幼稚化された時代が求める「いい女」とは?[後編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.10 | Numero TOKYO
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幼稚化された時代が求める「いい女」とは?[後編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.10

多彩な肩書きを持ち、音楽、映画、グルメ、ファッション、格闘技などボーダレスな見識を披露するアーティスト菊地成孔と、写真、先端芸術からバリ島文化まで幅広く専門とする、美術史家にして東京芸術大学美術学部教授の伊藤俊治。アカデミックな2人が、世の中のニュースや日常の出来事、氷山のほんの一角の話題をダイナミックに切り崩しディープに展開する、かなり知的な四方山話。

 

Vol.9 幼稚化された時代が求める「いい女」とは?[後編]
萌え文化の発展、アイドル時代の再生etc.「少女趣味」が違和感なく蔓延する日本のカルチャー。そんな背景の中、男性たちはこのまま「少女趣味」に向かい続けるのだろうか? 今の日本でモテる「いい女」とは… 時代が求める女性像を探る。
[前編]はこちら

 

日替わりで「男」と「女」をコスプレしている
 
──学生を見ていて感じる事はありますか?
 
伊藤俊治(以下I)「感じるのは、性の流動性ですかね。男と女という考え方が消失しています。性の中間、男と女の間を個人が揺れ動いていると思います。デファンクト・セックス(機能を失った性)という言葉がありますが、まさに性が浮遊している感じ」
 
菊地成孔(以下K)「ジェンダーは転倒というか、ぐだぐだですよね。それは性的表徴だけではなくて精神的にも。昔の言葉で言うと、全員ユニセックスと言える」
 
I「しかも、昔通用していた男と女という軸に、今はさらにメディアの次元軸が入っています。2次元、3次元、4次元を行ったり来たりしながら、性までもさまよっているので、ユニセックス化がより多形になっているんだと思います。性的なイメージって歴史の中でラジカルに変化して行くものじゃないし、今もそのイメージ自体は残っている。でも、メンタリティの方は結構大きく変わっていると思いますね」
 
K「ジェンダーの転倒に関しては、すごく巨大な、北東アジアとかアメリカ北欧を巻き込んだ文化圏の移動。男性は男性っぽさをコスプレして、女性は女性らしさをコスプレしてっていう時代は終わって、あまりスキャンダラスでもなく、メンタル的な性別をコントロールできる。「今日は女性キャラのコスプレね」、「今日は男性キャラのコスプレね」ってことが可能なんですよ。21世紀なんだから転倒もするんだろうさ、という根拠のないままに」
 
I「そうなると今は、男の人がどういう女の人を求めるのかという問題設定が成り立たなくなって行っているのかもしれないですね。それは一方通行だし、現状の時代状況とマッチできない状況が生まれてくる」
 
K「モデルケースとしての大きな傾向がなく混濁している。男女という、今まで対立化していたものが融合した上、さらには多様化しちゃってますから」
 
I「女性像が設定できないのだから、男性像も設定できなくなっていますよね」
 
K「例えばモテ指南本みたいなものにも矛盾が生じますよね。ある程度の男性像が設定されていて成り立つものだから。一種の幻想で矛盾で、かといって0ではない。雑誌のモテ特集をチェックしている女性を好きじゃないという人もいるし、モテ特集を読んでいる上目遣いの女子が大好きな男もいて、彼らが同じテーブルで酒を飲んでるんですよ。あの人いい、そうでもないと言い合っている。それも深いものじゃなくて、今日はあの人がいい、今日はあの人が好きみたいな。これは仮説ですが、具体的なコミュニケーションとしてのセックスが減ってしまっているからだと思うんです」
 
I「男って肉体的な交接がなくてもイマジネーションできる生き物。男性の性的思考って、実体的な女性のイメージだけが全てではないから。今回の文脈で言えば、ありうべき女性像というのが決定的なイメージとして結べなくなった替わりに、フィジカルな思考へ分散していっている気がしますよね」
 
K「それが萌ですよね。物質性を伴わずに興奮できる。性的な興奮具体的なものを経由しなくなるんじゃないかという読みは、昔のSFからあるじゃないですか。頭の中だけで興奮していくんだという未来に、近づいているんじゃないですか」
 
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