2010年代、写真はどこへ行く?[後編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.14
I「あまり他の国では聞かないですよね。きっとマンガやアニメの影響でしょう?」 K「大衆的な価値においては、目が小さいというのは絶対的に悪いことだという(笑)。オブセッションですよね。衣食住足りている人は料理は薄味のほうがうまいと言うけれど、労働者にとっては味は濃いほうがいいのと同じで、一種の階級格差ですよ。だからキャバクラ嬢にとっては目はデカいに越したことはないんです。さらにはホストの男の子もそうなってきた」 I「今はスマホにもそういうアプリがありますよね。仮面にも目が大きく突き出したものはたくさんありますが、『砂男』じゃないけれど、目を大きく突き出すというのは、逆に目を失うことと背中合わせなんじゃないですかね」 K「それから、最近のギャル雑誌の流行として、完璧にでき上がった写真の隣にすっぴんの写真を置いているんです。ある種の意識改革というか、絶対に見せられなかったすっぴんを見せられるようになった、というのは一つの解放になっているわけですよ。作ったほうが対外的、社会的な顔なんだから、パーソナルな顔はこれでいいんだ、という。昔だったらそれはイヤだったわけじゃないですか。なんとなく、パーソナルな顔もフォーマルな顔も同じだという不文律があったと思うけれど、別だと割り切ることですっぴんも出せるんですよね。芸事のために塗りたくる舞妓さん、あるいは京劇の役者の素顔は誰も気にしないわけで。アイドルもすっぴんをさらしていますが、これも同じように、「剥がすとこんな顔」というのが恥でも何でもなくなってきたと思うんですよね。これはフェミニズムの一環というか、女性の意識改革に属することだと思いますよ」 I「今の時代の写真と仮面とペルソナの関係って、なかなか分析しがいがありますね(笑)」
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