菊地成孔が仕掛ける「HOT HOUSE」とは/対談連載 vol.8 | Numero TOKYO - Part 3
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菊地成孔が仕掛ける「HOT HOUSE」とは/対談連載 vol.8

現在のダンスシーンの原型は、ヒップホップにあり
 
I「スウィングの時代に、ワルツとかフォックストロットとか、ルンバやタンゴとかいろんなスタイルのダンスのコンテストを同時進行させてたハーベスト・ムーンボールなどのダンス大会がありましたが、ああいう大きなスケールでやってみたいとは思わないですか?」
 
K「あれはアメリカ的でスペクタキュラ―な。あんなに大きくなくてもいいけど。このパーティは、アモーレ&ルルさんというカップルをインストラクターとしてチームに入れているので。彼らも400、500人の規模でインストラクションしたこともなかったみたいで、びっくりしてましたね」
 
──5月に青山の「CAY」でやったときはどんな客層でしたか?
 
K「ソロダンサーがいっぱい来てて、すごかったですね。ソロバトルな感じがありました。ダンサー的にみると「CAY」は奇跡のフロアで、リンディホップのカップルダンサーとソロダンサーがフロアの真ん中の「沼」と呼ばれるところでバトルを始めたりしました。沼が出来るのは良いフロアっていうね」
 
I「そういう人たちがパーティで目立って、メジャーにピックアップされる仕組みがかつてはありましたよね。客席から彼らを見てて、『彼らは廃馬を撃つ』っていう、ホレス・マッコイ原作、シドニー・ポラック監督の映画を思い出しました。ちょうどあれ1935年くらいの小説で、公開されたのはちょうど1970年で、村上春樹が書いたりしてる、有名なアメリカ映画(邦題『ひとりぼっちの青春』)です。ダンスマラソンというイギリスから伝わったダンス形式で休みなしで何時間も踊り続ける。なんとか目立って名前を売ろうとするダンサーや芸人の卵がたくさんやってくる。売れないハリウッドのエキストラにもなれないジェーン・フォンダとマイケル・サラザンの2人が、何日間も踊り続けて、最後には足をけがしてジェーン・フォンダが男に「殺してくれ」って言っちゃう。それで、『彼らは廃馬を打つ』というタイトルなんですけど、当時のスウィング時代の死のダンスの雰囲気が濃厚にたたえられていました。最長記録は5148時間とか」
 
K「賞金目当てとスカウトされていっていう人たちのダンスマラソンですね」
 
I「それも結局、今の時代に重なる。1929年の大不況以降の不安定な社会を反映していたんでしょうね。ダンスマラソンまではいかなくとも、連続してゆくと面白いですね」
 
K「パーティはサーキットを想定していて、基本的には国内を回りたいんですね。大阪、博多、北海道、それぞれにダンサーのシーンがあって。且つ、各地にグランドキャバレーが点在しているので、それを使ってグルグル回るという。あとは北東アジアですね。ソウルが今リンディホッピングが一番熱いんで。在韓米軍があるからかな。米軍があるところは米兵カルチャーが強い。だから、ソウルは強いし、バンコクも強いはずなんだけど、在バンコク米軍が残したものと言えば、ロリコンとかポールダンスとかになっちゃうんだけど」
 
