草間彌生のオリジナル作品も登場する、ヴーヴ・クリコの世界巡回企画展
世界的に有名なシャンパーニュメゾンの「ヴーヴ・クリコ」。この名は27歳で義父から事業を引き継ぎ、近代における最初のビジネスウーマンの一人として18〜19世紀に活躍したマダム・クリコの名前に由来する。そんなシャンパーニュ地方の「ラ・グランダム(偉大なる女性)」と称えられたマダム・クリコの偉業に敬意を表し「ヴーヴ・クリコ」が築き上げてきたソレール カルチャーを表現する世界巡回企画展『Veuve Clicquot Solaire Culture (ヴーヴ・クリコ ソレール カルチャー) ~太陽のように輝く250年の軌跡~』が、2022年6月16日(木)〜7月10日(日)の25日間にわたり明治神宮前駅直結の「jing」にて世界4ヵ国に先駆けて初開催される。
10名の女性アーティストが「ヴーヴ・クリコ」の伝統を現代的に再解釈した作品を展示
「ソレール=太陽のように輝くブランド」として、その象徴的な“イエロー″カラーを通し、人々に「夢」「希望」「喜び」に溢れた美しいライフスタイルと体験を届けてきた「ヴーヴ・クリコ」。本企画展は、未来を切り拓く勇気と個性、そして革新的精神を持ったマダム・クリコの偉業に敬意を表し、キュレーターのカミーユ・モリノー氏、空間デザイナーのコンスタンス・ギセ氏の指揮のもと、世界各国から集まった10名の女性アーティストたちが「ヴーヴ・クリコ」の伝統を現代的に再解釈した作品を展示する。
さらに歴史的アーカイブと、ブランドのアイコニックなオブジェの数々、世界中から集められた絵画やイラストレーション「ヴーヴ・クリコ」を彩る音楽や文学、ポスターやメニュー等のバラエティ豊かな作品も展示。「ヴーヴ・クリコ」の文化的軌跡を、過去から現在そして未来に思いを馳せて辿る内容となっている。
草間彌生ら4名のアーティスト、マダム・クリコの肖像画を制作
マダム・クリコが生きた18〜19世紀のフランスは、女性がビジネスを牽引するにはまだ困難な時代。そんな中彼女は驚くべき洞察力と審美眼により「ヴーヴ・クリコ」メゾンのみならず、シャンパーニュ地方のワイン生産地域全体の水準を引き上げたパイオニアとして、その卓越した功績がいまなお讃えられている。
今回の企画展ではまず、世界で活躍する4名のアーティストが、マダム・クリコの人物像、直筆の手紙や革新的精神、ビジョンをポートレートで表現。現代アートの巨匠、草間彌生が自身のシンボルである水玉模様でマダム・クリコのオリジナルの肖像画に新しい命を吹き込んだ作品(※2006年発表作品)のほか、今回新たにアーティストのイネス・ロンジュヴィアル(仏)、シシ・フィリップス(英)、ロージー・マクギネス(英)らがそれぞれマダム・クリコの肖像画を描き下ろした。
ブドウ畑が見える窓際の机で手紙を綴る姿を描いた、シシ・フィリップス
ロンドンを拠点に独学による作品を発表するシシ・フィリップス(Cece Philips)は、モチーフに歴史的な文献や写真を取り上げ、描くキャラクターに新たなインスピレーションを与える作品が特徴のアーティストだ。1996年生まれの彼女にとって、世界巡回展に参加するのは本企画展が初めてのことで、日本来日も初めてとなる。
今回フィリップスは、マダム・クリコの意志の強さと粘り強さ、それまでの時代とは異なる型破りな女性像を表現しようと、27歳という若さで未亡人になり、会社の経営を引き継いだ時の彼女を描いた。着目したのは「一日一日を着実に生き、希望を失なわないようにしましょう」というマダムが友人へ手紙を宛てたというエピソード。このほかにもフィリップスは「去年の収穫は非常に大変だった。いろいろ予想外のことが起きても一生懸命やっていれば良い結果が出る」といったマダム・クリコの手紙も読み、現代の女性も共感するような彼女のメッセージにインスピレーションを受けたという。
絵画の中の女性は「ヴーヴ・クリコ」を象徴するイエローのスカーフを纏い、遠くにブドウ畑が見える窓際の机で手紙を綴り、物事の始まりや希望を表すかのような朝陽に照らされている。このポーズはマダム・クリコと同世代のマリー=ドニーズ・ヴィリエの肖像画に想を得た。
ポケット付の黒いドレス姿で、強さと行動力を表現したロージー・マクギネス
