菊地成孔が仕掛ける「HOT HOUSE」とは/対談連載 vol.8
ジャズ界の石井館長!?として、シーンを活性化する
──菊地さんの音楽を聴く方の像には、ヒップホップもハウスも聴くというように、いろんな要素の人が集結しているんですか?
K「世の中っていうのは分離して固まっていくのとそれをまとめる人っていうように役割があって、僕の才能・能力のあり方は、どちらかというと分離しているものを集めてくる力の方があるかなっていう気はしていますね。わかりづらい例えなんですけど、K-1なんです。今では一つの競技になっちゃいましたけど、もとは空手やってる人とキックボクシングやってる人、ただ殴る・蹴るという行為だけは同じで、全然別の競技なのよ。空手、ボクシング、ムエタイ…いろんな立ち技の競技を、石井館長(石井和義・正道会館宗師)っていう大阪の空手の道場の人がお弁当みたいに盛ったんですね。その人は興行師としても才能がすごくあって、もともとは源流をたどると極真までいくんですけど、制度改革を立ち上げた人で、K-1っていう競技を作った人。最初はゲテモノ扱いされてた。でも、あらゆる競技の人が、腕試しで入ってみて、どんどん大きくなったんですよね」
I「社交の場として、30代、40代の大人たちが遊べる場が今すごく少ないということも背景にありますよね。あの場の中には、模倣したり、競争したり、賭けたり、陶酔したりするような遊びの要素をうまく配合しているところがあって。もうちょっと何か加えると、数千人くらいの規模でいけるんじゃないかなって(笑)。ツイッタ―とかSNSみたいなコミュニケーションのシステムが浸透しちゃってるから、ああいうゆるやかな身体的な場ってあまりないですよね。だから、均質なコミュニケーションのモードをほぐして、再調整していくような場が潜在的に求められてるんでしょう」
K「今は、ダンス抜きの音楽のライブでも、3.11以降はきてますね。のっぴきならない不安感があるんでしょうかね」
I「菊地さん自身はキャブ・キャロウェイみたいに踊るジャズはやらないんですか?」
K「チークタイムの歌とMCしかやらないです。演奏ゼロです。演奏しちゃうと、僕のライブみたいになるんで、それだと全然意味ない。僕はプレゼンツしているだけで、演奏家ではないんだっていう立場ですよね。それに僕じゃなくても優れたビーバッパーはいっぱいいるんで。彼らをプレゼンテーションするっていう意味合いもあります。それがジャズ界の活性化にもなるし。ジャズ界もアップアップで、どんなにビーバップの良い演奏しても、「ピットイン」には5、6人しか来ないという状況がガチガチに固まっちゃってるんで。これを双方向的にほぐさないと」
I「ビーバップのジャズメンたちはダンスミュージックになることへの抵抗感はないんですか?」
K「そこは僕が石井館長たる所以で、僕になら預けられるなという状況があるからやってるんです。訳わかんないヤツに呼ばれていって、嫌な思いして帰ってくるのも嫌じゃないですか。「菊地さんが言うならば、話もわかるし、いろんなことを知っているし、悪いことにはならないだろう」という漠然として信頼によって、いろんな人がまとまっていると思うんですよね」
I「スウィング時代にはわずかなお金で、ビッグバンドが演奏するダンスホールへ行って、一晩中楽しむことができた。お金がなくても楽しんで踊れて、日々の不安や不満を解消できた。そんな場がつくれるといいですね」
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