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古川日出男が目撃した「森山大道の東京 ongoing」

『記録』39号より 2018 ©Daido Moriyama Photo Foundation
『記録』39号より 2018 ©Daido Moriyama Photo Foundation

写真家、森山大道が2019年に写真界のノーベル賞とも言われる「ハッセルブラッド国際写真賞」受賞後、国内の美術館において初めての大規模個展を開催中。作家の古川日出男がレポートする。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年9月号掲載)

『Pretty Woman』より 2017年 ©Daido Moriyama Photo Foundation
『Pretty Woman』より 2017年 ©Daido Moriyama Photo Foundation

アクセルをブレーキに換える東京

森山大道の写真においては被写体が「者」であるか「物」であるかは問われない。「者」には人間の他に犬、猫、鴉、蛇などが含まれる。すなわち生命がある。「物」には生命がない。が、森山がマネキンや建物を撮る時に、そこには生命がないとは言い切れない、意味不明な不穏さがたち昇る。(そして当然ながら、生命があるはずの「者」の撮影には、わざととしか説明しようのない通俗性、不健康さが前面に出て、それは生命を引き算する)

『東京ブギウギ』より  2018年 ©Daido Moriyama Photo Foundation
『東京ブギウギ』より  2018年 ©Daido Moriyama Photo Foundation

展示の会場にてほぼ最初に鑑賞者を迎えるのは唇、唇、唇、唇……で、それらは紅い。または黒い。この2種類は「会場内の展示がカラーのクラスターである、およびモノクロのクラスターである」との様相を暗示して、われわれは展示空間の奇妙な分裂を「ああ、そういうもんなんじゃない?」と平然と受けとめることになる、はずだ。

『Pretty Woman』より 2017年 ©Daido Moriyama Photo Foundation
『Pretty Woman』より 2017年 ©Daido Moriyama Photo Foundation

後ろ姿(の写真)が多い。それはカメラマン=森山大道の「視線」をそのまま追跡、追体験しているのだということを意味している。写真は普通は「見るもの」だが、ここでは写真を撮る人間に「なるもの」として機能もする。被写体が森山大道じしんである写真に出会う時に(しかしながら彼は「鏡像」の自分を撮るだけである)、鑑賞者が何を感じるか? たぶん、自分が真っ二つに裂かれる体感だろう。おれ/わたしは彼ではなかった……と。

この東京は進行中である。が、この東京にはアクセルがない。澱みながら前進する? 驚異的だ。

『東京ブギウギ』より 2018 年  ©Daido Moriyama Photo Foundation
『東京ブギウギ』より 2018 年  ©Daido Moriyama Photo Foundation

『記録 35 号』より 2017 年 ©Daido Moriyama Photo Foundation
『記録 35 号』より 2017 年 ©Daido Moriyama Photo Foundation

「森山大道の東京 ongoing」

会期/開催中〜2020年9月22日(火・祝)
会場/東京都写真美術館
住所/東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話番号/03-3280-0099
開館時間/10:00~18:00 ※木・金曜の夜間開館は休止
※入館は閉館時間の30分前まで
休館日/毎週月曜日(月曜日が祝日・振替休日の場合は開館、翌平日休館。9月21日は開館)
URL/topmuseum.jp

※掲載情報は8月24日時点のものです。
開館日時など最新情報は公式サイトをチェックしてください。

Text:Hideo Furukawa Edit:Sayaka Ito

Profile

古川日出男Hideo Furukawa 作家。1966年生まれ。『アラビアの夜の種族』(日本推理作家協会賞・日本SF大賞)、『女たち三百人の裏切りの書』(野間文芸新人賞・読売文学賞)ほか、著書多数。最新作は900ページ近い分量のギガノベル『おおきな森』。furukawahideo.com

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