同じくマダム・クリコの肖像画を描き下ろしたロージー・マクギネス(Rosie McGuinness)は、ファッションデザインの世界で研鑽と経験を積み、ロンドンを拠点にファッションイラストと現代アートを融合させた作品世界を確立させた人物だ。以前も「ヴーヴ・クリコ」にまつわる作品制作を行ったことがあり、再びチャンスをもらえて嬉しいと話す。
マクギネスは、先見の明がありプロアクティブ、強い信念を持つマダム・クリコの性格を、肖像画で表した。ポートレートは彼女のダイナミックさを反映するかのように、躍動感と彫刻を思わせるような力強い筆致が印象的だ。
注目したいのが、当時のネオクラッシック・スタイルの服を着用している女性のドレスにポケットがついていること。実用的なポケットを描くことで、男性的なビジネスの世界にいるアクティブな女性を象徴している。マダム・クリコが若い年齢の頃どのような姿であったのか、またどのような人物であったのかを示す記録はない。そのためこの肖像画はマダム・クリコへの敬意を払いつつ、マクギネスなりに解釈した姿だ。また、顔を見せたり、特定の表情を描かないことで、鑑賞者それぞれにマダム・クリコがどんな人であったのか想像する余地を与えた。
マダム・クリコによる3つの発明を、3名のクリエイターが表現
さらに巡回展では、マダム・クリコが生み出した3つの象徴的な発明を、3名のクリエーターが表現した作品も展示される。
日本の漫画家・安野モヨコはヴィンテージ シャンパーニュの発明を、カラフルな色彩とユーモラスな画風で描くイラストレーターのペネロープ・バジュー(仏)はブレンド法によるロゼ
シャンパーニュの発明を、そして個性的なグラフィックスタイルが特徴のイラストレーターのオリンピア・ザニョーリ(伊)は、品質を保ちながら澱を取り除くことを可能にした動瓶台の発明を描きおろした。
ブレンド法によるロゼ シャンパーニュの発明を描いたペネロープ・バジュー
マダム・クリコによるロゼ シャンパーニュの発明を表現したペネロープ・バジュー(Pénélope Bagieu)は、2007年に発表したウェブコミック「Ma vie est tout à fait fascinante(私の人生はとても魅力的)」で一躍有名になったイラストレーター。ユーモアあふれる内容として瞬く間に注目を集め、グラフィックノベルとしても出版された。
今回の世界巡回企画展の依頼を受けバジューは「マダム・クリコのような歴史的に重要な人物をテーマに、女性アーティストだけで制作を行うことにワクワクし、関われることに嬉しく感じた」と話す。コミック作家である彼女は今回、テーマとして与えられたブレンド法によるロゼ シャンパーニュの発明をプロセスとして描くのではなく、自分なりのアートとして表すことを選んだ。
今回オリジナルのデッサンのため、バジューは背景をロゼ シャンパーニュの進化を示すインクの染み、自然な色の組み合わせで仕上げた。左側はシャンパーニュにニワトコの実からとった染料で着色することで仕上げた従来のロゼ シャンパーニュ、右側はシャンパーニュにピノ・ノワールの赤ワインや果実を加えることで、色だけでなく味わいも異なるロゼ シャンパーニュに仕上げるというマダム・クリコによる革命的な製法を示し、ロゼ シャンパーニュの変遷を一つの作品で表した。
バジューはマダム・クリコの向こう見ずな性格や大胆さに驚愕したと同時に、彼女の創造性、クリエイティビティに影響を受け、作品を制作。「当時はクレイジーだと言われたかもしれないマダム・クリコによるロゼ シャンパーニュの製法ですが、いまではシャンパンを作る上での規定になっている。クリエイティビティの後ろに決意と意志の強さがあったからこそ、彼女は発明をなし得たのだと思います」とバジューは解釈し、そのスピリットを作品へと反映させた。
「ソレール」を五感で体験できる、3名のアーティストによるインスタレーションも登場
また今回の展示では「ヴーヴ・クリコ」の「ソレール=太陽のように輝くブランド」を、五感で体験できるインスタレーションも登場。「現代美術のグランダム」とも言える、3名の国際的なアーティストが、希望に満ちた楽観的精神そして太陽のさまざまな側面を想起させるために、あらゆる素材とフォルムを用いて作品を制作した。
