チリから日本へ。銀座メゾンエルメス『クローゼットとマットレス』展 | Numero TOKYO - Part 4
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チリから日本へ。銀座メゾンエルメス『クローゼットとマットレス』展

スミルハン_7
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“脆弱な建築”シリーズより、『Fragile Construction n°2』(1994年) © Smiljan Radic
クローゼットとマットレスをめぐる、建築家自身の静かな言葉。 しかし──そのさらに裏側には、彼らの祖国チリと日本をつなぐ、ある記憶の連環があるのではないか? そう感じたのには、わけがある。クローゼットもマットレスも、本来は人目を忍ぶかのように、家の中にこそあるべき極めて私的な存在だ。にも関わらず、そうしたものが抗いがたく公共の場に露出してしまったときの、不穏にしてもの悲しい光景を、我々は確かに知っている。 3.11、東日本大震災……。   もしや、これは震災後の日本に対する、何らかのメタファーではあるまいか? そんな個人的な問いに対する彼らの答えにこそ、遠く海を隔てた国同士をつなぐ記憶のシンクロニシティとも呼ぶべき、ささやかな秘密が詰まっていた。
 
スミルハン_p4-2
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第12回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展への出展作品『魚に隠れた少年』(2010年) © Smiljan Radic   マルセラ・コレア: 「私たちの国もまた、大きな地震を経験しています。2010年のチリ地震です。 じつは、その年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展で発表した作品『魚に隠れた少年』は、あの大地震を受けて制作したものでした。 そして……あのとき、政府が最初に人々へ支給したのがマットレスでした。つまりそれは、体を休める場所であると同時に、災害から人を守ってくれるものでもあるのです」   スミルハン・ラディック: 「もちろん、地震を経験した国同士とはいえ、それで日本の方々の心情を思い計ることはできません。 じつはこの展示に先駆けて、妹島和世さんと共同で建築事務所SANAAを運営する西沢立衛さんに師事し、いまは私たちの助手を務める日本人スタッフに、作品が日本の人たちに与える影響についても相談しました。しかし、この展示をどう受け取るか、それは見る側によってさまざまでいいと思うのです。 ただ、思いがけず地震という共通の体験が仲立ちになって、海を隔てた記憶を結び付けたということ、これはとても興味深いことだと思います」   公共という最大公約数の目的のために、環境を改変してそそり立つ“強い建築”。それとは逆に、極めて私的な想いに発して生み出される、不器用でセルフビルドな“か弱き建築”たち。 人々のミクロな営みとしての記憶は、どちらにより深く刻まれていくのだろう。 考えるな、感じろ。建築するな、記憶に委ねろ……。 それは、重厚長大な建築行為への内省なのか。大海原の水面下を行き交い、その両端にて顔を現す波動のように、共鳴し合うパーソナルな記憶を集めていま/ここへと現れた、密やかにして心優しき建築の試みが、そこにはあった。   『クローゼットとマットレス』スミルハン・ラディック+マルセラ・コレア展 期間/9月4日(水)〜11月30日(土) 場所/銀座メゾンエルメス フォーラム 東京都中央区銀座5-4-1 メゾンエルメス8階   information TEL/03-3569-3300 HP/www.art-it.asia/maisonhermes  

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深沢慶太(ふかさわ・けいた)   フリー編集者/ライター/『Numéro TOKYO』コントリビューティング・エディター。『STUDIO VOICE』編集部を経てフリーに。『Numéro TOKYO』創刊より編集に参加。雑誌や書籍、Webマガジンなどの編集・執筆、企業企画のコピーライティングやブランディングにも携わる。編集を手がけた書籍に、田名網敬一、篠原有司男ほかアーティストの作品集や、編集者9人のインタビュー集『記憶に残るブック&マガジン』(BNN新社)など。
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