チリから日本へ。銀座メゾンエルメス『クローゼットとマットレス』展
第12回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展への出展作品『魚に隠れた少年』(2010年)
© Smiljan Radic
マルセラ・コレア:
「私たちの国もまた、大きな地震を経験しています。2010年のチリ地震です。
じつは、その年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展で発表した作品『魚に隠れた少年』は、あの大地震を受けて制作したものでした。
そして……あのとき、政府が最初に人々へ支給したのがマットレスでした。つまりそれは、体を休める場所であると同時に、災害から人を守ってくれるものでもあるのです」
スミルハン・ラディック:
「もちろん、地震を経験した国同士とはいえ、それで日本の方々の心情を思い計ることはできません。
じつはこの展示に先駆けて、妹島和世さんと共同で建築事務所SANAAを運営する西沢立衛さんに師事し、いまは私たちの助手を務める日本人スタッフに、作品が日本の人たちに与える影響についても相談しました。しかし、この展示をどう受け取るか、それは見る側によってさまざまでいいと思うのです。
ただ、思いがけず地震という共通の体験が仲立ちになって、海を隔てた記憶を結び付けたということ、これはとても興味深いことだと思います」
公共という最大公約数の目的のために、環境を改変してそそり立つ“強い建築”。それとは逆に、極めて私的な想いに発して生み出される、不器用でセルフビルドな“か弱き建築”たち。
人々のミクロな営みとしての記憶は、どちらにより深く刻まれていくのだろう。
考えるな、感じろ。建築するな、記憶に委ねろ……。
それは、重厚長大な建築行為への内省なのか。大海原の水面下を行き交い、その両端にて顔を現す波動のように、共鳴し合うパーソナルな記憶を集めていま/ここへと現れた、密やかにして心優しき建築の試みが、そこにはあった。
『クローゼットとマットレス』スミルハン・ラディック+マルセラ・コレア展
期間/9月4日(水)〜11月30日(土)
場所/銀座メゾンエルメス フォーラム 東京都中央区銀座5-4-1 メゾンエルメス8階
information
TEL/03-3569-3300
HP/www.art-it.asia/maisonhermes