シェイラ・ヒックス(米)は、さまざまな黄色が織り込まれた天然リネンを天井から吊り下げ、まるで太陽の光が部屋に差し込む際に、太陽が空間の形を変えるかのような、水平面と垂直面両方の動きを持つ作品を制作。モニーク・フリードマン氏(仏)は、ゆるく織られた黄色のコットンと竹で組まれたパビリオンの中に鑑賞者が入り込める体験型インスタレーションを、タシタ・ディーン氏(英)は、同じ1本のフィルムの上で6日間にわたる日の出を並べて見ることができるショートムービーを展示する。
体験型インスタレーションを制作したモニーク・フリードマン
体験型インスタレーションを制作したモニーク・フリードマン(Monique Frydman)は、絵画制作を中心に色と光の表現を顔料、カンヴァス、パステル、紐、紙などの素材を用いて追求してきた。
今回の巡回展のためにフリードマンは、未発表のインスタレーション「In the tangerine space Euphoria of colors(タンジェリンオレンジの空間一色の幸福感)」を企画。これは竹で組まれたパビリオンで、鑑賞者は中に入り、絵画を身体的精神的に体験できるインスタレーションとなっている。ゆるく織られたコットンの布を天然顔料で染めたターラタンは、布を照らす自然光によって黄色い光を放つだけでなく、振動や風によってそのニュアンスにバリエーションをもたらす。このような手法の作品は、2011〜2012年に「金沢21世紀美術館」で行われた彼女の個展でもエキジビションされた。
フリードマンにとって、作品の中で規則的に使用する黄色は、見る者を包み込む色調であり、自然の四季や光の変化に土台をおく色だ。フリードマンと黄色との関係は、ボナールの作品、とくに遺作「ミモザのアトリエ」の黄色、あるいはゴッホの「ひまわり」の連作の黄色のように美術の歴史に結びついている。
フリードマンはマダム・クリコについて「もし知り合っていたらとても優しい人というわけではなかったかもしれないが、強い決意と忍耐力、自分の作品に対峙する時に必要な高い資質を持っていた女性であったと思う。そういった意味で私はすごく尊敬している」と敬意を示す。今回さまざまな女性アーティストと一緒に展示ができることにも可能性を感じたという。
「JULIA」naoシェフ監修のレストランも併設
企画展に合わせ、ジャパニーズフレンチレストランとして注目を集める「JULIA(ジュリア)のnaoシェフ監修のレストランもオープン。「ヴーヴ・クリコ」イエローラベルやローズラベル等のバイ・ザ・グラスとともに「ヴーヴ・クリコ」のシャンパーニュに合わせたフードを考案した。
注目は1964年「ニューヨーカー」に掲載されたハンバーガーの広告《オペラの後》からインスピレーションを受けたスライダー。鴨とビーツと苺のタルタル、桃とチーズのデザート、そしてフレッシュなアスパラガスにキャビアのアクセントを加えた料理も揃うほか「ヴーヴ・クリコ」4種とそれぞれに合わせたフードを楽しめるコースも登場する。
このほか「ヴーヴ・クリコ」の創業250周年を記念し発売される「Veuve Clicquot ICONS」コレクションなどが揃うブティックも併設。
マダム・クリコという人物について多角的に、そして「ヴーヴ・クリコ」のソレール カルチャーを五感で堪能することができる「Veuve Clicquot Solaire Culture」。今後アメリカ、オーストラリア、南アフリカ共和国、イギリスも巡回予定となっている。ここまで錚々たる女性アーティストの作品を一度に、しかも無料で鑑賞できる機会はそうないだろう。
『Veuve Clicquot Solaire Culture (ヴーヴ・クリコ ソレール カルチャー) ~太陽のように輝く250年の軌跡~』
会期/6月16日(木)〜7月10日(日)
会場/東京都渋谷区神宮前6丁目35−6 jing(ジング)
営業時間/11:00〜21:00(最終入場時間:20:00、レストラン11:00〜21:00)
入場料/無料(入場は20歳以上可能)
URL/https://solaireculture.veuveclicquot.com/ja-jp/exhibition
Text: Riho Nakamori