入口とし、見たことのない、知らなかった世界に多様な観点から出会う試みだ。54組のアーティストによる学びの場「世界の教室」を俳優で文筆家の内田紅甘がレポート。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年7・8月合併号掲載)
とわれる学校
学校で習う教科に紐付けて作品が展示されている、でっかい教室みたいな空間。あえて科目を振り分けられることで、たとえば国語として、算数として、芸術作品を見てみるのがおもしろい。私が気になったのは、体育に区分けされていたクララ・リデンの映像作品。プロバレエ団の練習に素人の作家が参加して、その不出来な一挙一動で、切れる息で、襟ぐりに広がる汗染みで、彼女の存在それ自体で、鏡映しのごとく舞うバレリーナたちの調和を乱す。そうしてひとつの異物によって、バレエという完成されたものがありえない角度でひらく足先へ、浮き出る首の胸鎖乳突筋へ、ターンする緊迫した表情へ、張り出した胸の浅い呼吸へと分解されていく。断片になったそれらはただ奇妙で、もはやうつくしさすら削がれている。
この作品の作家の姿に、私は高校生のときの自分を重ねた。あの頃、まるで私のしらない約束が、私以外の全員のもとで結ばれているみたいに、まわりに馴染むことができなかった。作家の踊る空間において、その約束とは“バレエの型”である。それなら学校の中で結ばれていたものは、いったい何だったのだろう、などと考えながらあらためて、ひとは自分の持つ情報からしかものを見られないのだと痛感した。ただ知識を受け取るだけの授業と違って、現代アートは学びを問う。否定も肯定もしない、ただ疑問を抱かせるばかりの作品群を通して見たのは、自分自身そのものだったような気がする。
※クララ・リデンの作品上映は、7月4日(火)まで。会期は9月24日(日)まで
※掲載情報は6月22日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。
森美術館開館20周年記念展
ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会
会期/2023年4月19日(水)〜9月24日(日)
会場/森美術館
住所/東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53階
料金/平日:一般 2000円、大高生 1400円、4歳〜中学生 800円、土・日曜日、祝日:一般 2200円、大高生 1500円、4歳〜中学生 900円
時間/10:00~22:00 ※8月15日(火)を除く火曜日は17:00まで
休館/会期中無休
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/www.mori.art.museum/
Text:Guama Uchida Edit:Sayaka Ito
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