チリから日本へ。銀座メゾンエルメス『クローゼットとマットレス』展 | Numero TOKYO - Part 2
Culture / Post

チリから日本へ。銀座メゾンエルメス『クローゼットとマットレス』展


展示風景より、クローゼットを題材にしたインスタレーション
© Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès

 
その2人が、ついにあの銀座メゾンエルメス フォーラムで展示を行う。
大きく2つの空間から構成される会場へと足を踏み入れた来場者を迎える光景とは、果たして……。
 
そのひとつは、ガラスブロック外壁から透過光が差し込む空間の中央、日本家屋の縁の下に見られるような無数の柱に支えられてたたずむ、板張りの簡素な構造体。
「建築」と呼ぶには小さく、「クローゼット」と呼ぶにはやや大きく、その壁は光が透けるほどに薄くて軽く、頼りない。
しかも来場者は、靴を脱いでその内部へと上がることができる。子どもの頃の押し入れ探検ごっこのような気分とともに、作品の持つ意味を懸命に汲み取ろうと試みてみた。
 

スミルハン_4
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クローゼットを題材にした作品の内部
© Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès
それにしても……なぜ、クローゼットなのか。問題は他でもなくそこにある。
記者会見場に集まった取材陣を前に、展示コンセプトの説明が始まった。
 
スミルハン・ラディック:
「自分たちの作品づくりにおけるキーワードは、大きく分けてふたつあります。
ひとつは、自分たちのアイデンティティを構成する“過去の記憶”。
そしてもうひとつが、“危うさ、もろさ”です。私はこれまでにも『脆弱な建築』と題したシリーズを発表していますが、ここでいう“もろさ”とは、材質それ自体の強度の問題ではなく、素材の中にあるミクロなプロセスを指しています。
そしてクローゼットには、その両方の要素を見出すことができます。洋服だけでなく、個人的な思い出の品を収納することで、人の歴史や記憶を象徴する存在。壁1枚で外界と隔てられただけの、非常に簡素な空間でありながら、いわば“自分だけの隠れ家”として、現実から距離を取り、ささやかな秘密を守る場所。それがクローゼットなのです」

 
▶ 人々のミクロな記憶を湛えた、“か弱き建築”の試み
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