「意志を持って消滅し、記憶に残る」クリスチャン・ボルタンスキーのアート
日本における過去最大規模の回顧展を国立新美術館で開催中のアーティスト、クリスチャン・ボルタンスキーが、エスパス ルイ・ヴィトン東京で2つの映像作品を公開している。
「アニミタス(ささやきの森)」と「アニミタス(死せる母たち)」は、ボルタンスキーの近年における最も野心的なプロジェクトのひとつ。アニミタスは、死者を祀る路傍の小さな祭壇へのオマージュとして人里離れた広大な野外に設置されたインスタレーションのシリーズで、ボルタンスキーが生まれた日(1944年9月6日)の夜の星座の配列をなぞるように細い棒を大地に突き刺し、その一本一本の先で日本の風鈴が揺れているというもの。今回エスパス ルイ・ヴィトン東京で展示している作品のほかに、チリのアタカマ砂漠、ケベックのオルレアン島でもこのインスタレーションは設置されており、これら全4作品のうち日本の豊島で設置された「アニミタス(ささやきの森)」以外は風や嵐で破壊されたのだという。
今回の展示に際しボルタンスキーは「アニミタスは私が10年前から行っているアートワークの一部で、意志を持って消えるもの。たどり着くのが大変な場所に置き去りにされた(豊島以外の3つの)作品は時間の経過とともに消えてなくなりましたが、そこにあったという記憶は残っています。私は(文化人類学者の)クロード・レヴィ=ストロースに影響を受けていて、オブジェではなく『神話』をつくりたいのです」と述べている。
「人間は体験からしか語れないので、鏡を見るように自分のことを見出せるような作品、つまり鑑賞者に『自分のことだ』と思ってもらえる作品を世に出すことがアーティストの役割だと思っています。アーティストは顔のない人間です。私も以前はよりフィクションに意識が向いていましたが、現在はずいぶんと客観的になったと思います。自分の人生で作品の刷新を実感したのは、大人になったとき、親を亡くしたとき、年老いたときです」と続けたボルタンスキー。彼の厳格なまでに簡素なインスタレーションは、誰もが理解できるように練られた普遍的な表現によって、人間の存在の心もとなさ、忘却、喪失、記憶の脆さや時の経過について語りかける。
エスパス ルイ・ヴィトン東京で公開中の「アニミタス(ささやきの森)」と「アニミタス(死せる母たち)」のフィルムは、それぞれ日の出から日没前をワンカットで連続撮影した10時間超の作品で、草花の絨毯と組み合わせて上映されている。ボルタンスキーが「星々の音楽と漂う魂の声」と称する風鈴の音色、わらの香り、草花、そして大きな窓の向こうに広がる東京の空、そのすべてが時の流れとともに姿を変えていく。幸いにも会期が長いので、何度でも訪れて、作品とともに時の経過に身をゆだねてみてはいかがだろうか。
CHRISTIAN BOLTANSKI ANIMITAS Ⅱ
会場/エスパス ルイ・ヴィトン東京(渋谷区神宮前5-7-5ルイ・ヴィトン表参道ビル7階)
会期/開催中〜2019年11月17日(日)
開館時間/12:00−20:00
Tel/0120-00-854
休館日/ルイ・ヴィトン 表参道店に準ずる
入場無料
www.espacelouisvuittontokyo.com
Text: Chiho Inoue