菊地成孔が仕掛ける「HOT HOUSE」とは/対談連載 vol.8 | Numero TOKYO
Culture / Post

菊地成孔が仕掛ける「HOT HOUSE」とは/対談連載 vol.8

多彩な肩書きを持ち、音楽、映画、グルメ、ファッション、格闘技などボーダレスな見識を披露するアーティスト菊地成孔と、写真、先端芸術からバリ島文化まで幅広く専門とする、美術史家にして東京芸術大学美術学部教授の伊藤俊治。アカデミックな2人が、世の中のニュースや日常の出来事、氷山のほんの一角の話題をダイナミックに切り崩しディープに展開する、かなり知的な四方山話。
 

Vol.8 菊地成孔が仕掛ける「HOT HOUSE」とは 久しぶりの更新となる第8回は、菊地成孔がホストを務めるビーバップのジャズの生演奏に合わせてカップルダンスを踊るというユニークなダンスパーティ「HOT HOUSE」がテーマ。なぜ今、ダンパなのか。歴史の中で忘れられてしまった本来のジャズの楽しみ方や、男女のペアダンスの復活を目指し、提案していること、発信したいこととは何か。今後の発展の形はいかに。パーティに参加した体験談とともに、「HOT HOUSE」の全貌を本人に直撃。

  カップルダンスの復権を目論む、出会いの場   ──本日のテーマは菊地さんの主催するダンスパーティ「HOT HOUSE」について。これはそもそもどういったパーティなのか教えてください。   菊地成孔(以下K)「最大の特徴は、ジャンルごとにバラバラに島宇宙化した各シーンをある程度雑にまとめていることなんですよ。カップルダンスの中にもリンディホップとかバルボアとかいろんなものがあって、ソロダンスはソロダンスで、ラテンはラテン、それらが各々別のイベントになっています。シーンがバラバラになっているので、ある程度以上大きなパーティにはならないんですけど。それをガ―ッとまとめちゃってるっていうのが特徴だっていうのと、まとめる場合、バラバラになっているシーンは音楽も決まってるんですね。だから、どれかの音楽でやると、誰かがよそ者になってしまうので、どの派閥の音楽でもないということで、オリジナルビーバップをやっているんですよ。そうすると、普段スイングで踊っている人も、クラブジャズで踊っている人も来られるというわけなんです、大雑把に言うと」   ──最近のクラブシーンに対して何かもの申したいということもあるのでしょうか。   K「ここ最近のクラブシーンと言っても、90年代まで戻る。もの申すというわけではないんですが、いつのまにかyouthはカップルダンスを忘れてしまって。ソロダンスになってるじゃないですか。それはヒッピー以降のユニセックス化と歩みを一つにしていて。カップルダンスっていうのは、性差のハッキリしたもので、男が女を引っ張って、男がリーダー、女がフォロワーっていうアメリカの男尊女卑な感じなので。ファースト・サマー・オブ・ラブ以降は男女の着る服に差がなくなって、カップルダンスがアメリカからなくなってしまった。youthっていうのはみんなバラバラに好きに勝手に踊るようになって、そのまま戻らないですよね。カップルダンスの復権というのはないので。それをやっている人は単に盆栽みたいに好事家の楽しみとしてやっている状況がずっとあったんです。とにかく、特殊なことをしている人たちだということになっていて、一般化する動きは全くなかったですね」   伊藤俊治(以下I)「非常に多様性に満ちていて、とても柔軟性のあるシーンができあがっていましたね。カップルダンスって聞くと社交ダンスが思い浮かびますが、もっと自由で、即興的で、しかも決まったパートナーじゃなく、どんどん相手が変わっていくということで、新しい「出会い系」という側面も持っているのでしょうか」   K「パートナーがどんどん変わっていくっていうのは、僕が投入したものではなく、リンディホッピングのマナーで。リンディホッピングっていうダンス自体はリンドバーグの『大西洋横断飛行』の凱旋パーティの時に、人々があまりにびっくりして歓喜で狂ったように飛び跳ねたんですね。リンディホップって言って。つまり「リンドバーグホッピング」ですね。   フランキ―・マニングという人が、『ヘルザポッピン』っていうキューブリックに影響を与えたと言われる気狂い映画があって、その中で伝説的なリンディホッピングのダンスを披露するんです。フォーム自体は決まってるんですけど、ものすごく粗いんですよ。エアーと言って、空中にパートナーを投げ飛ばしたりする半ば暴力的なダンスで、それまでのフォックストロット、チャールストン、チャチャみたいにエレガントなものではなかった。だから、今リンディホッピングやるとステップも決まっているし、相当エレガントというか、フォーマルに感じますけど、30年代当時、リンディホップは他の社交ダンスに比べて、ものすごくワイルドだったんです」   I「リンディの象徴と言われている「エアー・ステップ」(ダンサーの両足が床から離れたムーヴメント)も、ハリウッド映画の撮影用に生まれたと言われているし、とても“カメラの眼”を意識したダイナミックなダンスですね。ブンブン振り回すし。レッスンの時に、女性をモノのようにして扱うようにと言ってましたが、女の人はモノのように扱われて気持ちいいのか聞くと、そうでもないっていう…(笑)」   K「ただ、パートナーチェンジすることが、昔は男尊女卑で行われていて、女の人がマッチョなホモソーシャルの中でグルグル回されているみたいなイメージだったんですけど、僕のパーティでは、女子の方から誘っていいということを最初に謳っていて。あれは現代的な読み替えで、女の人から男の人に「踊って下さい」と言うのは、本来はすごく下劣なことなんですよ。でも、それをOKとすることで、現代的には出会い系の側面も持っているということですよね」   ▶続きを読む/再び踊るジャズへ、ジャズの変遷

Profile

Magazine

DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

Gift of Giving

ギフトの悦び

オンライン書店で購入する