I「韓国ってキリスト教の人たちが多いしね」
 
K「これは僕と大谷(能生)君の独特な視点なんですけど、結局すべて逆算するとヒップホップなんですよ。だから、あのパーティを行った僕と大谷君は、えせラッパーですけど、ヒップホップのマナーでラップをするんだっていう、コントみたいなシーンも入っているわけなんです。韓国のダンスシーンが熱いっていうのも、結局ヒップホップが熱いっていうわけ。だから底上げされていて、例えばアメリカでヒップホップのダンス大会があったりすると、準々決勝なんかは日本と韓国ですね。マイケル・ジャクソンとマドンナが取り合ったといわれるケント・モリとか。そういうシーンが独自にジャズカルチャーとしていっているんじゃなくて、やはりヒップホップなんですよ。世代的にも、70年代ロンドンのジャズパーティを知っている世代はもういい年ですから、今のソロダンサーはマナー的にはロンドンのマナーなんだけど、カルチャーとしてたぶんヒップホップ経由で入っているんですね。要するに、90年代のクラブジャズやアシッドジャズっていうのは、元をたどると、ロンドンのDJがビーバップを回してもいけるということからどんどんいったんだけど、ただフューチャージャズ、アシッドジャズは、つまるところブラジリアンハウスみたいなものになっていって、本当に4ビートでバシバシなことは、ある時からやめちゃったんですね。だから、今クラブジャズのDJといっても、ビーバップは回さない。4つ打ちどんどん入ってるから。ヒップホップはまたハウスとも別じゃないですか。ヒップホップにはブレイクダンスの流れもあって、動きがものすごく激しいですね。だから、ヒップホップ文脈の中からジャズの方にきたという人たちも多いと思いますね」
 
I「菊地さんがパーティで流していた映像では、ヒップホップもストリートダンスもほとんど一緒になってるじゃないですか。なんか、いろんなダンスがその角を保ったまま、なだれ打ってくるような…」
 
K「あらゆるミクスチャーは何でもそうですけど、よく見るとキメラとはいえ無秩序ではなくて。ロンドン式のブレイクダンスが入っているとか、同じロンドンでもゲイカルチャーの人たちはモダンバレエの色彩がものすごく強いとか、いろいろとあるんですよ」
 
I「モダンダンスの流れもあるそうですが、そのパーティの場が、いろんなダンスの無差別バトルみたいになって、そこから優れたダンサーやミュージシャンが技を競い合うことでどんどん洗練されていったり、異種交配していくような可能性はありますか?」
 
K「僕はダンサーではないし、ダンスカルチャーとも直接コミットしていないんですよ。僕がコントロールできるのはステージ上で、フロアではとりあえずアモーレ&ルルさんに任せてあるんです。ただ、彼らは彼らの中で、パーティ間の繋がりがあって、ソロダンサーを連れてきてくれたりして、島宇宙化しているものをまとめてくれています。それが、どういうふうに緊張状態になるのか、良い状態になるのかはまだ手探りでやってますけど、回を重ねるごとに、あのジャンルのあの人っていう、ダンス界の有名人がくるようになりましたね。前回は、バルボアっていうリンディホッピングより体の密着度の高い踊りなんですけど、日本におけるバルボアのNo.1カップルの2人も来てくれて。普段ビーバップでは踊っていないと思うんですけど、今回はそれで踊ってまして、すごく良かったですね」
 
I「ほとんどアーキペラゴ状態になって、島から島へ飛び移っていったりするんですね。視覚的にも上の客席から見ていて面白いです」
 
K「本当は、クリント・イーストウッドの『バード』という映画があって、チャーリー・パーカーの伝記なんですけど、映画自体はビーバップショウ用の映画なので、パーカーがジャズをダンスミュージックからアートに変えたということをいってるんですけど、南部に行くと黒人ばかりがいるんで、彼らはビーバップを聴いてもまだスウィングのつもりで踊っているんだってネガティヴに描いているんです。1階席のフロアでは黒人が踊りまくってて、2階では白人が悠々と座ってブランデーでも飲みながら聴いてるんだっていうシーンがあるんですけど、ああいうのはパルコ(貴賓席)みたいなのもあって、それは結局ウィーンのワルツとか舞踏でも一緒なんだけど、上に座って悠々と見ている人と、フロアで踊っている人が階層になっているというのが必要で、本当はパルコがあるのがいいダンスフロアなんですね。昔のグランドキャバレーはみんなそんなふうに出来ているんですけど、ディスコ以降はそういうのではなくなっちゃったんで。7月、日本橋三井ホールでやった時は、後ろの席が昔で言うところのパルコで前がフロアだった」
 
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