いわさきちひろ×大巻伸嗣:2人の視点で生命をみつめる
大規模なインスタレーション作品で知られる大巻伸嗣が、いわさきちひろの自宅跡地に建てられた美術館で、ちひろののこした作品と自分自身の作品の接点を探り、その二つを向き合わせる。いわさきちひろ生誕100年「Life」展「まなざしのゆくえ 大巻伸嗣」がもたらすものは、大巻の目をとおしてちひろの世界を観るというスリリングな体験である。
大巻が展示にセレクトしたちひろの絵があり、そこに呼応する大巻の作品がある、というのがおもな構成だ。これが同時代作家の2人展ではなく、時代やジャンルや性別を越えた2人展だからこそ、あらたな視点が開かれる。多くの人がこれまで、絵本などの複製藝術としてちひろの作品に出逢ってきた体験をもつはずだが、美術館の壁にかけれらた原画とむきあうことは、ちひろ作品と出逢い直しになるだろう。シクラメン、ダリアなど花の絵がとりわけ印象にのこった。花も子どももどちらもが、すぎゆく時間というものを象徴する対象ではないだろうか。瞬間をめいっぱい生きてどんどん変わっていく、まさに生命。いまも私たちのくらしのなかでなじみの深いこれらの花をモチーフにしたちひろの絵にふれて、ちいさな水彩画にこんな強さがあるのか、とあらためて思う。
大巻伸嗣 Echoes-Crystallization -ひかりの風景 ちの記憶- 2018年 (c)Shinji Ohmaki Studio 撮影:椎木静寧
2人展という舞台をかりて、水彩や線描といった意外な側面を、大巻も披露している。展示空間の一角にちひろのアトリエがそのまま再現されているこの美術館のことを大巻は「ちひろさんのアトリエが空間のおへそとなって強く本人の存在を主張」する特別な場である、と語っている。たしかに、すべてがこのアトリエ空間にすいつけられそうな、ふしぎな磁場である。ひとりの女性が生きたその場所、生活の制約のなかからもさまざまな表現が生まれでた場所。その視点が強烈なこの空間でおこなわれるものだからこそ、7組の作家がいわさきちひろとコラボレーションをしていくシリーズ最後の展覧会、長島有里枝「作家で、母で つくる そだてる」がどんな展開をみせるのか、とても楽しみになってきた。
いわさきちひろ 月を見る少年 1970年
いわさきちひろ生誕100年「Life」展「まなざしのゆくえ 大巻伸嗣」
会期/2018年3月1日(木)〜5月12日(土)まで
会場/ちひろ美術館・東京
住所/東京都練馬区下石神井4-7-2
休館日/月(祝休日は開館、翌平日休館 ※4/30、5/7は開館)
TEL/03-3995-0612
URL/https://100.chihiro.jp/
Text:Nakako Hayashi